『シナのルーレット』『晩菊』ダニエル・シュミットの悪夢 彼が愛した人と映画特集
シナのルーレット
その名の通り、ダニエル・シュミットが愛した8作品をかける一週間。これにてダニエル・シュミット特集は終わりとなる。残念ながら疲れきってしまっていて、もっと通いたかったけれど2作品しか行けなかった。
こちら、密室心理劇のような装いの一風変わった作品。ファスビンダーにはこうした形式の映画は珍しいのでは。「シナのルーレット」とは、「その場に居る誰かについて、それぞれ順番を決め一人が問答を投げかけ、別の者達が誰かを念頭に置いて答えを話す」というもの。つまり、「この人物に自分は憎まれているのではないか」という思いを抱けば、疑心暗鬼の思いが生まれ、そうした人々の反応を見て楽しむ、というもの。人々の悪意を見て楽しむ物語。
元々このゲームはW不倫現場が発覚したところから端を発している。ただでさえ複雑怪奇な狭いグループの人間達が、悪意たっぷりの心理戦を行うというもの。ところが、残念ながら誰に対する悪意があり、それがどこへ向かっていくのかが、イマイチ良く見えづらい。それぞれの頭の中で想定されている答えというものが、合っているのか合っていないのかが判明しづらい。おかげで面白く見始めたはずが、気づいたら途中意識を失ってしまっていた。我ながらガッカリ。
だんだん焦燥に駆られイライラが顔に出始めるアンナ・カリーナ。そのせいか、あまり美しく見えないのもちと残念。
’76年、西ドイツ・フランス
原題:Chinesisches Roulette
監督・脚本:ライナー・ベルナー・ファスビンダー 撮影:ミヒャエル・バルハウス
キャスト:マルギット・カルステンセン(Ariane)、アンナ・カリーナ(Irene)、アレクサンダー・アラーソン(Gerhard)、ウリ・ロンメル(Kolbe)、A・ショーバー(Angela)他
晩菊
このポスター、「色香あせて女に生まれた哀しさを知る。澄みきった心境で名匠が描く、愛だけは縋る女心。」と書いてある。当時のコピーなんでしょうね。文字が大きすぎるけれど、この映画の雰囲気を捉えていて、とってもいいな。
林芙美子の3つの原作を1つにした作品とのこと。見事に調和してまとまっている。庶民の小さな生活、晩年になって抱える悩み。しみじみと心に沁み入る。母や親戚に似ているような、自分の知っている誰かの姿をそのまま捉えたようなリアリティに、少々辟易しながらも(金、金、金の話ばかり)、最後にはふんわりとした感動を与えてしまう。
若い頃散々浮名を流しながら、女一人で生きてきたきん(杉村春子)。現在はかなり小金を貯めていて、周りの人達から口やかましく借金を取り立てる。きんから金を借りている、昔の芸者仲間のたまえ(細川ちか子)とみ(望月優子)とのぶ(沢村貞子)。彼女たちはきんの噂話や陰口を言いながらお互いを慰め合っているところがある。しかし彼女達には子があり、何は無くとも子が居てよかった、と言い合う。彼女たちの内心の“心の拠り所”に思わずハッとさせられる。きんには子が無く、だからこそ老後の安心のためにと、貯蓄に走るのだ。きんは、昔心中しかけた男・関(見明凡太郎)が刑務所から出てくると聞いても素知らぬ顔で金の無心を退ける。が、昔一番好きだった田部(上原謙)が来ると、いそいそと化粧を施す。いくつになっても女性は女性、という思いに切なさを感じる。だが田部も同様に、金の無心に来たと分かる。
ラスト近く、たまえの息子の見送りに行き、その帰りにモンロー・ウォークを披露するシーンに、思わず温かい気持ちで笑ってしまう。北海道へ行ってしまう息子の成長した姿に寂しい思いをさせられながらも、どこかホッと安堵する、彼女らの心境を思えばこそだ。世知辛い思いばかりが赤裸々に綴られているけれども、この作品をつまらないと退ける人は、老年の心境に思いを馳せることから逃げているだけかもしれない。「自分もいつかはこうなるのかな…」という思いと、母を思って切なくなる思いに駆られる。複雑な心境のラストに大満足。
’54年、東宝
監督:成瀬巳喜男
脚色:田中澄江、井手俊郎
原作:林芙美子
音楽:斎藤一郎
キャスト:杉村春子(倉橋きん)、見明凡太朗(関)、上原謙(田部)、加東大介(板谷)、鏑木はるな(静子)、細川ちか子(小池たまえ)、小泉博(小池清)、坪内美子(岩本栄子)、望月優子(鈴木とみ)、有馬稲子(鈴木幸子)、沢村貞子(中田のぶ
)他
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