タイトルが暗に誘う読解ミステリー 『複製された男』
ジェイク・ギレンホールはこの手の謎に満ちた作品がとてもよく似合う。主演作のキャリアとしては『ドニー・ダーコ』に始まる、というのもとてもラッキーだものね。謎が謎を読んで後から友人となんだかんだと話したくなるようなタイプの物語は、映画好きほど惹かれてしまう。『ゾディアック』も『ミッション:8ミニッツ』も、ヴィルヌーヴ監督の前作『プリズナーズ』も。
見ている間は、普通に文字通り受け取った私だった。原作は読んでいないけれど、「ハッハーン、ドストエフスキーの『二重人格』や、ポーの『ウィリアム・ウィルソン』の系譜だな」と。あからさまにミステリータッチに進むのではなく、あくまでリアル性を持たせて描くやり方であるところにも、好感を抱く。しかし、普通に見ている者にとっては、目の醒めるような驚きのラストショットで目を開かれる。「そうじゃないんだ。そのまま受け取るべき作品ではないんだ、これは」というのが分かる。そこで初めてキュルキュルキュル…と今まで見た映画を巻き戻し、考えを改める必要に駆られた。そうして気づく部分はまず第一に、ヒントとなるのが「同じ場所にある傷跡」。これの説明については、何もされていなかったこと。つまり、全く違う個であるならば。「そう言えば、明らかに二人が明暗併せ持つかのように対照的であったこと」等に思い当たる。「白いシャツをいつも着ているアダムと、黒い革ジャンのアンソニー」。それから、ブルーベリーが好みである方と、嫌いな方…。『複製された男』というタイトルも、原題が“Enemy”である割には、上手いタイトルの付け方をしたものだと思う。さり気なく解読方法を誘導するタイトルでもある。
ただ、ヴィルヌーヴ監督って自分のツボにハマるタイプではないんだよな。この作品についても、「あれこれ言いたい感じ」よりは、「食い足りない感」の方が大きい。先に挙げた本の2作の小説の方が、クラシックなものとして自分の血肉になってる感じがあるから余計かも。さほど目新しい感覚には自分には思えず。
’13年、カナダ、スペイン
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
製作:ニブ・フィッチマン、M・A・ファウラ
製作総指揮:フランソワ・イベルネル、キャメロン・マクラッケン他
原作:ジョゼ・サラマーゴ
脚本:ハビエル・グヨン
撮影:ニコラ・ボルデュク
音楽:ダニー・ベンジー、ソーンダー・ジュリアーンズ
キャスト:ジェイク・ギレンホール(アダム/アンソニー)、メラニー・ロラン(メアリー)、サラ・ガドン(ヘレン)、イザベラ・ロッセリーニ(キャロライン)、ジョシュ・ピース(学校の先生)他
2014/08/31 | :サスペンス・ミステリ カナダ映画
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『複製された男』 (2013) / カナダ・スペイン
原題: Enemy
監督: ドゥニ・ビルヌーブ
出演: ジェイク・ギレンホール 、メラニー・ロラン 、サラ・ガドン 、イザベラ・ロッセリーニ
鑑賞劇場: TOHOシネマズシャンテ
公…
『灼熱の魂』がやっぱりよすぎて、それ以上のものが出てこないんじゃないかと気になります。
好きな監督ではあるのですが。
謎解きに関しては、どうなんだろうこれ。もう個人個人でどうぞと言われてるような気もします。私もすごく勝手な解釈してるけどね。
rose_chocolatさんへ
こちらにもありがとうございます♪
ロゼさんは灼タマが好きでしたよねー。私はその年の同じようなテーマだと、『サラの鍵』の方が良かったから。
謎解きに関しては、「個人個人でどうぞ」というふうには思えないですね。監督自らHPでその答えを言ってますから。答え合わせ的なHPの誘導の仕方というのが正直シャクに触ります(苦笑)
後から考えてみれば答えは分かりづらいという程じゃないと思うけれど、
何となく普通に見てしまったんですよ。
それでラストシーンでそうじゃないんだよ〜!と気づく。まあそこまでならいいんだけど、こういう提案の仕方があんまり好きじゃないんですよね。
『セブン』や『シックスセンス』の頃はそういうのが面白かったけど。
「複製された男」
「映画祭」などで上映されるべき作品。だと思う。「灼熱の魂」「プリズナーズ」などで私のハートを揺さぶった(表現古し)ドゥニ・ビルヌーブ監督作品なので、いやが上にも期待が膨…