『二重生活』 ロウ・イエ監督のトークショー付きで見た!
本妻と愛人という、2つの家庭を持つ男ヨンチャオ。私は正直、リアルでこんな日本人を知ってます。いつも愛人と飲みに行ってて、自宅には週一しか帰らないらしい。金があるから出来ることだけれど、愛人は愛人で苦労もあるんだろうな。でも、それぞれが満足しているなら、もういいんじゃないのそれで、と思ったりもする。などと言っても、自分が本妻と愛人のどちらかの立場だったらどちらも苦しそうでやっぱり嫌だわ。ただ、こうした道徳的価値観も一夫一婦制だから許されないことであって、イスラム教徒だったら普通にそうしている人も居るものね。
この作品は、そんな女の恐ろしさを描いたサスペンス、とも言えるかも。
ロウ・イエ監督×栗原類のトークショー付きで見た。『天安門、恋人たち』から追いかけてるロウ・イエ監督、本人の話が聞けて嬉しかった!ロウ・イエ監督は、話しながら終始視線を下に置き、会話の相手と目線をほとんど合わせない人でした。意外にシャイ?!
今回は、中国からの謹慎五年間が解けて初の作品ということで、中国人の普通の生活を描いたそう。そして取り上げたのが、一般人のブログ。彼女の身に起きた私生活をドラマタイズし、中国が現在抱える社会問題を盛り込んだ、とのこと。
ロウ・イエ監督の描く物語はいつも、“物語を発見する喜び”がある。冒頭で分からなかったことが次第に物語を形作っていき、その背景や人物の心理が少しづつ見える。そして中盤ぐらいでようやく全体像がその輪郭をハッキリとしていく。そこには観客が確かな手応えを感じ、見つけていくべきものがある。主人公に思い入れを与えようとせず、あえて登場人物のそれぞれの視点から見た物の見方という、多様性のある視点を描く。だからきっと、どんな風な感想を抱くかも観客それぞれで違ってしまいそう。こうした寛容性がまた魅力。
ドキュメンタリータッチを意識して撮ったというだけあって、いつもに増して酔うカメラ。でもフォーカスばっちり合ってます。深度浅めの人物アップが続く。ラスト辺りでのルージエの大映しでは、右目にフォーカス→左目にフォーカス→また右目にフォーカスという瞬間もあった。おお!
この先、ネタバレで語ります************
一番かわいそうだったのは、偶然そこに居合わせただけで殺されてしまった尻軽な大学生。最後に彼女の幽霊が登場し、供養されるのはせめてもの救いか。
いずれにせよ、“女の嫉妬は怖い”という話が好きなんですよね、私。…自分がその手の女だから!?…いやいや、皆本性は似たり寄ったりよ。自分にとっては、“何があっても好きな男を手放さないのが正解”とは思うけれど、愛人だったサンチーがこの泥沼関係での“勝利者”と言えるかどうかは疑問だよね。だって、ヨンチャオはいつまた浮気をするとも言えないもの。あんな浮気男を一生懸命愛したところで報われるのか。ああ、恋愛って苦しいばかり。生きるのも苦しいばかり。結婚すればサッサと恋愛の面倒臭さに引退出来る、みたいにシンプルに生きれたらいいけれど。もちろん、そうはイカのきんた(ry
’12年、中国、フランス
原題:浮城謎事 Mystery
監督:ロウ・イエ
脚本:ロウ・イエ、メイ・フォン
撮影:ツアン・チアン
音楽:ペイマン・ヤズダニアン
キャスト:ハオ・レイ(ルー・ジエ)、チン・ハオ(ヨンチャオ)、チー・シー(サン・チー)、ズー・フォン(トン刑事)、ジョウ・イエワン(チン・フォン)、チャン・ファン(ユアンシャオミン)、チュー・イン
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コメント(5件)
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とらねこさん☆
略奪愛の話!?
どちらがいいかと言われたら、1週間のほとんどを奪われる妻より、肝心なところは奪えなくとも人様から奪えている愛人のほうが優勢のような?
そして男を略奪できた女が、のちにその男の浮気を心配するよりは、女のほうが、略奪した段階でもう満足して飽きてしまいそう。
その時は人生最高の人と出会ったとか思い込んでいても。
それにしても栗原類くんも目を見て話さないから、いったいどんなトークショーだったのかしらね(爆)
「二重生活」
待ち望んでいたロウ・イエ監督の新作!何故待ち望んでいたかというと、私が初めて観たロウ・イエ監督の作品は「スプリング・フィーバー」で、大変衝撃を受け次回作に期待を寄せたも…
ノルウェーまだ〜むさんへ
おはようございます〜♪コメントありがとうございました。
そうなんです!これ、略奪愛の話。
確かに、形ばかりの妻であるなら、愛人でいた方が良さそう。
ただ、初めはそれでよくても、何も文句を言わずにずっとこの立場の愛人で居るのって難しそう。
なんだかんだ、「このままじゃいけない」という気持ちに、時間が経てば経つほどなってしまうんじゃないかな、と思う私です。
だって、あまりに正妻が可愛そう…。
略奪愛は、きちんと略奪出来た時点で、「自分の勝ちだ」という実感がありそうね。
でも、いつも足りないものを求めてしまうのが人間で。。
ノルさんの仰る通り、手に入ってしまったらもう別物に感じてしまいそう。
栗原類、意外にも知的で良かったですよ!もともと映画が好きなのか、ちゃんとこの監督の前作を見てトークショーに臨んだようだったし。
映画に詳しい、いかにも映画好きの人が言いそうな、どこかで借りてきたような表現ではなく、
自分の頭で一生懸命考えた言葉を探している感じがしました。
とらねこさん、こんばんは。
多様な視点から見つめながらも雑多になっていないのが特徴的ですよね。
まとまっているわけでもないんだけど、放置しているわけでもなく、
流れるように描いている感じかな?
現実には“男の嫉妬”もなんだかなって思うこともあるんだけど、
映画では“女の嫉妬”が強調される作品が多いですよね。
“女の嫉妬”のほうが目に見えて伝わりやすいからなのかな?
確かに、恋愛は楽しい事ばかりじゃないし、プロセスはめんどくさい事だらけですよね。。。
だけど、全く恋愛なしでは生きていけないのも人間のサガなのでしょうね。
BCさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
『天安門、恋人たち』からロウ・イエ監督を追いかけて見ている…というところで、オッ♪とついつい反応してしまいました。
去年の公開作、『パリ、ただよう花』は新年一発目に見た映画で、こちらもロウ・イエ監督だったのですが
今年もまた年始早々の公開でしたね^^
BCさんのロウ・イエ監督に対するスタンスに共感して、嬉しくなりました。
確かに、男の嫉妬よりも女の嫉妬の方を恐ろしく描くことが多いかもしれませんね。
私はそんなコワ〜イ話が大好物だったりするのですが(笑)
本当!割り切れないような激しい情念を、流れるように自然に描いていますね。
ひと通り経験すれば、「恋愛なんて…」という気持ちになれるのかもしれませんが、業の深い人間ほど情念に溺れるのでしょうか。