抱腹絶倒の日本人論 『日本観光ガイド』
作者:酒井順子
何を今さらの日本観光ガイド!?ベタなタイトルは自信の証。「日本に外国人が旅行に来ました」体で、日本人の不可思議さ、日本人特有の可笑しさを語る。まさに外国人の視点で語るからこそ面白い。諷刺が効いていて、思わず吹き出してしまう日本人論!
日本から海外への渡航者数(アウトバウンド)は年間1600万人と多いのに、訪日渡航者数(インバウンド)はその3分の1以下の500万人であったことから、2010年までに訪日渡航者1000万人を目指した「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を政府が展開したという。これを機に作者は、いかに日本が海外とズレているのか、そうした面白さをピックアップしようとした様子。それも、日本人文化論としてではなく、観光課を卒業した作者・酒井順子氏が、あくまでも観光ガイドを装った書物。今まさに、これからオリンピックで外国人がわんさか詰めかけるというこの時期に、今読むのはとてもタイムリー!ここに書いてある10分の一でも、いやほんのエッセンスでも外国人に語ることが出来たら、きっと面白い経験になるだろう、なんて思ったりも。
特に一番気に入り、読んで思わず吹き出してしまったのは「お辞儀」の回。日本人であれば誰もがしたことの“お辞儀”。これ1つを説明するのにこれだけの事が語れるのか、なるほどこのお辞儀という動作には、日本人の心性が良く表れているものだなと感心してしまった。例えば欧米であれば、初対面の相手と目を見て力強くする握手。このコミュニケーションは、相手との距離を埋めようというもので、目を離さず自信満々に堂々と行うのが重要とされる。ところが日本において行われるお辞儀は、相手から目を離すことが必須。むしろ、目を見たままでは失礼となる。視線を離すことが「相手に敵意を持っていない」ということを示す動作となり、また相手から一定の距離を保ち、弓状に頭を下げることで相手から一定の距離を置くことが必須となる。つまりこの“個人的領域”を指し示しているのがお辞儀という動作であると言う。そこからむやみに入っていきませんよ、とその領域を示しているのが相手に対する礼儀であると。つまり初対面の相手に対する礼儀それ自体が、欧米における握手とはまるで違うものに立っているというんですね。これにはなるほど、とすっかり感心してしまった。また、社会人であればおそらくわざわざ講習すら受けたことのある“お辞儀の角度”。これに関しても詳しく書かれていて、目下の者が目上の者に対してさらにお辞儀を深くする無言のへりくだりについてであったり、相手が深く下げたら下げられた方もそれに合わせなければいけなくなる面倒臭さである、云々…。日本人ならうぬぬと納得することしきり。
自分達で分かっているつもりであっても、あえて外国人の視点で捉えると、様々なところに日本人的な特徴が数限りなく表れていて、なるほど腑に落ちる表現が、実に面白いのでした。
2014/06/23 | 本
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