『現代インチキ物語 騙し屋』『しびれくらげ』@増村保造監督特集
現代インチキ物語 騙し屋
増村には珍しい、関西弁の似合うコメディ。社会派娯楽映画としても、コンゲームものとしても楽しめる一流の作品!
『スティング』を思い出させる冒頭の事件。ところが、スティングよりこちらの方が9年も早いなんて!あちらはアカデミー賞受賞作で誰もが知っている有名な作品、一方日本の『スティング』のこちらは誰も知らない上に、レンタルDVDまで出ていないのか…。
様々な騙し屋の、アッと驚く手口の数々を見せたかと思えば、その幾つ目かのエピソードの後に、「相手は騙された」とは感じていないのだ、という。なるほど彼らの言い分が面白く感じられる。こうした拘りによってさらに興味が惹かれるというもの。また、彼らの仲間になりたいとやって来るチンピラの胡瓜(犬塚弘)に対して、「泥棒なんかを働くのとはわけが違う、自分達は断じて泥棒ではないのだから返して来い!」なんて彼が盗んできた品々を突っ返す。さらに、傷病兵のエピソードでこれまでのエピソードと比較しての重さを出してくる。このタイミングが上手い。国家や政治家など国民を騙して戦争に向かわせたのだから、自分たちなんかよりずっと悪質である、なんて鍋をつつきながら話す。そこへ、例の胡瓜がやって来て、自衛隊に志願したと言う。みんなで祝祭ムードに一旦なるも、その制服が借りてきた衣装で、彼ら全員がまんまと騙されたと分かる。最後にチクリと刺す社会諷刺。上手いことラストのオチへと持って行く辺り、素晴らしい。カラカラと笑って後に何も残らない物語ではなく、しっかりとブラックジョークを効かせている。
滔々とまくし立てる弁の立つ台詞の面白さに、人情モノとしての温かさも感じ、味わい深い。
’64年、大映
監督:増村保造
脚本:藤本義一、沢村勉
撮影:小林節雄
音楽:山本直純
キャスト:伊藤雄之助(赤とんぼ)、船越英二(河豚)、丸井太郎(ちょこ松)、犬塚弘(胡瓜)、曽我廼家明蝶(カマキリ)他
しびれくらげ
渥美マリの魅力たっぷりなこのシリーズ♪でんきくらげの傑作っぷりと較べてしまうと、少し物足りない気もするけれど、ちょっぴりエロめでヒロインの魅力たっぷりなこのくらげシリーズ、なかなかに人気を博したのは分かる気がする。
なんでも、当時渥美マリの人気はすごかったらしい。今見ても、まるでギャルのような化粧に顔立ち。今の人と全く遜色ない。
彼女の演技はずーっと固いまま台詞を喋り続ける。初めこそ大根に感じるのに、これがだんだん癖になってくるんですよネ。
そうそう、このシリーズは、女を武器にするエロさをベースにしながらも、気の強いちゃっかりしたヒロインのしたたかさが爽やかな味わいとなっている。そのための演出にはぴったりに感じられる。
「どうぞ、もういっそのこと殺されちゃってよ!」と親父に毒舌を叩く、ヒロインに思わず吹き出しちゃう。
一方、ダメ親父役の田中良一はこの映画一の演技達者!コメディアンぷりは目覚ましく、いかにも楽しそうに伸び伸びと演技している感じ。彼女にバシンバシンとやっつけられるシーンなんかはわざとお尻を突き出してみたり、縦横無尽に動き回って見事。
また、田村亮とのラブロマンスもちょうどいい味わい。暗い過去を思わせる、どこか寂しそうで一匹狼的なヤクザの役がぴったり。こういう役を演ってキリッと見せるには、これぐらいの麗しいイケメンがちょうどいい!
’70年、ダイニチ映配
監督:増村保造
脚本:石松愛弘、増村保造
撮影:小林節雄
音楽:山内正
キャスト:渥美マリ(みどり)、田村亮(健次)、玉川良一(庄太)、川津祐介(山崎宏)、内田朝雄(小野田)
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