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『トスカの接吻』『今宵かぎりは…』『ラ・パロマ』@ダニエル・シュミット映画祭

トスカの接吻


ダニエル・シュミットは『べレジーナ』しか見たことなく、今回の特集で見たこちらが2作目だった。これが相当気に入ってしまった。
「ヴェルデイの家」という、音楽家を集めた養老院のドキュメンタリーなのだけれど、これが見たこともないような不思議な映画だった。この1作で俄然気に入ってしまって、もっともっと他の作品も見たくなった。
老人たちは生きることを楽しんでいて、歌うことを楽しんでいる。「生きるのは歌うってこと。生きるのは楽しむってこと。」そう言うかのような、元・イタリアの音楽師たちの、ほのぼのと歌う姿がもう最高。
 何と言ったらいいのか、とにかく不思議なポジティブさと陽気さがある。そこはかとないユーモアセンスと、押し寄せる多幸感。初めは面食らったけれど、次第に感激してしまった。

劇映画でも、最近立て続けに何本か作られた、“老い”をテーマにした作品群はいくつもある。けれど、ここに描かれたものは、そうしたものとは一線を画す。この鷹揚さ、豪快さは確かに、イタリアならではの面もあるのかもしれない。にしても、彼の視点はなんというべきなのだろう…。ドキュメンタリーでありながら、演出じみた部分があり(しかも演技も下手で)、自分は少しこれについて考えこんでしまった。しかし、『アクト・オブ・キリング』で感じたような居心地の悪さとはまるで違う。「まっ、いいか、楽しいから」なんて、アッサリしたものだ。むしろ、このフィクションとノンフィクションの狭間こそ、楽しむべきなのだろう。
そうそう、ほのぼのと人生を謳歌する、歌う年寄りたちと言えば、日本にも似たようなのありますよ!『スケッチ・オブ・ミャーク』。こちらも、宮古島の人々を描いた素敵な一作。歌中心の生活を送る人々の姿に、心が震える。

’84年、スイス
原題:Il Bacio Di Tosca
監督・脚本:ダニエル・シュミット
製作:ハンス・ウルリッヒ・ヨルディ、マルセル・ホーン
撮影:レナート・ベルタ
キャスト:サラ・スクデーリ、ジョヴァンニ・プリゲドゥ、Leonida Bellon、Salvatore Locapo、Giuseppe Manachini他

今宵かぎりは…

今宵限りは  シュミット冒頭に説明があって、「一年に一度、主人と召使がその役を交換する日がある」という。その一日の宴会の模様が実験映画的に映し出される。
 長回し好きの私だけれど、このじっくり映す長回しはなんとも珍しい印象を受ける。カメラを設置したまま放置し、人間たちが影のように動く様を、舞台のように映したという感じ。ぎこちなくサーヴする主人たちの姿。踊りのように、前衛芸術のように、ひたすら映してみたり、その日の演し物のサロメやらボヴァリー夫人やらの1シーンを演じてみたり。
陶然とした主人達の趣向を凝らした遊びに、召使たちが付き合わされているという感覚を味わうべきか、それともシェイクスピアの一節、「人生は劇場、人間たちは役者…」という一言を思い出すべきか。役者として演じる彼らが影のような存在にも見え、そっと消えていく亡霊のようにも見えた。
そうこうしていると、演劇の口上を述べる一人が。「そもそも我々人間には階級差などはない。それらは文明がもたらした発明だ。」等と言ったりする。彼の喋り方、立ち居振る舞いやその目線を配す演技が面白い。「支配階級は想像力を失った人々であり、形式主義に慣れてしまい、召使をはびこらせてすっかり満足している。しかし我々は自由人である…」等と言った台詞が述べられる。しかし、この台詞を述べる人はそもそも支配階級ではなかったか。だとすればそこには、また別の諷刺的なテイストが付与される。これは、その難解な劇中映画の中で、それとなくこの作品を理解するポイントであったかもしれない。…がしかし、そんな話は真面目過ぎるし、つまらない。それより画の面白さに目がいく。不思議な空気感、緊張感を含んだ歪なタッチを味わうべきである。おかしな魅力の一作。

’72年、スイス
原題:Heute Nacht Oder Nie
監督・脚本:ダニエル・シュミット
製作:イングリット・カーフェン
撮影:レナート・ベルタ
出演:ペーター・カーン、イングリット・カーフェン、フォリ・ガイラー、ローズマリー・ハイニケル、イゴール・ヨーザ他

ラ・パロマ


これまたとても変わった映画。メロドラマ的でありながら不思議な非現実感があって、幻想と現実が入り混じった不思議な感覚を持たせる。ハッと目を引くような、画になる一瞬一瞬があり退屈しないのだけれど、映画自体の持つリズムすら独特で、この監督ならではのじっくりとしたペースで見せる。この監督の特異性に、持って生まれたマジックリアリズム的テンポが奇妙に混ざり合って、何とも魅力的な一作になっている。
イングリット・カーフェンの存在感は凄いのに、現実感がまるで無いのがまた不思議。にも関わらず目が離せなくなるような魅力満載。彼女を愛するイジドールが次第に不憫になっていく。

全編ドイツ語で話しているのに、母親だけフランス語で喋っていたのは何故だったのだろう?にも関わらず、イジドールとヴィオラはドイツ語で返す。あれはさり気ない嫁いびりだったのか…?
 しかしラスト、最初のシークエンスに戻って来るのは、もしかして夢オチだったのか…?最後でハッとした。グレーの服を着た魔術師のような存在は、彼に夢を見せたような感じもある。リンチっぽさを感じる一瞬だけれど、ふわっとしていて非現実が混ざり合って、それすら心地いい。

’74年、スイス・フランス
原題:La paloma
監督・脚本:ダニエル・シュミット
製作:イヴ・ペイロ
撮影:レナート・ベルタ
音楽:ゴットフリード・ヒュンスベルク
キャスト:イングリット・カーフェン(La Paloma/Viora)、ペーター・カーン(Igidor)、ペーター・カテル(Raul)、ビュル・オジエ、Jerome Olivier Nicolin、Beatrice Stole、Rudmilla Tucek

 

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