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家族の恥をあえて 『物語る私たち』

monogataru自分に起こった出来事をドキュメンタリーにする、って相当なタマなんじゃないかな。
監督であるサラ・ポーリー自身に起こったドラマティックな出来事。かつ、普遍的とも言える“どの家族にも起こりうる”事件。

今は亡き母が“墓場まで持って行った事実”があり、
残された者達が母について語るインタビューの中で、それらが浮かび上がってくる。
ずっと噂で言われ続けた、彼女の出生の秘密が。

ショックが訪れて揺らぐ一家と、その愛情の行方。
手法はあくまでも映画文法に則っていてドラマ的。

向こうのドキュメンタリーの考え方って、“起こったことを再現してみせる”というやり方がドキュメンタリーの形式の一環と考えられているようだ。
この作品では、父親自身の手によって書き起こされた文でもって、
起こった出来事と彼のありのままの感情が読み上げられる。
この言葉たちが、父親の確かな愛情で彩どられていて、それらが作品の基底に流れる。
これがとても温かくて、心を打つものとなっている。

さすがにさほど意味のないカットを、フェイクドキュメンタリー的に繋げるというようなシーンは無く、
一方様々な家族の感情や、この出来事の同心円状に居た人々の様々な感情もあって
ともすればとっちらかって行きそうになるものを、一つの家族の愛情の物語として、一本の太い芯で繋ぎ止めている。
(お父さんを冬にプールに漬けたのは完全に要らないと思うけどw)

出生の秘密は今や公然の事実となった訳だけれど、
そこにはしっかりとした愛情があって、それらの出来事が家族の絆を壊すことはなかった。
そんな物語になっていた。

ただ正直、この事実が浮上し、人々の感情の処理を終えた後、そこに中心人物たちがこれをどう取り扱うかで、また揉める。
この交差する思いについては、もはや蛇足気味に感じられた。
言わばこの物語を“誰が語るに相応しいか”で対立している様が描かれているので。うん、要らないよねこれ。

事実が連なっていくからこそ、物語の止め時が難しい…かな?

ネタバレで語ります******************

この作品について、「フェイクドキュメンタリーじゃないか」と言っている人達が居たのだけれど、私は完全なるフェイクだったと思っていない。
つまり、墓場まで秘密を持って行った母親が、この事実を生前に隠していたのは本当であったと思う。

それにしても、ラストの一言は酷い(笑)
美しく終わるところを台無しにしている。これまた、“事実”なりし…ってか。

’12年、カナダ
原題:Stories we tell
監督・脚本:サラ・ポーリー
製作:アニタ・リー
製作総指揮:シルバ・バスマジン
撮影:イリス・ン
音楽:ジョナサン・ゴールドスミス
キャスト:マイケル・ポーリー、ハリー・ガルキン、スージー・バカン、ジョン・バカン、マーク・ポーリー、ジョアンナ・ポーリー、サラ・ポーリー

 

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コメント(2件)

  1. こんにちは。
    この映画観たかったんですけど、上映館がわからなくて未見です。
    サラ・ポーリーの作品は好きです。(家族間の愛憎を優しく表現?)

    先日観た「アルゲリッチ 私こそ音楽」は完全なドキュメンタリーでしたが、娘が撮った作品のせいかリアリティがありました。アルゲリッチ演奏の著名なピアノ曲も圧巻!

  2. cinema_61さんへ

    こんばんは~♪コメントありがとうございました!
    cinema_61さん、す、すみません…!なんと、こちらは残念ながら上映が終わってしまっておりました!
    こんなに遅くに書かずに、もっと早くに書けば良かったのにー!最近、たくさん映画を見すぎてなかなかUPすることができず…。今後、気をつけます。

    今後どこか二番館でやってくれませんかね…。
    下高井戸シネマなんかは結構かけてくれそうな気もします。早稲田松竹や目黒シネマ、飯田橋ギンレイ等でやってくれたらお得なんですけどね!

    ちなみに、こちらは渋谷の「ユーロスペース」でやっていました。cinema_61さんが『アルゲリッチ』をご覧になったル・シネマの入り口(デパートの中を通らずに、外に出る方)を出ると目の前に、ファミマや横浜家系ラーメンのある信号があります。そちらをラブホテル街方面に行く坂の方へ上がっていくと、程なくして右手に映画館があります。2Fが最近潰れたオーディトリウム、3Fがユーロスペースで4Fはシネマヴェーラです。地下一階は映画美学校の上映ホールです。いわゆる「キノハウス」です!
    今度よかったら行ってみてくださいね。

    『アルゲリッチ 私こそ音楽』は、まだ見ていませんでした!こちらの映画はおすすめでしたか?
    なかなか良さそうですね。ピアニスト映画だと最近、ミシェル・ペトルチアーニの『情熱のピアニズム』を見たばかりです。あちらも良かったなー。




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