無敵少女の王国 『ひなぎく』
“幸せになれるカルト映画”をもし選ぶとしたら、この作品がまさにそれ。可愛くてキュートな女の子の世界。どこまでもどこまでもハッピーな金太郎飴。退屈モンスターな私達。
トイレでチラっと漏れ聞いた話が、驚くべき内容だった。普段映画なんか見ない子が、この作品を気に入って何と20回も見たんだと言う。え?え?そんなことなんてあるの!?イメージフォーラムはコアな映画ばかりがかかる場所なのだけれど、さすが渋谷の底力、なのかな?確かに周りを見回してみれば、なんだか普段とは違う客層。なんたって若い女の子の多いこと!普段TOHOなんかで映画を見ることはあるのか、予告編が20分ぐらいあるのに慣れてるんだろう。この作品、たった75分の映画で、予告は5分しか無いのに、平気で遅れて入ってくる子達も居る。たいていは女同士二人組で、いかにも高い靴を履いているような、カッポカッポ(闊歩闊歩)と靴の音が聞こえたりした。
この作品に似ているなと思ったのは、私の大好きなルイ・マルの『地下鉄のザジ』。あれもまた“少女無双”な突っ走る物語!いたずらっ子のザジが散々あちこちで悪さをしでかし、渋滞を引き起こし、レストランでは皿を割りまくり、ラスト、エッフェル塔をズンズン上がっていく。このラストのおかげで、私は『ひなぎく』よりこちらの方が好きだったけれど。
いたずら少女なら『ザジ』、もう少し大人なら『ひなぎく』。途中のシーンで、トイレで会ったオバサンが歌う。「若さよ、若さよ、何処へ行った?」…まさにこれがテーマだったと思う。女の子二人組の最強っぷりと来たら、一体何語をしゃべっているのか、言語外でのコミュニケーション、特異なニュアンスで二人の間だけで通じ合う。“お行儀よく”なんて退屈過ぎる!ショーを見てソファの上でピョンピョンと飛び跳ね、追い出される二人に思わず拍手喝采をしそうになる。退屈な大人たちがレストランのテーブル上で、お上品で鼻持ちならない話を繰り広げる。その会食場をハチャメチャにして、ダイエットも考えずにつまみ食いし放題!嗚呼、“女子力”なんて、聞きたくもない雑誌の中の空虚な言葉!彼女たちは、真の意味での恋をまだ知らない。そこに特別な男子が介在しないからこそ、小さな円環で完結され、だからこそ無敵で。女の子は、ただ楽しみを享受するモンスター。お気楽な生き物なのだ。なんかPARCOの宣伝辺りで何度もパクられてそうな画たち…。
ひなぎくの意味について自分なりに考えたのだけれど、ひなぎくって花は外国でも花占いに使われるものなんですよね。こないだ映画を見ていてそう思ったのだけど。つまり、そうした気まぐれそのものの存在として、少女を象徴しているように思ったりしてね。
いつから、あんな風でなくなってしまったのだろう。私もそういえば、中学生の時、親友の女の子と二人で、放課後に大騒ぎするのが大好きだった。物真似やったり、志村けんの真似して鏡に映った半分の姿を見て大笑いしたり。覚えているのは、中学の卒業式があったその日に、一緒に卒業証書を放り投げて遊びに行った。スーパーのカートに私は乗ったまま押してもらい、そのままカーレースやって大爆笑してた。その時の私の笑顔の写真が、まだある。あのスナップショットを思い出した。この映画の二人とは全然違うじゃねーか、と言われではあります(汗)。
’66年、チェコ
原題:Sedmikrasky
監督:ヴェラ・ヒティロバ
脚本:ヴェラ・ヒティロバ、エステル・クルンバホバ
撮影:ヤロスラフ・クチェラ
音楽:イジィ・シュスト、イジィ・シュルトル
キャスト:イバナ・カルバノバ、イトカ・チェルホバ
2014/07/30 | :カルト・アバンギャルド チェコ映画
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コメント(6件)
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『ひなぎく』 (1966) / チェコ
原題: Sedmikrasky
監督・原案・脚本: ベラ・ヒティロヴァー
出演: イバナ・カルバノバ 、イトカ・チェルホバ
鑑賞劇場: シアターイメージフォーラム
公式サイトはこちら。
…
お、観れたんですね。よかった。
「ひなぎく少女」さん多かったですよね(笑)映画はあんまり観ないけどひなぎくは別!みたいな。昔のOlive少女っぽい感覚でしょうか。
これ、フィルムがもう退化しちゃってて、そこは何とかしてあげたいなと思ったんだけど、観終わってからじわじわじわじわ来まして。
この時代にこんなのを撮っちゃうなんてもう、男国に生きて帰れないくらいの覚悟が必要だったでしょうね。
あ、ミスタイプ
× 男国
○ 祖国
rose_chocolatさんへ
こちらにもありがとうございます♪
本当多かったですねー!全くいつもと違う客層なんで、ビックリしちゃいました。若くて綺麗な男子も居たんですが、芸能人か俳優さんだったかも。これまたフリフリ女子を連れてました。
そう言えば以前、ブログだかtwitterだかで「オリーブ少女って何ですか?」とか言って恥かいたことあったっけ…。
私にはあんまり良く分かってないんですよね。自分は、高校生の時CamcanとViViは読んでましたが、アンノンオリーブは全く読んでなくて。
フィルムの劣化は、さほど進んではなかったですよ。もっと凄いのいっぱい見てるし!w
「男国に生きて帰れない」という台詞に、何故だか「Oh~~~!面白い表現だ!」と感激してました。「祖国」だったら意味は通じますが。
それぐらい意味不明の方がこの映画を評するのに合っているかも。
ぶわっはっはっ!
さすがとらねこさんや~
確かにこの映画の場合「男の国」の方が合ってるかも?
だって、こんな水着ギャルが共産圏で反体制活動なんて50年前にできっこないし、そういう意味じゃマジで当時は「男国」だよなあとw
rose_chocolatさんへ
こんにちはアゲイン♪
ネッ!案外、「男の国」がぴったりでいい表現。
映画の中で、若い男ではなく、おじさん達を相手に貢がせるシーンもありましたね。あれは、若い男たちが戦争に行ってしまって居ないことを現していたのかも。