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『S21 クメール・ルージュの虐殺者たち』『さすらう者たちの地』@リティ・パニュ監督特集

S21 クメール・ルージュの虐殺者たち

2014-07-02_2326
驚愕のドキュメンタリー。まさに真実の凄み。
なんでも、『アクト・オブ・キリング』のジョシュア・オッペンハイマーはこの作品に大分影響されたそうだ。まさに「それもそのはず」と言いたくなる作品。
『アクト〜』では当時虐殺を行ったその加害者の視点で作ったドキュメンタリー、というのが前代未聞!と驚いたけれど、こちらの作品の方が先だった。虐殺の張本人の、当時の加害者と被害者が一堂に会して会話をする。なんとも強烈。クメール・ルージュの大虐殺で国民の約3分の一が殺された。ここの“S21”と呼ばれる「絶滅収容所」では、生き残った人達なんてほとんど居ない。つまり、これがどれだけ貴重なものなのか分かる。加害者がその当時を再現する、“ロールプレイ”もまさに『アクト〜』は真似していたし。必見のドキュメンタリー。『アクト〜』に驚いた人は、この作品の出来の良さに驚いてしまうかもしれない。『アクト〜』のような、“やらせ”のようないかにもな演出はもちろん皆無だ。

こちらでのロールプレイ、淀みなくスラスラと演技を行う姿が見られる。ことによると、リハーサルを入念に行っているのかもしれない、などと考えたりもする。しかし、おそらく当時に何度も何度も繰り返し行われたであろう、自分の記憶に基いているせいなのだろう。台詞を考えて思い出しながら言っているという様子は皆無。ここまで自然な演技や動きが出てくるのは、自分の中から出てくるものだからだろうなあ。
加害者の方の言い分は、そうしなければ行きていけなかった事について語る。ハンナ・アーレントがアイヒマンに名づけた“悪の凡庸さ”がここでも当てはまる。にしても、よく自分の国の同胞を、こうして次から次へと虐殺できるものだ。しかも理不尽に、無実と知りながら。…恐ろしすぎる。
でももっと怖いのは、この国だけじゃないこと。カンボジアばかりでなく、インドネシアにしろルワンダにしろ、今からさほど遠くない近過去に、こうした虐殺の歴史の例がいくつも見られる、この事実。…日本だってもちろん無実ではない。

’02年、カンボジア
原題:S-21, la machine de mort Khmere rouge
監督・脚本:リティー・パニュ
撮影:プリュム・メザ、リティー・パニュ
編集:マリ=クリスティーヌ・ルージェリー、イザベル・ルディー
音楽:マルク・マーデル

さすらう者たちの地

Terre-01
こちらもまた、クメール・ルージュの残した傷跡。カンボジアからフランスに渡った後も、リティ・パニュ監督はずっとクメール・ルージュについて描き続けてきたようだ。祖国のことが心から離れず、片時も忘れられないのだろうな…。

カンボジアにもインターネットが敷かれることになり、光ケーブルの工事が始まった。まだ地雷の残る土地で、命がけで掘削作業が始められる。中には命を落とす者や手足を失う者が居る。命が惜しいとは言え、他に仕事のあてもなく、女性でも手をまめだらけにしている。

だが彼らはインターネットなぞ見たこともない。電気も通らないような地にいる。ラーマーヤナを引き合いに出している人もいた。「昔、地獄耳や地獄目などと言った。ラーマーヤナに書かれた書物で、十里の果てまで物を見ることができるという。光ケーブルはまさにそれに当たる。凄いことだねえ…。」

クメール・ルージュが全て破壊し虐殺し尽くした地で、自分たちは全て奪われた、という。何より、教育制度も何も無くなってしまい、自分たちは知識をつけたくてもそれすら出来ない。日雇いの肉体労働をするしかない。自分たちには何も残っていない…。呆気にとられるような想像を絶する世界で、自分には月並みの言葉しか出て来ない。

original

’00年、フランス
原題:La terre des ames errantes
監督:リティー・パニュ
撮影:プリュム・メザ
編集:マリ=クリスティーヌ・ルージェリー、イザベル・ルディー
音楽:マルク・マーデル

 

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コメント(2件)

  1. とらねこさん☆
    この前の土人形も、こちらの映画も「アクトオブ~」もまだ手をつけてない分野で、とても気になってます。
    1歩足を踏み入れたら、戻って来れなくなりそうですね。

    随分前ですけど、パパンはカンボジアに半年くらい先生をやりに行ってました。
    知識人が全て虐殺されてしまったので、新たな知識人を養成するためのプロジェクトだったんです。
    生徒たちが帰国の前になけなしのお金を集めて水上レストランで、亀の生卵をご馳走してくれたそうです。自分たちも食べたことないのに・・・
    ちょっとしたインディージョーンズ的おもてなしで、一緒に川で泳いだりもしたらしい・・・
    それにしても最近よく下痢するパパン。カンボジアより家のほうが衛生状態悪いのか???

  2. ノルウェーまだ〜むさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    ノルさん、この辺の作品群にリアクションありがとうございます!こうやって誰もなかなか見てくれない映画に反応してもらえるだけで、とっても嬉しいですYo〜。いやいや本当、ブログの人はあまり見てる人いないみたいです。twitterでは結構見てる人居たんですけどね。

    いやー、パパさんはカンボジアにも行かれたことがあったとは!しかも、教育者養成のためだったなんて。本当、この映画とも地続きですね。
    そして、パパさんのために亀の卵を用意してくれたなんて!いい話ですね…。素敵な話を聞かせてくれて、本当にありがとうございます!
    なんか、「S21」という絶滅収容所、今では観光地になってるらしいですね。パパさん、行かれたかしら。私も、もしカンボジア行くなら見てみたいなあ。いや、でも怖いけど…。

    あはは!家でお腹下すなんて話で締めちゃったりして。ノルさんたら、話上手〜♪




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