『ハングオーバー』よりディープな二日酔い映画!? 『荒野の千鳥足』
ぶっ壊れた男による、ぶっ壊れた映画。
そして近年稀にみる、“素晴らしき邦題”のつけられて作品でもある。
それから、日本のチラシアートワークの素晴らしさと来たら!
’71年の映画を、今頃掘り起こすだけのことはあるんでしょうね!?
向こうのこの映画のチラシなんて、こんなんですよ(笑)↓
ちょうど先日見た、『VHSを巻き戻せ!』という映画の中で
アメリカでVシネ映画がたくさん作られたけれど(正確には“Vシネ”という呼称は登録商標らしいけれど)、「ビデオを売り出すにはいかに表のアートワークが素晴らしいかに限る」、なんて言う話が出ていたけれど
この作品のタイトル、アートワークはまさに完璧!
ついでながら、「初日ビール飲み放題!」を敢行した配給会社の戦略にまんまと乗っかった私は、初日に行くつもり満々でした。
ところが残念ながら、2時間前に満席御礼。残念ながら初日のイベントには顔を出せずでした。
うう、前もって買って置かなかったのが悔やまれる…。
(シネマカリテさんは、当日券を2日前に売るのだけれど、オンライン予約等が一切出来ないので、わざわざ劇場まで行かなければならないのだ。)
いかにもかさついた砂漠の中に住む、しがない教師の男は、
夏休みが終わるとすぐ、全財産を持って賭博場へ。
あっという間にスられ、夏休みの計画はオジャン。
ところがオーストラリアの辺境の小さな町ティプンダでは、すかんぴんのまま誰もがヘベレケな毎日を過ごしている。
その日暮らしの医師に拾われ、朝「水をくれ」と声をかけてみれば、
「この町には水なんか無いよ、ビールでも飲め」と、蝿のたかる薄汚い廃屋で仕方なく迎い酒。
「飯探しに行こう」と連れられると、そこは荒野に住むカンガルーの群れの中だった…。
(このカンガルー猟のシーンが結構残酷なのだけれど、いかにも昔の映画ならではの鬼畜さ。私的にはガッツポーズ!)
私が何が嫌いって、アルコール中毒をことさら罪悪のように描くアメリカ映画で、
例えば『フライト』なんかは良く出来た映画だったのだけれど、アル中の描き方が大っ嫌いだったので、完成度は高いと思うもののあまり好きではない。
アメリカのアル中に対する概念て、ドラッグ中毒とどこか一緒くたにされているんですね。
実際、仕事中もアルコールが手放せないレベルのディープなアル中は困り者だけれど、そこまで行かず普通に楽しむ分には、アルコールは、日々の労働の中で唯一憂さを晴らす、社会的家畜のための飲み物なんですよ。必要悪なんです。
主人公はビールに溺れる自分とその人生を嫌うかのように、ティプンダの人の親切(「俺のビールを飲んでけよ」)をも避けようとするのだけれど
悪夢を見て目が覚めれば、そこも変わりない薄汚い地獄。
悪夢の続きでしか無いんですよね。
ようやく夏休みを終えて、元の現実に戻るラストのあの感じ…、
GWやお正月休みを終えたサラリーマンの気持ちと一緒なんですよね。
休みのツケを支払って“現実社会”に戻ってみると、浦島太郎だって何となくホッとする…。
’71年、オーストラリア
監督:テッド・コッチェフ
製作:ジョージ・ウィロービー
製作総指揮:ハワード・G・バーンズ、ビル・ハーモン
原作:ケネス・クック
脚本:エバン・ジョーンズ
撮影:ブライアン・ウェスト
音楽:ジョン・スコット
キャスト:ドナルド・プレザンス(ドク)、ゲイリー・ボンド(ジョン・グラント)、チップス・ラファティ(ジョック)、シルビア・ケイ(ジャネット)、ジャック・トンプソン(ディック)、ピーター・ウィットル(ジョー)他
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