新たな古典 『悪童日記』
なんて素敵な怪作なんだろう。
狂った時代の、狂った兄弟とその家族の物語。
新作映画でありながら、“古典”のような貫禄。
きっとまたいつか、彼らに会いたくなりそう。
原作の力が大いに発揮されているのかもしれないけれど、言葉の力に頼らず、映像で魅せてくれた。
不穏な音楽に心を掻きむしられ、彼らの耐えている寒さに、ひもじさに、精神的不安感に苛まれながらの鑑賞なのに。
いつかの自分に出会ったような気になる不思議。
きっと、自分も同じことをしたような気がする。
肉体の弱さに、痛みに耐えられる訓練をしたような気がする。
綴りや言葉は聖書からのみ学び、生きる術は全て自分達だけで学び、
人間の残酷さには母親と祖母から学んだ双子。
痛々しくて、まっすぐで、乾いていた4つの目。こちらを凝視する目線には、何の嘘偽りもない。
この先、ネタバレ**************
しかし、絵になる兄弟だな…。
やり過ぎだったのは、差別主義者だった綺麗な若いお姉さん(おっぱいが美しい)を、ユダヤ人を愚弄したという理由で、彼女の顔を滅茶苦茶にしてしまったこと?
否。
…だってナチスは、ユダヤ人であるというだけで彼らを大量に虐殺している時代だ。その比ですらない。
彼らは、環境から誰よりもその原理を学んでしまっただけ。
「十戒など、誰も守ってない。“汝殺すなかれ”と言うけれど、皆殺し合ってる」。
彼らの人生をまとめれば、
自分たちを捨てた母親を、今度は自分たちから捨てた。
その母親は目の前で殺され、一緒に赤ちゃんだった妹も殺された。
病に冒された祖母の死の手伝いをし、
父親も目の前で爆死した。
その死を利用し、まさしく死体を乗り越えての越境。
自分の一部ですらあるような存在だった、双子のもう一人との決別であるラスト…。
なんてこと。
言葉も無い。
見事すぎる。
’13年、ハンガリー、ドイツ映画
原題:A nagy fuzet
監督:ヤーノシュ・サース
製作:サンドル・ソス、パル・サンドール
製作総指揮:アルベルト・キッツラー、ジェルジ・ズーフ他
原作:アゴタ・クリストフ
脚本:アンドラーシュ・セーケル、ヤーノシュ・サース
撮影:クリスティアン・ベルガー
音楽:ヨハン・ヨハンソン
キャスト:アンドラーシュ・ジェーマント(双子)、ラースロー・ジェーマント(双子)、ピロシュカ・モルナール(祖母)、
ウルリッヒ・トムセン(将校)、ウルリッヒ・マテス(父)、ギョングベール・ボグナル(母)、オルソルヤ・トス口(蓋裂の娘)他
2014/10/23 | :文芸・歴史・時代物 ハンガリー映画
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男子2名
糞ババア
隣の兎唇姉さん
司祭
司祭んとこの姉さん
ナチ将校
お母さん
お…
とらねこさん☆
相当気に入ってますね!
ちょっと予定が合わなくて観れなかったけど、やっぱり見てみようかなぁ~
見事すぎるなんて!
ノルウェーまだ〜むさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございます
そうですねー、すごく変わった映画だったので、誰にどうオススメしてよいのか分からないのですが、
私はかなり好きでした〜!
私と何となくセンスの合う、ノルさんの娘さんならお好きだと思います♪
ども。こちらにも。
ああ… 確かにおっぱいはもったいなかったね… あれは原作にもあるエピソードなんだけど
第二部にあたる『ふたりの証拠』ではまたあっと驚く展開が待ってるのでよかったら読んでみて
沼津の映画館でゆでたジャガイモ食べながら観たんだけど、この映画の荒涼とした雰囲気のせいかやけにおいしく感じられたのが記憶に残ってます
SGA屋伍一さんへ
こちらにもありがとうございます♪
そうそう、第二部って映画になるんでしょ。そっちも楽しみにしています。
綺麗なおっぱいのお姉ちゃんのことだけれど、私は彼女を、あまり深い考えが及ばず差別意識を刷り込まれ何の疑問も抱かない、愚民の象徴だと思う。つまり、ナチスに肩入れする卑怯な人間たちの代表として描かれているのね。
綺麗なお姉ちゃんであるかないか、自分に優しくしてくれたかどうかで兄弟の考えが変わるような甘いものではないのだ、と。当時の歴史的背景からすれば、読んだ人全員が心から驚く描写だったのではないかな。
うん、この映画、ジャガイモ食べてたね。私はこの映画は、見終わった後ひたすらスープが作りたくなって、毎日のようにスープ飲んでました。