ローマ人のスケール 『グレート・ビューティー 追憶のローマ』
卓越した映像美、頭と心を奪う華麗なショットの数々。映画は、その作家が「自分はこう思う」という人生を描いたものが一番強く心に訴えかけるものだと思う。もっと強く、「こうでなければいけない」的な断言ならなおよし。
もし人生の黄昏時に、「自分が今居るものは何になるだろうか」と考えたら、おそらくこんな映画しか要らない、と私は答えるかもしれない。今年一番心を惹かれた作品の1つになりそう。
主人公のジェップは65歳の誕生日を迎え、いくつかの思いに達している。彼にとって要るものと要らないものとはその境界線がクッキリとしているようだ。一見すれば自分の思うがままに過ごしているかのような生き方をしているように見えて、彼の目に映る全てのものは、その然るべき場所に然るべき姿で据えられているかのようだった。漂っているような、佇んでいるようなフラフラとした生き方に見えての実、彼は人生の黄昏時に、見たいもの・見るべきもののみを見据えている。
若い頃に小説を書いてそれが大評判になったものの、続く作品を書くこともないまま老年を迎えたジェップ。彼がずっと無為に時を過ごしたパーティーという喧騒の中、まるでその波の中を泳ぐかのようにユラユラと漂っている。闇の中くっきりと浮かび上がらせるのは、大昔から信奉されてきた遺跡や文化。それに反して人々や闇の中明かりに照らされた我々のような人間たちは、湧いてはすぐ消えていく泡のような存在に思える。心を浮き彫りにするかのような暗闇の輪郭。こうした表現は、古代の圧倒的美を感じさせる精神性のすぐ傍で、現代という時代を消費している我々の姿を、逆説的に彷彿とさせた。
彼がその人生の多くを費やしたという“劣情”。パーティーは人との出会いと別れを伴う場所であり、無駄な議論を交わす場所であり、長年の友と延々と語らう場所でもあり。時には唾棄すべき腹の立つ言動をする人を、容赦なくその言葉の刃で一文字にかっ捌くジェップは見事でもある。生と聖を同時に語らい、性と欲望にまみれた人生が浮かび上がる。生を喜ばしくする幾つかの物事にある野卑さ。ローマ人とその歴史を紐解けば、絢爛な野性味溢れる“生に対する貪欲さ”が立ち現れそうでもある。現代の中に古代ローマのスケールを持ってくるビジョンのデカさがカッコいい。
’13年、イタリア・フランス
原題:La grande bellezza
監督・原案:パオロ・ソレンティーノ
脚本:パオロ・ソレンティーノ、ウンベルト・コンタレッロ
撮影:ルカ・ビガッツィ
音楽:レーレ・マルキテッリ
キャスト:トニ・セルビッロ(ジェップ・ガンバルデッラ)、カルロ・ベルドーネ(ロマーノ)、サブリナ・フェリッリ(ラモーナ)、ファニー・アルダン(マダム・アルダン)、カルロ・ブチロッソ、他
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映画:グレート・ビューティー 追憶のローマ La grande bellezza 老とローマ、似合いすぎ!
評論家筋で高く評価する人が多く、公開日にさっそく。
今年のベスト10入りもありかも?と期待しながら…
ジェップ・ガンバルデッラ65歳。
作家だが、もうずっと小説は書いてお…