『トラッシュ! この街が輝く日まで』 “正しいこと”の台詞に引っかかりを覚えた…
やりたいことは『シティ・オブ・ゴッド』を再び!だった。確かに、それはある程度成功している。何よりあの作品に似ているものなんて思いつかなくて、せいぜい『シティ・オブ・メン』、『ファベーラの丘』辺り。たとえあの作品ほどのインパクトは無くても、思わず彷彿とさせるような、どこからみなぎってくるのか良くわからない新しいパワーを感じたり、目の覚めるような作品に出会いたい。そんな私達の願いを、ある程度まで満足させてくれるものになっていた。
ところがこの作品構成の弱さを考えるなら、ちょうどそこの部分、つまりシティ・オブ・ゴッドとの比較で語られるその部分こそが不満を感じた点であったように思う。それは脚本にしても物語のフックにしてもそうで、『シティ・オブ・ゴッド』が描くことを勇敢にもやめてしまった部分、もしくは無いものとして取り扱っていた“この世界の常識”。これに照らし合わせて少年達の人生を鑑みる、こうしたことのキッパリとした拒否から、『シティ・オブ・ゴッド』は物語の無慈悲さと少年達の運命が対比され、目が覚めるほど恐ろしく眩しいものとして描かれていた。この世界から切り離されたかのような断絶感と、常識をぶっ飛ばす小気味よさ。あの世界観にぶん殴られたかのように、自分には思えた。ものすごい衝撃。
ここで描かれた少年たちも、おそらくは自分達が全く手にしたことのないこの世界の常識的価値観を、持たないが故にあそこまで勇敢に動くことが出来た、…と、こう描こうとしていたのだろう。しかし、では何故あの少年たちはあそこまで執拗に“正しいもの”を信じ、自分たちの命すら賭けることが出来たのだろうか。この辺りの価値観が、どうも見ている我々の目線と同じ問題を抱えている、つまり何が正しくて何が正しくないかということを常に念頭に置いている世界であるように思えてしまった。物語冒頭で少年たちは、自分たちの利害のためにあの財布を隠した。そうした思いがいつ、利害ではなく世界の真実のためにそれらを突き止めようという行動になっていったか。それがいつしか「正しいこと」を彼らが選び取ろうとしているという描写へとすり替わっていく。この辺りの描写に少しだけ無理を感じてしまった。“正義”をこの作品のスパイスとして振りかけてしまったために、少年たちの未来をあえて明るいものとして描こう、描こうというバイアスがかかっているように思えた。それらは自分には余計なものとして、何故か微妙な味わい、歯がゆさを感じさせる手応えに感じさせてしまった。第三世界にいる彼らの本当の姿を見ることなしに、美しい夢だけ見ようとしている先進国の勝手な想像力。…そう思うのは、あまりに絶望的な物の見方だろうか。
’14年、イギリス
原題:Trash
監督:スティーブン・ダルドリー
製作:ティム・ビーバン、エリック・フェルナー他
製作総指揮:フェルナンド・メイレレス
原作:アンディ・ムリガン
脚本:リチャード・カーティス
撮影:アドリアーノ・ゴールドマン
音楽:アントニオ・ピント
キャスト
リックソン・テベスラファエル
エデュアルド・ルイスガルド
ガブリエル・ウェインスタインラット
マーティン・シーンジュリアード神父
ルーニー・マーラオリヴィア
バグネル・モーラジョゼ・アンジェロ
セルトン・メロフェデリコ
ネルソン・クサバー
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コメント(4件)
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自分たちへの利害を恐れていたはずなのに、いつの間にか当たり前の正義の行動へとすり変わる。
お~、まさにそこですよね!
誰が見ても正しいことをやってるんだけど、それを観たくてこの映画をチョイスしたんじゃないですし(笑)
『シティ・オブ・ゴッド』、これ未見なのでチャンスがあれば、いちどチェックしたいです。
itukaさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
そうなんですよね〜。なかなか見せるし、面白いシーンはたくさんあるんですが、いつからか正義の話になってしまうのに、もう一つ何か納得させるものが欲しかったように思います。
『シティ・オブ・ゴッド』は、自分達の全く知らない違う世界の人間たちが、違う世界のルールに従ってそこで必死に生きているんだな、という、そこがガツンと来る作品でした。
こちらの作品に関しては、いかにも“西洋世界”の人たちが安心して見ることの出来る、ファベーラの子供達…という印象が拭い去れないんですよね。
もしよろしければ、是非見てみてくださいませ!『シティ・オブ・ゴッド』は、日本での公開は’03年でしたが、私はこの年のベスト1位にしました!
とらねこさん☆
確かにご都合主義なところが多い作品だったけど、「シティーオブゴッド」が大大大好きな私も、この作品はとーっても気に入っちゃったわ♪
「シティ~」が『無慈悲な現実』を描いた作品とすると、こちらは『こうあってほしい希望』を描いた物語なのでしょうね。
案外子供というものは、本来人間の持っている「正しい事」しようとするものだという点で、私は違和感感じなかったwa☆
ゴミは拾うけど、人から奪うことをしない彼らは、やっぱり日々教会に通っていただけのことあるなーと思ったり☆
ノルウェーまだ〜むさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
ノルさんはお気に入りになりましたか!なかなかおもしろかったですよね。音楽なんかもいかにもブラジルのHIPHOPで、私の好きな辺りでした。モンタージュなんかもそれっぽくしてて。
ただ、途中から少し中だるみしてしまい、あまりハマれなかったかなあ…。
キリスト教の存在をチラリと見せて、「それで正しいことを少年たちがした」、という姿勢そのものが、キリスト教圏の人らしい安易な作りだなあと思ったりも。
私はスティーブン・ダルドリーが、もしかしたらさほど好きではないのかも。