『ぐれん隊純情派』『嘘』『原色の蝶は見ていた』@増村保造特集
ぐれん隊純情派
文句無しに面白い。“旅芸人物”を描いた増村の傑作!
先代が亡くなり、潰れかけた旅芸人一座を、ヤクザが盛り立てようとするところから始まる。ヤクザ稼業に将来は無いと見切り、突然役者を始める松(藤巻潤)と豊(千波丈太郎)の姿が勇ましく、可笑しくも頼もしい。
新座長を努めようとする中村銀之助(本郷功次郎)も凛々しい。ヤクザから足を洗い、父の名を継ぐ決心をし、新たな出発をせんとする。応援せずには居られない。
伝統の世界の厳しさ・煩雑さばかりが目につきそうな世界を描きながら、型破りの物語が語られようとする。この“D.I.Y精神”の楽しさ、希望に満ちた船出。フレッシュな魅力に満ち満ちた作品だ。
伝統芸能に組み入れようとする旧勢力が、彼らを潰そうとする。それに対抗する新たな演し物は、自分たちに今まさに起こった、理不尽な出来事を描いた新作戯曲。どんな古典の戯曲も手がけてきた、ベテランの雁右衛門(中村鴈治郎(2代目))ですら、今まで一度も書いたことのない描き下ろしの“リアリズム”戯曲!
十分面白く見ていた映画の中の物語が、突如こちら側の現実とリンクする感じ。こうした物語には、参ったと言わざるをえないんですね。主人公たちに起こった物語が劇中劇になってしまう面白さ。
クライマックス地方の有力者たちと、田舎にいかにも根付いていそうな町の裏勢力図。こうしたものは普通なかなかに太刀打ち出来ず、折れるか負けるしかないものであるから余計、これらを全てひっくり返す楽しさがある。
旅芸人とは言えど、芸術で真実を伝えようとする、“世界を変えることが出来る”感覚。
これぞまさに、芸術が目指すべきことで、彼らもその本意を全うしたと思える清々しさがたまらない!
’63年、大映
監督:増村保造
脚色:増村保造、小滝光郎
原作:藤原審爾
撮影:小林節雄
音楽:池野成
キャスト:本郷功次郎(中村銀之助)、藤巻潤(松)、千波丈太郎(豊)、大辻伺郎(染公)、当銀長次郎(十一郎)、大川修(重夫)、中村是好(福太郎)、中村鴈治郎・2代目(雁右衛門)他
嘘
3人の監督によるオムニバス作品で、それぞれ30分ほどの短編が3作。
増村保造、吉村公三郎、衣笠貞之助。
増村は一作目の『プレイガール』を担当。さすが、増村作品が一番面白かった!
「処女が一番高く売れる」自分の価値を換算して、若い今のうちにと様々な相手とデートをするヒロイン(滝瑛子)。
自分のメモ帳に、一人ひとりについて成績表のようなものを付けており、結婚相手としてA,B,C…とランク付け。さらに各人についての好みや最適なデート方法についても一口メモを付けている。相手によって衣装から自分の演技から、何から何まで変えるのも楽しい。あまりにもチャッカリした生き方!
しかし、一番の目当てのプレイボーイの御曹司(ジェリー藤尾)はライバル(江波杏子)に先を越され、体の関係になってしまう。しかし「ここで負ける訳にはいかない」と、自分も同じ条件に立つ。つまり、とうとう処女を捧げることに。
でも、もしもう一度処女に戻るなら、自分もこんな風にチャッカリ生きたいな…なんて思ったりも。
2番目の、吉村公三郎の『社用二号』もなかなかに面白かった。
色気はあるが演技はからきし大根の、駆け出しの女優(叶順子)。大口スポンサーであるのをいいことに役にありつくも、社長(山茶花究)も彼女の金遣いの荒さにだんだん嫌気が差しており、何とか彼女と手を切る算段をする。真面目そうに見えた経理担当(川崎敬三)も一芝居打つ。
上手いこと騙されていながらも、ちゃっかりしぶとく生きていくヒロインが頼もしい。
3作目はすっかり寝てしまった。増村作品は全然寝てないので、我ながらゲンキンだなあ…。
ただ、3作全て終わった後で、「どの作品も、全て嘘をついている。だが、それで居ながら誰も嘘はついていない。」という一言が語られる。
なるほど、この3作は全てそれらを目指して作られていたのかと、改めて構想が面白いなと思い当たる。
原色の蝶は見ていた
増村のTVドラマ、「土曜ワイド劇場」での作品。映画館でかかることがよっぽど稀なのか、フィルムセンターは満席状態。
増村らしさは見受けられるけれど、全体的にTVドラマっぽいチープさ、分かりやすさが鼻につき、あまり私好みではない。想定通りに事が進むところも、あくびを噛み殺しながらの鑑賞。
由美かおると大和田伸也の役者陣は、力の入った演技で頑張っているけれども、一本調子で疲れる。むしろ彼ら夫婦の仲を掻き乱す火野正平の、自然体の演技が魅力。ゾクゾクしてしまう。
そう言えば祖母が「火野正平はあんな顔だけれど、あれでなかなか女泣かせなんだ」というようなことを言っていたけれど、今にしてようやくその気持ちが分かった。
ヒロインが罪を犯した時に不思議に現れる“原色の蝶”。出現と同時にピコピコ音が鳴るのだけれど、この音で『吸血鬼ゴケミドロ』や大林宣彦の『ハウス』を思い出す。この時代の“トンデモ展開”によく使われるのがこうした効果音だったのかしら。
原色の蝶は、いかにも不気味な姿で主人公の目の前に現れ、彼女の良心や罪の意識を具現化したものだとはすぐに分かるのだけれど、登場の仕方が面白すぎる。主人公の立つ目の前のガラス戸のすぐ向こうに居ることが多く、蛾の姿も不気味で、衝撃的というよりは過剰にコミック的。さらに何度も同じ手法で現れるため、衝撃度が薄れ、白ける。
乱暴で単調なプロットではあるけれども、その中で説得力を持たせる増村らしさはある。TVドラマで何も知らずふと見た人にとっては、強烈で忘れられなくなりそうな作品、かもしれない。
私にとっては、火野正平の魅力だけが燦然と輝いていた。
’78、大映テレビ室
監督:増村保造
原作:西村寿行
脚本:山浦弘靖
撮影:中川芳久
音楽:山内正
キャスト:由美かおる、大和田伸也、火野正平、竹内亨、中村たつ、前川哲男他
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