『女優須磨子の恋』『河口』@山村聰特集
「日本のオジサマ 山村聰特集」にて。おかしなタイトルではあるけれど、この特集は本当に行って良かった!大満足でございました。
山村聰がすごーく素敵なんですよ。思い出してもニヤニヤしてしまうぐらい。すごく雰囲気のあるイケメンではあるのに、その多面的な魅力がたまらない!どうしようこの特集、通いまくってしまおうかしら。
女優須磨子の恋
実在した女優・松井須磨子の一生を、『人形の家』のノラになぞらえて捉えた一人の女優の話。
ワンショットが長めで、まるで舞台演劇のよう。特に見事なのが冒頭。1.島村抱月の人物の背景、2.イプセンの『人形の家』が近代自我に与えた影響、3.松井須磨子の人物と背景。これらを冒頭の3ショットで見事に語る。無駄など一切無し。3ショット目では、松井須磨子がノラそっくりの女性であることが、たとえイプセンの『人形の家』を読んだことのない人にもおそらく分かるだろう。
田中絹代をロングショットで捉えると、まるで松井須磨子本人にそっくりなのね。勝ち気でワガママな、だけど女優魂に満ちた一途な女優の一生。あまり好感がモテるタイプの女性ではないのだけれど、体当たりで演じている。山村聰演じる島村抱月は、むしろ彼女の情熱に引っ張られるかのよう。遠目に見てもイケメンで、うーん絵になる男だなあ。
ちなみに、『ガラかめ』の月影先生の舞台脚本家とのラブロマンスって、松井須磨子と島村抱月の恋愛がベースになっていたのね。こういう事を後から知るのってたまらない。月影先生ー!と思いながら見てた。
’47年、松竹
監督:溝口健二
脚色:依田義賢
原作:長田秀雄
撮影:三木滋人
キャスト:田中絹代(松井須磨子)、山村聰(島村抱月)、毛利菊枝(夫人いち子)、朝霧鏡子(長女ハル子)、渡部冴子(次女キミ子)、東山千栄子(祖母せき)、小久保田久雄(中山晋平)、東野英治郎(坪内逍遥)、岸輝子(夫人せん)他
河口
これDVDになっていないのだけれど、ゆるいコメディとしても不思議な魅力のある小品!今回の山村聰シリーズの中でも、この作品は忘れられないものがある。山村聰はあんなに雰囲気のある素敵なオジサマなのに、女に全く縁のなさそうなオタクを立派に演じているんですよ!これだけでも充分素晴らしくて、私はこの人にすっかり惚れてしまった。演技が上手い俳優が好きなんですよ。コメディって案外難しくて、間のとり方一つ、台詞の喋り方一つで全く面白くなくなってしまうこともある。そんな難しいものなのに、まるでコメディ俳優のように見事に演じきれているんですよ!なんて素晴らしい俳優なんだろう。
そればかりじゃなく、岡田茉莉子の魅力もたっぷり!彼女のファッションが可愛いので、見ていて眼福でございました。岡田茉莉子って綺麗な人だと思うけど、ごめんなさい、私おばさんになってからの彼女のイメージが強すぎて、実はさほど好きな女優ではなかった。子供の頃彼女をTVで見て、「喋り方が気持ち悪い、目が大きい化粧の濃いおばさん」としか思っていなかった。昔の映画を見るようになってから、彼女のファンが案外多いことを知りビックリした。やっぱり彼女は悪女タイプの役が多いと思うのだけれど、今回はそれが見事に作品の味わいになってるんですよね。そして本当に綺麗に見える!冷めた目で世を舐めた感じの、男を利用する女でありながら、どこか憎めないんですよね。そして、女に興味のない館林との凸凹コンビの距離感、空気感がなかなか楽しめた。
遠野英治郎は出てくるだけで可笑しいんですよね。自分に気のない女を追いかける男の役をやって、顔だけで笑わせちゃうなんて!アイスクリームのシーンも最高だったな。「アイスクリーム食べそこねたやんけ!」っていう台詞では、女にコケにされたことより、アイスクリームを食べれなかったことを悔やんでいるように見える(笑)。あと、コケるシーンはベタなのに笑ってしまうし。遠野と山村聰のやり取りなんて最高!思い出すたびニヤニヤが止まらないよ。ふふふ、ほんとにこの作品は楽しかったな。
あそうそう、昔の映画のアイスクリームって、シルバーの高坏によそられてるのよね。あれ食べたいな。私がまだ子供の頃は、ああい銀の食器にアイスが出てきた気がする!デパートとか喫茶店で。
’61年、松竹
監督:中村登
脚色:権藤利英
原作:井上靖
製作:深沢猛
撮影:厚田雄春
キャスト:岡田茉莉子(白川李枝)、山村聰(館林吾郎)、田村高廣(司梶太)、東野英治郎(角井清一郎)、杉浦直樹(三崎洋一)、滝沢修宮(原大三)、町田祥子(新藤かね子)、川金正直(武田潔)他
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コメント(2件)
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わーい、オジサマ特集、通ってくださーい。
私も今回は積年のお目当て「河口」だけ観ればいいやと思っていたんですが併映の「闇を横切れ」での山村聰がメチャ、カッコ良くって、これは通いたくなるなぁと・・・
スケジュール都合が付きそうにないけどあと1回くらいは行けたらいいなと思っちょります。
そして、この時代の岡田茉莉子さんは銀幕一の美女なのです。私もおばちゃんの茉莉子さんから知った口ですが、1958年の岡田さんがいっちゃん綺麗ですよ!
imaponさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございます。
オジサマ特集、結構見たもの多かったですか?
おっ、『河口』と『闇を横切れ』ということは、昨日ですね。
これ、私もどっちも好きだったです。『河口』はちなみに水曜に見ればフィルムで見れたんですが、金曜はデジタルでしたね。ま、いいや…
岡田茉莉子、本当にこの作品ではすごく良かったですよね。ファッションも楽しくて。
58年頃が一番綺麗なんですね。ピンポイントだなあ(笑)『悪女の季節』とかですか?それにしても、出演作ものすごくたくさんありますね…。
一番最近ですと、『ウェルカム・トゥ・サンパウロ』で吉田喜重監督の短編に本人出てましたよ…。奥さんですよね。
http://www.rezavoircats.com/2008/12/741