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死を賭した抵抗運動 『HUNGER ハンガー』


こ、これがデビュー作ですか!この凄まじさ。

青山シアター(自宅PC)でなく、劇場で見れて本当に良かった。ひたと画面を見据えるのがあまりに辛いこの作品を、もし自宅PCで見てたら。きっと私の集中力は切れまくっていたに違いない。時々twitter見たり、「HUNGERなう」とか呟いちゃったりして。

強烈な画作り、かつ奇想天外で強烈な作家性に弱い。そんな自分には、スティーブ・マックイーン監督はツボに入ってしまった。…にしてもまさか『SHAME』の翌年に、いきなりアカデミー賞作品賞を獲るとは思わなかったけれど。

いや本当、デビュー作にして強烈。北アイルランド紛争だとかIRA反乱組織の、刑務所内の囚人たちの抵抗活動をだけ取り上げるとは。狂気に満ちた物語。フレームに切り取られる一つ一つの画が、見事にキマっている。

冒頭、いきなり刑務所内でのダーティー・プロテスタントの有り様が繰り広げられる。自分の糞尿を使った抵抗運動で、囚人たちは自らの糞を壁に塗りたくる。蛆はニョロニョロ蠢いている。気持ち悪いったら。

私はこれを見た時、前日飲み過ぎていたんですね。その上まだその日にも呑む予定を立てていたため、ダイエットにと、ちょうど朝から夜の7時までチョコレートしか口にしなかった。お腹ペコペコな状態でこの映画を見たが、私の可哀想な空腹感は、途中で否が応でも駆逐されてしまった。壁にグッチャグッチャ塗りたくる糞を見て、涙目で反吐を吐きそうになった。本気でキツイ…。だが、そこが良い!

途中の怒涛の長回しは、いかにもこの監督らしい。この作品ではそれが、IRA抵抗運動の首謀者である、ボビー・サッズ(マイケル・ファスベンダー)と牧師(ロリー・マレン)の会話。俳優としての真剣勝負のよう。ここでの長回しの緊張感、異様な雰囲気は、死を賭した抵抗運動に移行しようとしている人物と、死ぬつもりの相手の魂を救おうとする、牧師の魂そのものの言葉だった。それこそ真剣勝負。自分が偽物であればあっという間に相手に看過され捨て置かれてしまう。牧師はまさにこうした人物に遭う度、自分の信仰をかけた言葉での拳闘が成されるのだろう。

その後、死の床に臥すまでのハンガー・ストライキの有り様が描かれる。自由への戦いというよりは、狂気に満ちた驚くべきルポルタージュのよう。他の何にも似ていない物語だった。

’08年、イギリス
監督:スティーブ・マックイーン
製作:ローラ・ヘイスティングズ=スミス、ロビン・グッチ
製作総指揮:ジャン・ヤングハズバンド、ピーター・カールトン他
脚本:エンダ・ウォルシュ、スティーブ・マックイーン
撮影:ショーン・ボビット
音楽:デビッド・ホームズ、レオ・エイブラハムズ
キャスト:マイケル・ファスベンダー、リーアム・カニンガム、スチュアート・グレアム、ブライアン・ミリガン、ロリー・マレン

 

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