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『やくざ絶唱』『新・兵隊やくざ 火線』『陸軍中野学校』@増村保造監督特集

やくざ絶唱

s4412815勝新主演のやくざ映画!…と思いきや、増村流の愛憎物語。
 勝新は、ヤクザ3人束になろうとバッタバッタとあっという間にやっつける、喧嘩の腕前を持つコワモテ。だが実は大きな弱みが。それが妹のあかね(大谷直子)で、彼は妹が6つの時から父親代わりだった。愛人だった母親は亡くなり、今や兄弟二人。父親の手を借りずに彼女を育て、自分は中卒だがあかねだけは真面目で立派な女性に育てようと、体を張ってヤクザ稼業をやって生きてきた。
強すぎるヤクザなのに妹思いという、可笑しな役どころが、勝新に妙な可笑しみを与える。不思議なバランスで物語が成立していて、一本槍のヤクザ者の、だが純情な妹への愛情という、何とも複雑な味わいが、勝新のおかげで珍妙で深いテイストになっている。面白い。あかねと恋愛関係に陥る養子の裕二(田村正和)も、イケメンではあるが二人の間に結局は入り込めない。冒頭、ポルノ映画を真剣に見入っているあかねの姿が映るが、最後まで見れば、一人の少女が“女”になっていく話でもあったのだなあと思ったり。そうした思春期の女性の複雑な心理を、よく捉えていたと思う。しかし、二人の間には超えられない溝があって、それを超えることは敵わないのだった。ちょっと変わってはいるけれど、ダイナミックな愛憎物語。何とも憎めない一作だった。

’70年、ダイニチ
監督:増村保造
脚本:池田一朗
撮影:小林節雄
キャスト:勝新太郎(立松実)、大谷直子(立松あかね)、田村正和(犬丸裕二)、加藤嘉(犬丸泰助)、荒木道子(犬丸里枝)、川津祐介(貝塚茂太郎)、青山良彦(本田進)、太地喜和子(可奈江)他

新兵隊やくざ 火線

2014-07-18_1344
『兵隊やくざ』シリーズ最終作!いきなり最終作から見てしまった…。
正直、戦争物がそれほど好きではない私にとって、積極的に見たいものではなかった。今回増村の全作上映で、とりあえずすぐに見れない、レンタルDVDになっていない物を中心に見ようと計画。こちら、大映で人気のシリーズだったそうなのだけれど、大映が倒産し東映で製作。版権が違うため、シリーズとしてこちらを入れることは出来ない、という訳か。しかもこちらDVD化すらされていないという。今を逃してはいつ見る機会が来るのか分からないため、見た。そのため、シリーズ物の最終話を一番最初に見てしまうはめになってしまった。

いやしかし、見てよかった〜!勝新太郎の勝プロダクションによる製作で、勝新ならではの可笑しみが其処此処にある。いいんですよね、どことなく切なくて、人情派で、面白くて。有田上等兵とのホモソーシャル感も良い!でも、決して女受けはしなそうなんだな。で、そこがいい。
 娯楽作品にメロドラマ要素を足し、誰もが親しめるものにしながら、それでも骨太にテーマを醸し出す。
好きになった女と泥沼に陥る、複雑な心理描写は、さすがさすがのの増村流!こんなに面白いとは、予想すらしていなかったよ〜!戦争映画で、これほどの娯楽作品になること自体が珍しいかもしれない。でも、大宮が見せるような正義感は、当時の日本の軍国主義にはほとんど許されないものだったのかもしれない。「戦争が嫌いだ」と言い切ってしまう良い上官も、きっと居なかっただろう。でも、こんな男たちも、もしかしたら居たかもしれない。そう思えるだけのリアリティはある。
ラスト、つくづく軍人と戦争がイヤになった大宮が、軍服を燃やすシーンがある。そのシーンに被した「戦争なんか大嫌い!」という勝新の歌。
こんな映画を今見れて、本当に良かった!

’72年、東宝
監督:増村保造
脚本:増村保造、東条正年
原作:有馬頼義
製作:勝新太郎、西岡弘善
撮影:小林節雄
キャスト:勝新太郎(大宮貴三郎)、田村高廣(有田上等兵)、大楠道代(芳蘭)、大瀬康一(北井小隊長)、宍戸錠(神永軍曹)、大滝秀治(芳蘭の父・王)他

陸軍中野学校


こちらもまた、戦争映画としては異色の大傑作!
さすが増村、重厚なテーマをその重さそのままに、だが見どころたっぷりに描き出す。最高!
市川雷蔵主演作としても有名とのことだけれど、それもそのはず。スパイサスペンス映画としての側面もあり、社会派としての貫禄もたっぷりあり。最後の最後まで飽きさせず、見事に見せてくれました!

中野学校は立ち上げ当初から苦労の連続。そもそも陸軍にとって、いや日本にては、あまりスパイが重宝されていなかった。情報戦としての側面が日本は弱く、優秀なスパイは「一個兵隊の兵力にも匹敵する」と信念を持つ草薙中佐(加東大介)。彼の掛け声のもと、陸軍の士官生候補の中から、頭脳優秀かつ軍隊出身でない新人達が集められた。日露戦争で活躍した明石元二郎を目指したとのこと。「日露戦争を勝利に導いたのはこの人のおかげであり、彼の暗躍無くしてはきっと勝てなかっただろう」と言う。
1年間のスパイ養成の厳しさ、ついて行けず挫折する候補生達。
三好次郎(市川雷蔵)の最愛の恋人、雪子(小川真由美)のひたむきさ、美しさもいい。彼女との悲しい別れも、クライマックスを盛り上げ、テーマをより深く描くものとして機能していた。
文句無しの面白さ。これまた忘れられない戦争映画になった。
いやあ、日本の戦争映画を舐めていたなあ。今年の夏は戦争映画をいくつか見たけれど、日本の戦争映画が、ここまで面白くバリエーションが豊かだったとは予想外。娯楽色もありながら、重厚な社会派映画がこんなにあるとは!今の日本映画には出来ないことだ…と歯がゆい思いをしながら見ているのだけれど。

’66年、大映
監督:増村保造
脚本:星川清司
撮影:小林節雄
音楽:山内正
キャスト:市川雷蔵(三好次郎)、小川真由美(布引雪子)、待田京介(前田大尉)、E・H・エリック(オスカー・ダビドソン)、加東大介(草薙中佐)、村瀬幸子(三好菊乃)、早川雄三(岩倉大佐)、仁木多鶴子(はる恵)、三夏伸(手塚)(中野学校生)

 

2014/09/09 | :戦争

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コメント(6件)

  1. 勝新ならびに兵隊やくざシリーズがフバリットな僕
    「新兵隊やくざ 火線」は
    終戦が決まって大宮がいままでいじめられてきた上官達をボコボコにしばきたおし火をつけて旗持って走り出すラストシーン
    な記憶があるのですが、違いましたっけ?
    兵隊やくざシリーズはハズレなしですので ぜひ全作制覇してください
    その次に「やくざ坊主」シリーズ
    その次は「悪名」シリーズ
    てとこでしょうか
    「座頭市」シリーズは当たり外れが大きいですね
    テレビ版の最後の二つが勅使河原版なので素晴らしいです

    「やくざ絶唱」はノーチェックでした 調べてみます

  2. すみません!
    「兵隊やくざ 殴り込み」と勘違いしてました
    カラー東宝版は見てませんでした
    うー観たい観たい

  3. 最も男らしいシネマならこれ!「兵隊やくざ」

    どーもどーも記事が女子の写真ばっかりになってしまいキボチ悪い

    ので男らしい大宮さんと上等兵殿のナイスなショットを

    勝新太郎と田村高廣
    http://blog.goo.ne.jp/tagomago1021/e/6dc47618cf1774f3ae…

  4. よしはらさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。

    よしはらさんは勝新好きだったんですね!それは知らなかった…。
    や、『兵隊やくざ』の記事はチラっと読んだんですが、ここまでのファンとは知りませんでしたー!
    勝新好きな人って居るもんなんですね。私の行くバーの店長(30代後半)も勝新好きで。
    「勝新、カッコイイですよね〜」と言われて、「う、うーん…まあ、渋いですよね」とお茶を濁したことがありますw
    でも、なんかユーモアのセンスがあるというか、顔が面白いんですね!

    この『兵隊やくざ』シリーズ、オススメでしたか〜。ではでは、最初から見てみることにします。
    『〜殴り込み』はラストがいい感じなんですね。この、『新・兵隊やくざ』のラストもまた、カッコイイんですよ〜!!

  5. ・商品名 兵隊やくざ 殴り込み
    – 数量 1個

    ・商品名 続 兵隊やくざ
    – 数量 1個

    ・商品名 兵隊やくざ 脱獄
    – 数量 1個

    ・商品名 兵隊やくざ 大脱走
    – 数量 1個

    ・商品名 兵隊やくざ 強奪
    – 数量 1個

    ・商品名 兵隊やくざ 俺にまかせろ
    – 数量 1個

    ・商品名 兵隊やくざ
    – 数量 1個

    私は、上記8巻を購入し楽しみに観ております。
    更に、PCで①新兵隊やくざ「火線」を見つけ、その他にあれば買いたいのです、如何でしょうか①以外にもあるのでしょうか?是非教えて下さい。また購入方法もあわせて教えて下さい

  6. 茂田様

    こんにちは!初めまして、コメントありがとうございます。
    兵隊やくざシリーズを購入されたのですね。
    『新兵隊やくざ 火線』のみ、シリーズ全巻分に含まれていなかったのですね。
    ご購入については、残念ながらこちらはDVD販売がされていないもののようです。
    ただ去年、WOWOWで放映がありました。私もその時、再度鑑賞しましたよ。
    今後ももしかしたら、いつかWOWOWや日本映画チャンネル等にて、放映の可能性はあるかと思います。
    その時を待っていただいて、HDDに録画しオリジナルDVDを作るしか、今のところ手は無いようです。




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