不安な時代をしっかり見つめた 『ぼくたちの家族』
『舟を編む』が数々の賞を獲り、ますます名声高まる石井裕也監督。今回の最新作は、賛否両論ありそう。やり方によっては失敗してしまうような難しい作品にさらりと挑戦してきた。
今の時代にまさにピッタリの不安が描かれていて、思わず身震いしてしまう人は多いと思う。誰しもに起こり得る恐怖で、そうしたことを考え出すと不安に駆られるだけだから、まずそんな不安を抱きたくない。そんなことが次々描かれていく。是枝監督が『そして、父になる』で描いたように、日本の現在の家族像にメスを入れるかのような。今回のこの作品も、『そして父になる』のような描写の鋭さに満ちていながら、等身大のドラマが描けているような作品だった。
この先、ネタバレで語ります***************
母親が認知症があるのではないか、という疑問が起こる。病院に行くと、これまで元気だったのに突如、脳腫瘍だと診断が下される。予想もしていない母親の病を機に、いろいろな事が判明してくる。息子という立場の男二人兄弟にとって、衝撃的事実ばかり。父親が借金まみれであったこと。本当はバラバラだった家族像。それを何とか歯止めをかけようと一番努力していたのが母親だったこと。ボロボロと出てくる空恐ろしい真実。
ここまでが冒頭1時間、約半分の地点。経済的に不安を抱えた今のような時代にしてみれば、この作品で描かれたことはまさに思わず心が冷えきってしまうかのよう。居心地の悪い恐怖感があって、なんだか急に将来に対する不安に駆られてしまった。しかし、一旦崩れてしまった価値観を立て直し、家族を再発見するラスト。見ていて苦しいけれど、これはまさに必見の素晴らしい作品。
’14年、ファントム・フィルム
監督・脚本:石井裕也
原作:早見和真
製作:竹内力、小西啓介他
プロデューサー:永井拓郎
撮影:藤澤順一
キャスト:妻夫木聡、原田美枝子、池松壮亮、長塚京三、黒川芽以、ユースケ・サンタマリア、鶴見辰吾他
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