グレース・ケリー展 & 『グレース・オブ・モナコ 皇妃の切り札』
一ヶ月ほど前に、渋谷でグレース・ケリー展がやっていたのだけれど、それに出かけて行ったんですよ。8月19日(火)から9月7日(日)まで、「『グレース・ケリー写真展』〜美しきファッション・アイコン、グレース・ケリーを追いかけて〜」。写真家はハウエル・コナン。この彼はプライベートでもグレースと親しくしており、ハリウッド時代からの旧知の間柄の人だったとか。なんでも、写真は全て彼にしか撮らせなかったのですって。つまり、グレースの写真のみならず、王族の全ての写真が彼によるもの。彼女を一躍有名にしたLIFEのプールでの写真から、ロイヤルウェディングの写真、はたまたリラックスしたムードのモナコ宮殿の写真まで。
グレースの映っている写真はいかにもウットリと綺麗で、いかにも夢見心地の“モナコ気分”に浸れるものだった。彼女のシンデレラ人生を思い描くから余計に、夢が膨らんでしまう。女性なら誰しも憧れるロマンチックな人生!でも、ここに映されたものではない、もう少し実物の彼女に迫るような物語に出会いたくなった。あんなに夢物語みたいな人生ってあるんだろうか?なんて。
で、作品について。さすが、『エディット・ピアフ 愛の讃歌』のオリヴィエ・ダアン監督。娯楽作品としても一級品になっていて、十分に楽しむことが出来た。イキイキとグレース・ケリーを演じるニコールは、似せたり小手先の技を使うことなく、彼女の美貌そのままでグレースの内面に切り込んでいった。全女性の憧れたロイヤルウェディングのその後を垣間見て、彼女が目の当たりにした人知れぬ苦悩について一緒になって悩むことが出来る。ただ、歴史物や実人物を扱いながらも、この作品がフィクションであることについて、初めに注意書きがされてある。その点だけ注意すべきかも。
ヒッチコックの突然の来訪に心から喜んだり、内心では女優に戻りたい気持ちもあった、彼女の心の奥の気持ち。『鳥』を撮ったヒッチコックに次回作として主演に抜擢され、しかも監督自ら外国へわざわざ出向いて来たのに、悪い気がする女優なんて居るだろうか?そりゃあグラっとするでしょうよ。内心の表現欲がフツフツと湧いてくる一方、しかし、モナコの国内の政治は破綻をきたし始めていた。まさに、国が分裂する一大危機。政治ミステリーとしても楽しめることが出来る一級の娯楽作品だった。特に、ラストの彼女の“皇妃としての仕事”である、スピーチの長回しが圧巻。人前でこれだけ深い内容のスピーチを語り、しかも彼女の魅力はそのままに人々を魅了する…。
よく、ミス・ユニバースのような場所では、誰も彼もが“世界平和”を述べるけれど。ミスコンの偽の王冠じゃない、本物の王冠をその頭に被った、“本物”の王妃の言葉。ニコールの気品に圧倒される。グレースは、二度も夢を叶えたのね。一度目は、子供の頃からの憧れであった女優になったこと。二度目は、王室との結婚。そしてラストは、夢を諦めないための“国を救う”彼女の活躍。本物の皇妃は、女優になど戻る暇が無い。仕事として女優に戻ることは出来なくても、皇妃としての身分においていつでも、高い“女優魂”が必要とされていたのね。
’13年、フランス
原題:Grace of Monaco
監督:オリビエ・ダアン
製作:ピエランジュ・ル・ポギャム、ウダイ・チョプラ他
脚本:アラッシュ・アメル
撮影:エリック・ゴーティエ
音楽:クリストファー・ガニング
キャスト:ニコール・キッドマン(グレース公妃)、ティム・ロス(レーニエ3世)、フランク・ランジェラ(タッカー神父)、パス・ベガ(マリア・カラス)、パーカー・ポージー(マッジ)、マイロ・ビンティミリ(アルパート・アラン)、デレク・ジャコビ(デリエール伯爵)、ロバート・リンゼイ(アリストテレス・オナシス)、ジェラルディン・ソマービル(アントワネット)他
2014/10/20 | :ドキュメンタリー・実在人物 フランス映画
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グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札
グレース・ケリー(ニコール・キッドマン)がモナコ公国大公であるレーニエ3世(ティム・ロス)に嫁いで、早6年。 2人の子供たちの良き母ではあったが、アメリカのオスカー女優…
>『グレース・ケリー写真展』
写真展で受けた印象と、映画から受けた印象に、ギャップはありましたか?
それとも、映画のグレースもイメージ通りの女性でしたか?
>皇妃としての身分においていつでも、高い“女優魂”が必要とされていたのね。
身分の高い人、責任のある人は、責務を全うするために自分自身を殺してでもその役割を演じ無ければならない時があるんですよね。
頭では分かっていましたが、実際にグレース立派に“公妃”を演じるまでの努力を目の当たりにすると、想像以上に並大抵のことじゃないと感じることが出来ました。
ハリウッドのオスカー女優が玉の輿に乗った、なんて軽々しく言えるような結婚じゃなかったと分かっただけでも、見て良かったと思いました。
とらねこさん☆
ちゃんと公開に合わせてレビューUPしてるの、偉いねー
そしていつのまにグレースケリー展の写真を??
ほんと、うっとりする写真だったわぁ。
とらねこさんは映画かなり気に入ったのね。
最後のスピーチはグレースならではの演説で、確かに彼女だからこそ救えた公国なのでしょうね。
哀生龍さんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
グレース・ケリーは私も『裏窓』や『真昼の決闘』『ダイヤルMを廻せ』位しか見たことなかったです。
写真とのイメージの違いというと、結婚後のグレースの姿との比較になりますよね。
ニコールは姿かたちは似ていなくても、わざわざ似せるような行動を取らずに、彼女の容姿そのままで、演技で彼女の本質を捉えていて惹かれます。
逆に、ミシェル・ウィリアムズがマリリン・モンローの物真似をした演技は、見ているだけでイライラしてしまいました(マリリンのファンなので)。
>頭では分かっていましたが、実際にグレース立派に“公妃”を演じるまでの努力を目の当たりにすると、想像以上に並大抵のことじゃないと感じることが出来ました
本当ですよね!
この映画そのままではないにしろ、ハリウッド並の“演技”が必要になった瞬間が、何度も訪れたことでしょうね。
ノルウェーまだ〜むさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
グレース・ケリーの写真展、実際にはHPの写真をお借りしましたよ。
写真撮影不可ですよね(多分)。
私は結構映画気に入りましたよ。
彼女の実人生でのサスペンスタッチの部分は、「あたかもヒッチコックの映画に出ているよう」という路線も、その狙いもとても面白いと思いました。
実人物を元にした作品だからと言って、政治サスペンスタッチであってはいけないとは思いませんし。
こんにちは。
先日BSのDlifeチャンネルでヒッチコックの「裏窓」に出演している超美しいグレースケリーを観たばかりでした~
でも彼女に似てはいないけどニコール・キッドマンも美しくて気品があり、モナコ王妃として申し分ありませんでしたね。
ハリウッドから王妃になり悲惨な死を遂げたグレース・ケリーという認識しかなかったけど、裏にはあのような事情があったのですね。「マニー」も観ましたが・・・彼女が演じたかった役だったというのは納得です。
cinema_61さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
おお、Dlifeで『裏窓』やってましたか。私も割と最近に(2年ぐらい前かな?)再見しました。グレース・ケリー、まさにキャリアの絶頂で結婚により引退してしまっただけあって、いつ見ても美しい盛りの彼女が見れるところが素晴らしいですよね!
そうそう、ニコールも上品で気品があって、顔立ちなんか全然似ていなくても、彼女の気質として“似ている”と言えますよね。
ただ正直、顔立ちとしては、グウィネス・バルトロウの方が似ていたかな〜と思ったりはします。
『マニー』、私は実はまだ見ていないんですよ!しまった、見なくては。
ただ、映画の中にチラと出てきた限りですと、これ彼女の立場からすると、何か裏読みされてしまいそうで、ちょっとまずいかも…と思える役ではありましたよね。
それでも、“もし彼女が出ていたら”と、その可能性を考えてみたくなりますね。それこそ、ヒッチコックも残念に思ったことでしょう!
映画:グレース・オブ・モナコ Grace of Monaco 大女優最後の大芝居はフィルムでなくリアルの場で。
グレース・オブ・モナコ=グレース・ケリー
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