小津をアメリカに紹介した映画評論家の前衛映像集 『ドナルド・リチー作品集』
アメリカに小津や黒澤を紹介した評論家(『小津安二郎の美学――映画の中の日本』『黒澤明の映画』)として有名な、ドナルド・リチー(1924-2013)。三島由紀夫との交友関係もあったらしい。さらに、実は彼自身がアヴァンギャルドな実験映画の先駆者だった。そんなドナルド・リチーの作品集を、川崎市民ミュージアムにて見てきた。
今回の作品集はタイトルこそ同じであるけれど、’04年にDVD販売されたものと収録作品が違っている。また、2013年のイメージフォーラム・フェスティバルで上映されたドナルド・リチー作品集とも収録が違うようだ。なんでも、本人お気に入りの『Life』と『のぞき物語』が今回加えられていたので、なかなか素晴らしいチョイスなのかもしれない。全編、モノクロ/スタンダード/サイレント。何というか、“映画の初期衝動”と言えるような作品が多い。おそらく個人の思い入れがたっぷりの作品なのだろう、という印象。
『熱海ブルース』(1962年/20分)
監督・編集:ドナルド・リチー/脚本:マリー・エヴァンス/撮影:ヒラノ・ヒデトシ/音楽:武満徹/出演:ワダ・チエコ、スズキ・トモスケ/16ミリ
熱海の風呂場にて、ばったり出会う男女。…だけれど、もしかしたら同性愛的な恋だったのかもしれない。50年前の熱海の姿は随分違うんだな。今の熱海の貫一お宮像と比べてみれば分かる。像が立っていなくて、松の木だけがある何もない公園だったのね。出会いとその恋の発展。でももしかすると、彼らは貫一お宮をイメージさせる悲恋が待っているのかもしれない。
『Life』(1965年/4分)
監督・編集・脚本/ドナルド・リチー/ 日本/16 ミリ
ある男の一生を4分で諷刺したもの。ニューヨーク近代美術館にはオリジナルのフィルムが永久コレクションとして保存されているそうなのだけれど、何でも68年から73年の間、ニューヨーク近代美術館の映画部長を務め、実験映画を含む日本映画の大規模上映展を実現したらしい。
『のぞき物語』(1967年/20分)
監督・編集・脚本/ドナルド・リチー/16ミリ/20分
ある夜、日比谷公園で16組のカップル達が居て、彼らを20人ののぞき魔達が覗いていたらしい、という警官の話を新聞で読んでインスパイアされ作った作品とのこと。本人が気に入ってる作品とのせいか、こちらが一番印象深かった。長いように思えたけれど。
のぞきのためにする努力が凄まじくて、可笑しい。果てはトイレにキリで穴を開けて、下水道が吹き出したり。
童貞的努力といたずら精神、それこそがこの監督の素質なのかもしれない。“童貞的努力”なんて言葉は初めて使ったけれど、うん、なんかいいんだよねピュアで。最後には女子と仲良くなって自分は覗かれる方に回るのだけれど、女子に分からないよう、それとなく覗き魔連中に向かって目で合図しちゃったりしてね。
『5つの哲学的物語』(1967年/47分)
監督・脚本・編集:ドナルド・リチー/撮影:ヤマグチ・マコト/出演:日本マイム研究会/16ミリ
何気なく袋の中に入ったら出れなくなってしまい途方にくれる男の話や、ピクニックに行ったらそこでお弁当代わりにみんなに食べられてしまう男。また、ぜんまい仕掛けの女性を人間に戻し、性的捌け口にとしていたら、自分もぜんまい仕掛けの呪いがいつしか掛かってしまい、合図と共に腰を振る動作をやめられなくなってしまう男の話。それから、ずっと逆立ちを辞められない逆さ人間が普通の女と公園で出会って、恋をする話など。こちらの話は、『サカサマのパテマ』の製作者がこれを見て作ったのでは?などと思ったりもした。最後の最後で、忘れられていた袋に入ってしまった男を助けるエピソードでピシっと終わっていて見事。
2014/08/04 | :カルト・アバンギャルド 日本映画
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