『書かれた顔』『ダニエル・シュミット 思考する猫』with 蓮實重彦氏トークショー@ダニエル・シュミット映画祭
書かれた顔
坂東玉三郎のドキュメンタリーのように始まるけれど、やはり純然たるダニエル・シュミットの世界!
途中、杉村春子や武原はんのインタビューが差し挟まれ、とても印象深いなあ…と思っていると、さらに大野一雄が東京湾をバックに踊る。彼の踊りを皮切りに、ダニエル・シュミットならではの不思議な世界が展開していく。
場面は変わり、東京湾に浮かぶ屋形船では、年増の芸姑・玉三郎を取り合う若い男二人(宍戸開、永澤俊矢)。一幕物のちょっとした劇中劇のよう。男二人のどこか昔風のギャング的な装いと、玉三郎の芸姑姿が微妙なズレのマッチング。これが良かった。とても雰囲気が良くて、いかにもどの世界か分からないような、シュミットワールド。
芸術家としての玉三郎自身の言葉に、男が女より女らしい、“女形”を演じるという不思議の国Nipponを描き、そこに幻想的な大野一雄の舞踊を捉える。シュミットの世界はいつもどこか“此処にあらず”な雰囲気を醸し出している。どの作品もとても気分が良くて、見た後はなんだか幸せな気持ちになってくる。日本を好意的に理解している彼の感性がまた嬉しくて、グッとくるんですよね。ちなみに、エンドロールを見ていたら“撮影助手”のところに、青山真治の名前があった。
’90年、日本、スイス
原題:The Written Face
監督:ダニエル・シュミット
製作:堀越謙三、マルセル・ホーン
撮影:レナート・ベルタ
キャスト:坂東玉三郎(5代目)、杉村春子、武原はん、大野一雄、蔦清小松朝じ、坂東弥十郎、宍戸開、永澤俊矢
ダニエル・シュミット 思考する猫 with 蓮實重彦氏トークショー
ダニエル・シュミットへの愛あるドキュメンタリー。ドキュメンタリーとしてはソツの無い作り。しかし、ダニエル・シュミットを知る上では、十分な全作品のガイドラインにはなっている。ダニエル・シュミットの人となりが分かるし、ファスビンダーとの交友関係についても触れていて、その運命的な出会いについて語っている。ファスビンダーとの共同作品『天使の影』も差し挟まれ、撮影時の話も収録。何より、レナート・ベルタの話が聴けるのが嬉しい。ダニエル・シュミットはほぼドイツ語、ところどころ急にフランス語で話したりも。レナート・ベルタはずっとフランス語。さらに、このドキュメンタリーの中に“仲の良かった知己”として、蓮實重彦氏が登場するのに驚いた。終わった後は蓮實重彦氏トークショー。初の生ハスミン。
映画の中でいきなりハスミンが登場するのに驚いたけれど、それもそのはず。なんでも彼は、80年代にダニエル・シュミット特集を日本で企画・開催し、ダニエル・シュミットの名を一躍広めた功労者だそうだ。ダニエル・シュミットとも仲が良かったらしく、監督への愛がいっぱいの話が本当に楽しい。このドキュメンタリー撮影時の四方山話や、ダニエル・シュミットに出会った時の話なども聞かせてくれた。ダニエル・シュミットを、「世界でもっとも高地で生まれた監督」と言うハスミン。スイスの山から、幾つかのルートを辿ってパリ/イタリアなど、悠々自適に都市方面へ来たシュミット。その出自、山岳地方の田舎出身とはまるで感じさせない。何処にも属さないような、彼の独自の資質について語る。シュミットに向かって、「あなたは、どこの国の映画でもないような映画を作る人です」と話し、仲良くなったのだそうだ。
それから、スイスの山を走らせて一緒にドライブした時、ヌーディストビーチへと連れて行かれたのだそう。ハスミンワイフも居る前で、すっぽんぽんになり、彼の一物を拝んでしまったのだとか。同席した女優さんはヌードになることを拒否したが、水着を持っていたハスミンはその姿でヌーディストビーチに参加したのだそう。
それから、「ジョン・フォード的光景が拝める駅があるんだ。」なんて嘯いて、神泉駅にダニエル・シュミットとレナート・ベルタを連れて行ったのだとか。しかも、わざわざ分かりづらい道を歩いて、渋谷のラブホテル街をくねくね曲がって、神泉駅に連れて行ったらしい。ダニエル・シュミットとレナート・ベルタがこちらを見て手を振る、その時の光景がとても心に残っている、と話していた。もしかしたらそのままダニエル・シュミット監督とは最後の邂逅になるのかもしれない…などと嫌な予感すらしたとか。その予感は幸運にも外れたのだけれども。私の勘ぐりかもしれないけれど、ヌーディストビーチの話は以前にもしてことがあったようだが、神泉駅の話は今回が初だったようなので、私は勝手にその予感のために、今まで話さずにとっておいた話だったのではないか、などと思ったりした。
それから、今年のロカルノ映画祭では、『トスカの接吻』がデジタル・リマスターされかかるのだそう。是非とも金と時間に余裕のある人は、是非とも行って下さい!…とか、Wikipediaのダニエル・シュミットのところは、フランス語もイタリア語もドイツ語のものも、どれも大したことが書いておらず、これを日本人の手によって分厚いものにして欲しい!自分はこれから毎日チェックしてみるから宜しく、などと勝手な事を言ったりも。
この後、2日続けて神泉駅に行ってしまった。元々、ユーロスペース(←この映画館)からは近くて、歩いてもそれほどかからない場所ではある。この日はまだ梅雨明けしておらず。そぼ降る雨の中、ジョン・フォード的光景を見に(笑)。ここでダニエル・シュミットとレナート・ベルタが手を振っていた光景を思い浮かべながら。
翌日は、ゲリラ豪雨に、雷がすごい一日だった。ハスミン曰く“ジョン・フォード的渓谷”に雷がピカピカ光る、マジックリアリズム的光景を、飲みながら見ることが出来た。なんだか不思議に心に残った。
電車がトンネルを通るところ。20年前の神泉駅は、もっと古くて情緒があったのだと言っていたっけ。
’10年、スイス
原題:Daniel Schmid – Le chat qui pense
監督:パスカル・ホフマン、ベニー・ヤーベルク
キャスト:イングリット・カーフェン、ビュル・オジエ、ベルナー・シュレーター、レナート・ベルタ、蓮實重彦
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