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サラリーマンだって冒険に出る 『LIFE!』

img_01トロピック・サンダー 史上最低の作戦』以来6年ぶりのベン・スティラー監督作品。

監督作以外にも彼が携わった製作作品や、アカデミー賞の際のプレゼンターとしてのおふざけなどを見ると、本当にお笑いが好きな人だなあと思う。でもコメディから少し離れ、『リアリティ・バイツ』のような、ふと一人になった瞬間に見せるような顔、そんな作品に味わいがある。この作品も彼のまた別の面で見せる秀作。

物語は、平凡な男が冒険に出る面白さが、浮き立つように描かれていて、心地よい爽快感の作品。会社の中に必ず居るような、決して目立たないけれど、縁の下の力持ち的な存在。そんな人々にそっと寄り添うような優しさを持っている。普段ずっと会社の中で仕事をするような、一つのところに縛られて生きている人ほど、心に深く共感する映画かもしれない。

そう言えば子供の頃、初めて地球全体の地図を見た時に、グリーンランドやアイスランドって憧れの地だったなあ。南極や北極が氷山に覆われていて人が住めない、と聞いたら、それなのにこんな近くに国があるのか、と驚いたし、そこに何があるんだろうって興味津々だった。サラリーマンのウォルター(ベン・スティラー)にとっても、一番行くはずのないような場所がこの辺りだったに違いないよね。私は、大人になってすっかりこの周辺の国々に憧れたことすら忘れていたなあ。自分が忘れかけていた思いを呼び起こすような驚き。この映画、大人にとっての『ネバーエンディングストーリー』を目指した物語なのかもしれない。メーテルリンクの『青い鳥』みたいに、探しものは自分の家にあったけれど。

画の中に文字が入っていたり、画面のカラーコントロールをして色合いを変えて見せるなどのおかげで、不思議な書割感、虚構感がある。初めは妄想癖の強い人物であるから、妄想の中で色を変えているのかと思った。たとえば、会社の中で彼が妄想する瞬間、コーヒーメイカーの取っ手の赤が色浮きし、赤が飛んでしまうほどの色合いに変えている。ここが呼び水となって、私は、画面の中の赤を映画の間中ずっと探してしまうことになった。

例えば『シックス・センス』では、画面の中に赤を使うと、そこが警告のように合図となって、別の異世界が顔を覗かせていた。この作品では、そうした妄想への入り口を表現しているのかと思った。ニューヨークにいる間、彼の画面のどこかしらに、必ず赤が映り込んでいる。例えばコーヒーカップのクローズショットでは、カップは白で机が茶色だが、机の右端に別の雑貨の赤が映り込んでいる。こんな風に。ところが彼が冒険の旅に出た間は、そんな赤の使い方をしていなかった。彼の世界が妄想を欲していない証拠かと思った。だがまた会社に帰ってきたら、どこかしらにまた赤が使われていた。彼は、前のように妄想の世界へ飛んで行くことはなくなったけれど。

こんな風に、ずっとスクリーンの中の赤のことばかり考えてしまった。それがノイズになって、少々映画の世界に没頭するのを妨げるほど。少し残念に感じた。そんな風にカラーコントロールが気になったけれど、基本的には普遍的な物語だったと思う。現実世界のどこかで、ふと気づけば旅を欲している自分が居る。たとえば、現実の世界の赤をボンヤリと見る時に、ふとこの映画の事を思い出すかもしれない。そんな気持ちにさり気なく後押しをして、妄想の世界に連れて行ってくれるような作品。さり気ない良作。

’13年、アメリカ
原題:the Secret Life of Walter Mitty
監督:ベン・スティラー
製作:サミュエル・ゴールドウィン・Jr.、ジョン・ゴールドウィン他
製作総指揮:ゴア・バーヴィンスキー、メイヤー・ゴットリーブ他
原作:ジェームズ・サーバー
原案・脚本スティーブ・コンラッド
撮影:スチュアート・ドライバーグ
音楽:セオドア・シャピロ
キャスト:ベン・スティラー(ウォルター・ミティ)、ショーン・ペン(ショーン・オコンネル)、クリステン・ウィグ(シェリル・メルホフ)、シャーリー・マクレーン(エドナ・ミティ)、アダム・スコット(テッド・ヘンドリックス)、パットン・オズワルト(トッド・マハール)、キャスリン・ハーン(オデッサ・ミティ)他

 

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コメント(5件)

  1. とらねこさん☆こちらにも
    へー?赤が気になっちゃったんですね?
    私まったく記憶に無いわ・・・

    私はアイスランド行ったことあるのですが、夏には氷がないアイスランドに、ちっとも緑の無いグリーンランド、興味深いですよねぇ。
    私はフィンランドの氷ホテルに行きそびれたのが未だに残念で。

  2. ノルウェーまだ〜むさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    そうなんです。私は結構色や映像、撮り方にうるさいのかもしれないです…。
    普段から結構画作りとかいちいち見てるような。

    ほー!ノルさんはやっぱりアイスランド行かれた経験お有りなんですね。氷の無いアイスランド、緑の無いグリーンランド…う、ちょっと悲しい気もするけれど!?w
    寒いだけだったらいやだなあ… 案外、ありがちかも!?w

    フィンランドの氷ホテルも行きたい!友人がフィンランド人居るんですよ〜

  3. 「LIFE !」

    これは、すんばらしかったですね!

  4. あ、そうそう、オープニングクレジット、風景の中に文字が出ました。たま~に、そういう映画ありますね。
    これは、予想以上に、いい映画でしたね。
    マリリンも出たし!(笑)

  5. ボーさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    オープニングクレジット良かったですよね。
    私が思うに、会社の中で長時間過ごすタイプのサラリーマンほど、この映画にやられちゃうんじゃないかな?なんて思ってます。どうかしら。




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