虐殺された人々を埋めた土で土人形を作り、語られる物語 『消えた画 クメール・ルージュの真実』
第一に、何としてでもこの地獄を伝えようという気迫を感じる。様々な手段でクメール・ルージュの残した痕跡を、真正面から捉えようとするリティ・パニュ監督。本作、日本で劇場初公開の最新作でした。
今回は、深く心に刻まれた思い出を再現しよう、という試み。普通に考えれば、役者を使って実録物ドキュドラマ形式でやりそうなもの。ところが彼の場合は、そう一筋縄ではいかない。当時のクメール・ルージュによって虐殺された人々を埋めた土から作った、土人形。これらを使って表現しようという。リアルにその地獄を体感させようというのではない。むしろ表情の無い土人形にも関わらず、我々の想像力を刺激した。静止画のままのポーズ、カメラは全体を追う平行移動が多いのに。土人形によって、時代も国も超えた気がした。
私はとても気に入った。描かれていることは途方もない生き地獄であるけれど、人間が突然こうした罪を犯すことが可能なのだろうか?と戦慄せざるを得ない。そんな映像になっていた。
ただ、「与えられたものを受け取って楽しもう」とする鑑賞姿勢では難しいかも。情報ベースのドキュメンタリーではなく、ポエジーによって語られる記憶の再構築ジオラマであるから。観客にも読解力が必要とされる。監督の『S21 クメール・ルージュの真実』を見ている人には、より入り込みやすいかもしれない。何がどのように行われたかを、すでに良く知っているから。むしろこの作品は、当時ありのままの姿というより、何年経っても一向に消えてゆこうとしない、監督自身の思い出に向かっていく。消えてはまた蘇る亡霊のような、幾度も幾度も悪夢の中で立ち上ってくる姿。土人形のおかげでよりそうしたものに似通って思えた。
資本主義の価値観を全て否定し、人々に再教育を与えるという目的の元に、独裁的共産主義的国家を作ろうとしたクメール・ルージュ。「人間は文明などあるから不幸なのだ。」「むしろ、原始時代に戻るべきだ。」などと考えたことがある人なら、こうした思想犯の成れの果てをより恐ろしく思えるはず。貨幣を全て捨て去り、民衆の所有も否定され、民衆は集められ同じ場所で寝泊まりする共同体国家。ろくな食べ物もなく、ひたすら労働を課され痩せ細っていく。結局200万人もの人々が無意味に虐殺され、その他の者は病気に倒れていった。監督の父親のように、国に起こりつつある革命を早くに否定して、一個人の意志で餓死した者は珍しいと言えるのかもしれない。誰も居なくなったプノンペンの姿はショックだ。『動物農場』そのまま、いや、より悲惨な結末を迎えた一国家。
そういえば子供の頃、カンボジアの子供たちというと、飢饉のため食べるものがなく、お腹ばかりが出ている姿というのを見たことがある。それらは全てこうしたクメール・ルージュの爪痕、彼らが破壊しつくした後だったのだ。彼らの国家が、当然なるべくして貧しかった訳ではない。自らの国家を転覆させた者達による傷跡のおかげで、国が一気に貧しくなってしまったのだ。日本もそうならないようにしなければ…と、空恐ろしい思いがした。
’13年、カンボジア、フランス
原題:L’image manquante
監督・脚本:リティー・パニュ
製作:カトリーヌ・デュサール
撮影:プリュム・メザ
音楽:マルク・マーデル
ナレーション:ランダル・ドゥー
人形制作:サリス・マン
2014/07/12 | :ドキュメンタリー・実在人物 カンボジア映画
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