余計なものは何も無し! 『オール・イズ・ロスト』
究極の状況下での遭難物なんてそれほど多くはないのに、こう最近矢継ぎ早に作られるとちょっぴり食傷気味。海洋漂流物で『コン・ティキ』もあったし、少し前の『147時間』だってたった一人のサバイバル物。もっと最近だと『ライフ・オブ・パイ』に『ゼロ・グラビティ』が記憶に新しい。だけど今回のこの作品は、『ライフ・オブ・パイ』や『ゼロ・グラビティ』から、虚飾を全て取っ払い、必要なものそれだけにした、とことんリアルな作品だった。
「何も引かない、何も足さない」、なんてどこかの宣伝文句じゃないけど、そんな本物の凄み。CG無しにこだわったのだろうか。一体どうやって撮影したんだろう。台詞なんてほとんど無くて、「Fuck」ぐらい。「SOS」の願いは虚しく空を舞うだけ。「何も引かない」というのは、ワンショットがすごくゆったりと長めに回していて、まるでドキュメンタリーでもあるかのような作り。今そこに居るかのようなリアリティ。
「祈る暇すら与えられない」、なんてこの間話し合ってた。やるべきことを淡々とこなすだけ。彼のやらなかったことは、無駄に焦燥に駆られたり絶望に落ち込んだり。自分の人生を振り返ったり、悔やんだりもしない。
タイトルこそ『オール・イズ・ロスト』だけれど、彼は初めは全てを失っている訳ではないんですよね。必要に駆られて、少しづつ要らない物を捨てていく。何を捨て、何を残すかについて正確な判断を下すのが、こうした状況下で一番大切なことのように。そしてとうとう彼が全てを失う瞬間が訪れる。これはお楽しみに。
エンドロールが流れて初めて、我らが主人公の名が「Our man」であることに気づいた。本当に究極の作品。それなのに何故か退屈とは無縁だった。
’13年、アメリカ
原題:All is lost
監督。脚本:J・C・チャンダー
製作:ニール・ドッドソン
製作総指揮:ザッカリー・クイント
撮影:フランク・デマルコ、水中撮影:ピーター・ズッカリーニ
キャスト:ロバート・レッドフォード(our man)
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コメント(2件)
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とらねこさん☆
そうそう、やや食傷気味だったので、観るかどうか迷っていたのでした。
なんと台詞も無いのに最後まで飽きさせないとはっ☆
これはちょっと興味がわいてきました。
パパンは結構サバイバル的本が好きで、何十日も漂流して生き残った人の手記とか、公園でブルーシートのお家を立ててソーラーや自家発電で快適に暮らしている人のハウツー本など読んでます。
何も足さないギリギリの生活に、なぜか憧れているようです。
ノルウェーまだ〜むさんへ
こちらにもありがとうございます♪
そうなの!やっぱりノルさんも食傷気味な気がしますよね?!
結構評判は良いんですよ、これ。
それなのに私が見に行った時も、結構空いていたなあ…。
おお!パパンはサバイバル本が好きとはw。
やっぱりパパン、面白い〜!
うん、電気使わない暮らしってどんなんだろう?なんて想像したりします!
なんか最近、いい映画がいっぱいで、本当どれから見たらいいか困るぐらいですよね〜。