怒りをむき出しにするカルト映画 『追悼のざわめき』
「この映画にようやく世間が追いついた」って、すごく的を射た表現。まさにその通りだと思う。
この作品は一言で言えば、“奇形映画”だった。現在タブーとされている、奇形の人を映画の中で出すから奇形なのではなくて、まさに映画そのものが時代の“奇形的”落とし子。
この映画の作られた80年代後半の空気っておそらく、高橋ヨシキが「映画の残酷・野蛮表現について」の中で言っていた、「世間がカッコよさにお金を払う時代」なのだろうなと思う。
参照サイト:高橋ヨシキ 宇多丸が語る 映画の残酷・野蛮表現と「自主規制」 前編
そうした時代に対する、強烈なアンチテーゼのようだった。
この作品は怒りまくっている。
あらゆるタブーが奔出しているところがすごい。
小人・小児愛好者・近親相姦・レイプ・知的障がい者・浮浪者・戦争による傷病兵(身体障害者)に対する暴力・死体の女性器切断…。
およそありとあらゆる世間の常識に対して唾を吐きまくり、その綺麗にまとまった価値観の薄っぺらさを全て、ひっくり返そうとする。
ウィンドウショッピングで小奇麗に並べられたデパートの品物たちの画が差し挟まれているが、このモンタージュは、こうした物に対する強烈な怒りだ。
小人や知的障がい者、レイプ、浮浪者、傷病兵に対する哀れみ以外の“偽善”。
誰もが見ないようにして過ごしている、小奇麗にまとめられた価値観への“反吐”。精一杯の“反抗”。
女嫌いで暴力的な男は、女性の死体から女性器を切断し、マネキンの腹にそれを埋め込む。とある廃屋の屋上にこのマネキンを置くが、まるでこのマネキンが人々を狂わせるが如く、この女嫌いの男のみならず、浮浪者や小児愛好者(兄弟)の運命に歪みを与える。
仲睦まじい兄弟はその本性を露わにし、幼児をレイプする近親相姦で世界を血の色に染める。処女の血を啜るシーンは、水たまりがやがて血の海に至るという壮絶なもので、映画的表現が狂って奔走し始める、凄いシーンだ。
レイプされた小人の女(火傷の爛れが酷い)は、この屋上で勝ち誇り、火をつける。
彼女の心からの笑いは、この嘘だらけの世界に唯一響く、勝利のトランペットのようだった。
’88年、安岡フィルムズ、東風
監督・脚本:松井良彦
製作:安岡卓治
撮影:手塚義治、村川聡他
音楽:菅沼重雄、上田現
キャスト:佐野和宏、仲井まみ子、隈井士門、村田友紀子、大須賀勇、日野利彦他
2014/10/07 | :カルト・アバンギャルド 日本映画
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