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『レイルウェイ 運命の旅路』 日本兵に対して抱くイメージ

poster3冒頭、ニコール・キッドマンとコリン・ファースの恋愛物語から始まるこの物語。しかしこのロマンティックなラブストーリーは、ただの呼び水だった。主人公エリック・ローマクスの魂の闇、忘れたくても忘れられない過去を呼び覚まし、彼の過去の物語を語らせるまでの筆致。

日本人がいかに残虐極まりない拷問をしていたか、卑劣で愚かな日本兵の描写を見たら、苦々しく思う人が大勢居そうだ。そうした人はおそらく、いかに事実ベースの物語であると謳っていようが、「どのような脚色が成されているか」に目をつける人は後を絶たないだろう。それから『永遠の0』のような物語で感動した日本人が大勢居たり、日本の首相とその党の右傾化傾向が他国のニュースで語られるような、そんな年にこのような映画が公開されるのは…なんだか、ゾワゾワする。そうした日本国内での感想が如何なるものであるかより、むしろ諸外国の人々が日本兵に対して抱く払拭できないイメージ、こうしたものについて想像するだにゾッとする他ない。

参照ブログ:Meine Sache~マイネ・ザッへ~ 「架空戦記に見るステレオタイプ」

これがとても興味深くて、こちらを読ませていただいた時もそんな思いを抱いた。“架空戦記”つまり、自国の人しか喜ばないような、架空の戦記モノと呼ばれるジャンルがある。ここでは悪者とされる国があり、人が居るとする。悪者はこれ以上ないほど悪者として描かれ、それを自国の“勇敢な”兵士たちが果敢に破る。そうした戦記物のフィクションを楽しむ物語。単に楽しむためのものであるから、悪者の描写はそれこそ際限がなく、レイプや拷問・殺人・強盗など残虐非道極まりない。こうした描写はナチスがそうであるように、日本兵がそのように描かれることもある、と。外国の人々からしてみれば、特にレイプや拷問が激しい日本兵、こうしたイメージが持たれている、というんですね。

そのようなイメージを先行するものとして考えると、この物語がいかに事実と違うかを語ることはあまり意味のないことかもしれない。あくまでも“事実ベース”の物語だとしても。架空戦記のように「フィクションである」と気軽に否定することは出来ない。この物語やその原作についても、事実が明るみに出た部分があったのだろう。『戦場にかける橋』とは違う側面からの視点。日本の右傾化と共に、今後もこうした日本兵のイメージが、メジャーなものとして描かれる機会が増えてゆくのかもしれない。そう思うと、やはり切ない。そして空恐ろしい思いがする。

’13年、オーストラリア、イギリス
監督:ジョナサン・テプリツキー
製作:アンディ・パターソン、クリス・ブラウン他
製作総指揮:アナンド・タッカー
原作:エリック・ローマクス
脚本:フランク・コットレル・ボイス、アンディ・パターソン
撮影:ギャリー・フィリップス
音楽:デビッド・ハーシュフェルダー
キャスト:コリン・ファース(エリック・ローマクス)、真田広之(永瀬隆)、ニコール・キッドマン(パトリシア・ローマクス)、ステラン・スカルスガルド(フィンレイ)、ジェレミー・アーバイン(若きエリック)、サム・リード(若きフィンレイ)、石田淡朗(若き永瀬)

 

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コメント(4件)

  1. 『レイルウェイ 運命の旅路』 (2013) / オーストラリア・イギリス

    原題: The Railway Man
    監督: ジョナサン・テプリツキー
    出演: コリン・ファース 、真田広之 、ニコール・キッドマン 、ステラン・スカルスガルド 、ジェレミー・アーバイン …

  2. 試写ありがとうございました。
    これは史実とはだいぶかけ離れているということらしく。
    悪意を持って描かれた作品かと思うと、それだけで映画としての価値ってぐんと下がってしまいます。

    これを観て私は『オーストラリア』を思い出してしまったんですよね。あれも日本兵は徹底して悪く描かれてて、そう簡単に敵国側は禍根を忘れるはずはないこともわかる。そしてどっちもニコールが出てたし。彼女日本本当に嫌いなんだろうなっていうのが露骨にわかってしまうんですが(苦笑)

  3. rose_chocolatさんへ

    こちらにもありがとうございました。
    史実と違うからそれで価値が無い、というのはちょっとどうなんでしょう。事実を映画化する限り出てくる問題ですからね。
    オ−ストラリアにも実際そうした描写はありましたが、別に気にならないほどだったと思いますよ。
    出演女優や俳優が親日であるかないか、こうした問題は正直、私にはどうでも良かったり…。

  4. 『レイルウェイ 運命の旅路』 日本人にできること

     映画が素晴らしいだけでなく、映画が存在することが素晴らしい――そんな作品がある。
     映画を完成させ、世界に発信していくことの意義――その崇高さに圧倒される作品がある。




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