聖書って最も古いディザスター物なんだ! 『ノア 約束の舟』
待ってました、アロノフスキーの新作!デビュー作『Π』から全部監督作が面白いという、稀有な人。個人的には、ドンピシャツボだった『ブラック・スワン』までは行かないけれどーというのは私が山岸凉子ファンであり、今敏ファンだからかもしれないー今回の聖書を扱った娯楽大作も、きっと一筋縄ではいかないだろう!と楽しみにしていた。
“聖書のノアの方舟を舞台にした娯楽大作”。そうか、「ノアの箱舟」、聖書って最も古いディザスター物なんだ。そして聖書に書かれていない行間を見事に解釈し、ここまでの深さを持たせるアロノフスキーはさすが。『ブラック・スワン』好きならきっと気にいるであろう、人間の業の深さ!しかし案の定、キリスト教信者からも賛否両論の声が上がっているようだけど。きっとただの娯楽として気軽に楽しめるものであったら、初めから議論の俎上に載せられなかっただろうに、聖書から改変している点云々~、などと大真面目に取り上げる気にさせてしまったのだろうな。
聖書の物語がいつの時代も面白いのは、人間の根源、善と悪の起源の物語を語る壮大な叙事詩であるから。この辺りを扱いながら、極めて新鮮味のある物語を紡ぎ上げるところが圧巻のアロノフスキー節。自分は、聖書の世界をよくぞここまで、“罪”と“人間”の普遍の物語へと昇華出来たものだ、と感心した。聖書など読んだことが無くても十分分かる“人間”の物語。地球の起源から進化の過程を辿るといった、映像で魅せるスペクタクル感や、岩の守護神たちゴーレムもどきのトランスフォーマー的アクションシーンなど、娯楽大作ならではの面白さもそこそこ揃っている。この先、ネタバレで語ります**************
何より面白いと思ったのは、ノアが初めから人間を滅ぼすつもりで居る点。ここへ来て、いよいよアロノフスキーワールドへ向かっていく。ここまでは言わば皆誰もが知っている聖書のストーリーで、言わば序章。しかしここからは、生身の人間の物語が展開していく。ノアの方舟内に、トバルカイン(レイ・ウィンストン)が侵入し、それを助けるハム(ローガン・ラーマン)の、実父ノア(ラッセル・クロウ)と神に対する背信。産まず女(め)であったイラ(エマ・ワトソン)に奇跡を施したメトシェラ(アンソニー・ホプキンス)により、自分の計画と狂い怒りに駆られるノアであるとか、etc…。
ラスト間際の説教臭い“人類への警告”。ここで、人間が同時に内包している善への可能性、思いやりについて語ってはいる。けれど、私に響いた部分はここより、むしろ“本当は滅びるべきだった人間が、蔓延してしまった”、ここにこそ大いに納得がいく物語になっていた、この点だった。カインの末裔はほぼ滅びたにも関わらず、未だ争いや戦争をやめることが出来ない人間。無駄な殺生を重ね、己の自我や欲求のみで生きている“地球上で一番無駄な生き物”。やがて自らと地球をも滅ぼしかねない人間についての物語として、思う存分納得のいく物語になっていた。ラスト、自分を刺したハムに対して「これでようやく人間だ!」と言った、トバルカインの台詞がむしろ忘れられない。
’14年、アメリカ
原題:Noah
監督:ダーレン・アロノフスキー
製作:スコット・フランクリン、ダーレン・アロノフスキー他
製作総指揮:アリ・ハンデル、クリス・ブリガム
脚本:ダーレン・アロノフスキー、アリ・ハンデル
撮影:マシュー・リバティーク
音楽:クリント・マンセル
キャスト:ラッセル・クロウ(ノア)、ジェニファー・コネリー(ナーマ)、レイ・ウィンストン(トバルカイン)、エマ・ワトソン(イラ)、アンソニー・ホプキンス、ローガン・ラーマン(ハム)、ダグラス・ブース(セム)
2014/06/21 | :文芸・歴史・時代物 アメリカ映画
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コメント(3件)
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ノア 約束の舟
ダーレン・アロノフスキー監督の、大胆な解釈による
ここまでやるか換骨奪胎著しいノアの箱舟物語。
これは賛否両論かしましくなるの当たり前ですわね。
旧約聖書、特に創世記 …
とらねこさん☆
私は聖書部分はあいまいな、どちらかというとスペクタクル大作を楽しんだ口ですが、逆にちらほらと解る範囲で見え隠れする聖書的部分が、逆にいいスパイスになって、その深みに感心させられました。
所詮人間は人間なのですね。
ノルウェーまだ〜むさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
スペクタクル部分を楽しむという見方も出来る作品でしたよね〜!
聖書の解釈も、賛否両論ではあるでしょうけれど、見応えのあるドラマになってました。