ゴンドリーの新作はアニメ! 『背の高い男は幸せ? Is the Man Who Is Tall Happy? 』
言語学者/思想家/哲学者/マサチューセッツ工科大学名誉教授…etc,等々様々な肩書を持つノーム・チョムスキー。ゴンドリーの新作はチョムスキーとのインタビューをアニメ化したもの、というちょっと変わり種。インタビュー映像って普通、その人の喋る顔が出され、映像や編集で何とか他の興味を引きながら、退屈させないようにしようとしますよね。この作品では、そのインタビューの内容に合わせ、そこに無尽蔵のゴンドリーの想像力、とでも言うべきものが付与されている。説明的というよりは、その説明を膨らませ自由を与えるような発想力のあるアニメーション。チョムスキーの難解な理論も、彼の人生の振り返りも、アニメーションでもって表現しようとする。極めて大胆不敵な試みだった。
チョムスキーはそもそも、常人には考えられないほどの天才的頭脳の持ち主。どのように彼が思考するのか、その秘密なりエッセンスなり、といったものが凝縮して見せられたようでとても刺激的だ。まず、教育とは容器に水を注ぐような行為ではない、と言う。自分の頭で考える人間を作らないと。インタビューは彼の生い立ちに始まり、ユダヤ人として地獄のようなキャンプ時代を経たことについても、容赦無く触れていく。そして、チョムスキーの唱える生成文法の入門的基本思考について。
でその都度、ゴンドリーのアニメが眼前に描写されるという、素晴らしい映像体験。ゴンドリーのアニメーションセンスの凄さについて、これほど身近に感じられるものはないかも。なんたって彼自身によるハンドライティングのアニメーション映像が、ゼロの空間から自由に描写されていくんだもの。それも幾何学的模様であったり、何ともユニークで可笑しなものであったり、フェチ的魅力に溢れていて凄い情報量。「ここで僕は自分を馬鹿のように思った」とか、「自分のひどいアクセントのせいで、話が通じなかったが、こうした意図でその話にこだわった。」などという、ゴンドリーらしいおとぼけさも挿入されて、なんだか吹き出してしまう。
さらに、チョムスキーの人となりについても魅了された。これほど柔軟な思考の持ち主は見たことない。彼の亡くなった奥さんへの愛情についての質問は、ゴンドリーはよくそんな難しいものへ突っ込んでいったなあ、と思うのだけれど、それを引き出した彼の狙いは見事だ。あんなに泣かされてしまうとは…。チョムスキーが生きている内に、彼のインタビューを見ることが出来て本当に幸せだ。チョムスキーを知るのに、これほど幸福な入門は見当たらないだろう。そしてゴンドリーの想像力、アーティストとしての彼の才能は驚くべきもので、しかも愛すべきものに思えた。
これ、ちなみに吉祥寺のバウスシアターの閉館前のイベント、「GEORAMA 2014」という新しいアニメーションフェスティバルの中でかけられるらしい。今回見逃した人も、良ければ吉祥寺に見に行ってみてね~!
’13年、フランス
監督:ミシェル・ゴンドリー
出演:ノーム・チョムスキー、ミシェル・ゴンドリー
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