山村浩二作品集
カフカ 田舎医者
短編アニメーション、35mm、21分、2007
無意識に作用するような暗さが見事。何より凄いのは、バランス感覚がおかしくなるような映像で、ぐにゃりぐにゃりと歪む。現実世界の上と下の感覚といったものを無視した映像とでも言うべきか。異次元をアニメで表現したらこのようになるんじゃないか、とでもいうような。それなのに不思議とその絵に見入ってしまう。そうこうする内に、精神世界の暗黒面に連れて行かれるような気がする。
シネカノン有楽町でやっていた頃に一度、レイトショーで見たのだけれど、最初から最後まで寝てしまい、見た内にすら入れることが出来なかった作品。レイトが始まるまでの長い時間、漫画喫茶で待ったのに…。眠りを誘うのは無意識に作用しすぎたせいかもしれない。翌日の朝また会社行くのがいつもより何倍もドンヨリしていたから、寝ながらこの作品のエッセンスを感じ取っていたのかも。
カフカの原作は読み返してみなくちゃ!
こどもの形而上学
短編アニメーション、35mm、5分8秒、2007
紙のようなテクスチャ感と、自由に線を引いただけのような描画感覚。
年をとった鰐
短編アニメーション、35mm、13分、2006
ブログをやり始めの頃に、ある人のこの作品の感想を読んで、以来ずっと忘れられなかった。それほどインパクトの強い作品で、そんな思いをしたのはこの作品ぐらい。その時の自分の精神状態には辛い思いをしそうで、見れなかった。
毎日恋人のために魚を採ってくる、献身的な恋人のタコ。そのタコの足を、我慢しきれず夜にこっそり一本づつ食べてしまう鰐。とうとう彼女(タコ)は動けなくなるが、動けなくなった彼女のことを美味しく食べてしまう。
『おおきな木』のことを思い出す。愛情の意味について考えてしまう。鰐はおそらく自分のことしか考えない人のことだ。愛について思いを巡らすことのなかった人生。こういう人は案外居そうである。誰だってそうなる可能性もある。もちろん自戒を込めて、この話を思い出すだろうな。
P.S.ところで最後、何も知らない人間に祀られるのだけれど、「鰐はゆでダコのように真っ赤でした」という一言で終わるのだけれど、この部分の英語字幕が「ロブスターのように」になってた。ここはタコじゃないと意味が変わってしまうんじゃないか、と思うのだけれど、単に赤い色ということだけでロブスターでいいのかしら?。タコを食べるという食文化が無い国もあるし、茹でると赤くなることを知らない国もあるだろうけれど…。
Fig
短編アニメーション、4分20秒、2003
頭山
短編アニメーション、35mm、10分、2002
これは楽しい。落語の「あたま山」をアニメ化したものだったのね。
落語と三味線、それに山村浩二の大胆なタッチのアニメのコラボレーションがすごく新鮮!
『カフカ 田舎医者』では現実の世界を歪めて描き、どちらが上でどちらが下なのか、分からないような映像だったけれど、こちらも、あり得ない映像感覚ということで言えば、頭山を持つ主人公が見えている世界と、彼の頭を映し出した映像とが、同時に表されていて斬新。頭の上に上がってみれば、そこに花見をしている客が!面白くて何度も見たくなる。これは癖になる。
five fire fish
短編アニメーション、1分29秒、2013
iPadのアプリで、ベッドに寝っ転がりながら、何気なく作った映像とのこと。
マイブリッジの糸
短編アニメーション、35mm、12分39秒、2011
山村浩二アニメの成熟さを感じさせられる最新作。…と言っても、先ほどのiPadの映像を抜かして言うなら。
色合いもとても心地よくて。
キネトスコープは、このエドワード・マイブリッジが作ったゾープラクシスコープ(名前が覚えられない…)を見たエジソンが、触発されて作ったという。エドワード・マイブリッジの人生と、彼が捧げた馬の連続写真。
こんな風に簡潔に描かれる人生がまた、心惹かれる。
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