青春の危険な冒険 『17歳』
「17歳」というタイトルがいかにも日本らしいんだな。原題は「若くて美しい」という意味なのだけれど。南沙織に森高千里のあの歌を思わず思い出してしまう私だけれど、不思議と「17歳」と言われただけで、いかにも不安定な子供大人の、成熟しきる少し前の危うさというものを、表現しているように思える。そんな想像をいろいろとたくましくしてしまう年齢。
実は私も「17歳で処女を捨てるんだ」なんて、13歳の頃からずっと言ってた。「済ませてしまいたい」というぐらいのライトな感覚で。いかにもモテなそうな音楽教師を見て、「30過ぎて蜘蛛の巣が張ったような処女って最悪」とか酷い陰口を叩いてた。人より経験がうーんと遅れてしまうのは、いかにも乗り遅れた人だと思われそうで悲劇にしか思えなかった。
テレクラに電話をかけるのは、みんなでよくやる悪ふざけだった。単なるイタズラ電話みたいなもの。中学生の女の子数名で集まって、小さい巣穴みたいな薄汚い部屋で、ひたすら電話待ちをしている惨めでモテないサラリーマンの反応を楽しんでいた。でもそれは、性に対する興味がみんなその裏にあった気がする。小学6年生でマセた子は、ペッティングの経験なんかを語った子も居た。修学旅行の時にみんなで集まって夜中に話す、大騒ぎのネタの一つとして。そうした悪ふざけが性への興味と相まって、発展していった人も居た。たとえば友人の妹がそうで、彼女は化粧っけ無しの顔で売春していたという。そんな話を友人が電話で聞いてしまったなんて言ってたっけ。
日本で同じ話を描けば全然違うだろうに、フランスでは、オゾンが描くなら、こうも違うのね!はぁー、素敵だった。“女の子の売春話”なんて、渋谷や新宿辺りに行けばいくらでも転がっている、二束三文のストーリーにしか思えないのに、こうも過激でロマンチックでしかもアート的でもあるなんて、さすがだわ。映像で欲望を作り出し、挑戦してみせるオゾンの真骨頂。マリーヌ・ヴァクトの若さと美しさを堪能し、目で視姦する2時間余り。至福、眼福でした。腹上死も有り(笑)。そしてオナニーは騎乗位で!『ブラック・スワン』のナタリー・ポートマン、『悪の法則』のキャメロン・ディアス以来の騎乗位オナニーですね。
以降、ネタバレで語ります**************
夏の処女喪失、そして秋の初めての売春の後で、ランボーの一節を読むシーンが鮮やか。彼女のそれは危険な“青春の冒険”であると説いてみせる。彼女の鮮烈な一年を四季に例えて。そう、成熟しきった大人には四季なんて、一年なんて飛ぶように過ぎていく朦朧としたものにしか過ぎない。けれど、10代の1年は何ともビビッド、鮮明であったことよ!
売春のキッカケについて、警察に巧みに作り話をするところが見事だった。なるほど、「18歳までであれば被害者で要られる」のね。出会い系サイトもSNS的であったり、PC上でいくらでも性に関する情報が転がっている時代は、手を伸ばせばすぐそこに危険がある時代ということか…。改めてゾッとする。女の子の成熟は男よりずっと早く、気づいたら同世代の男の子が遅すぎて物足りない存在になっている。とてもリアル。本能を見透かされたみたいに恐ろしくて、だけどかつて女の子だったことのある私達には、無意識下でよく分かる感覚的なものがそこにある世界だった。
突然シャーロット・ランプリングが登場するラストは、まるで『まぼろし』や『スイミング・プール』再び!という感じを呼び起こす。オゾンて本当に、よくもまあ見事に女性の気持ちが分かるものよね…。何とも微妙な心の襞を抉るオゾン特有の鋭さ。同じテーマの焼き直しを何度描いたとしても、その都度魅了されてしまう気がする。映画に描かれた欲望には終わりがないのだなあ。それにしても、ラストの締め方の見事なことよ。
’13年、フランス
原題:Jeune & jolie
監督・脚本:フランソワ・オゾン
製作:エリック・アルトメイヤー、ニコラス・アルトメイヤー
撮影:パスカル・マルティ
音楽:フィリップ・ロンビ
キャスト:マリーヌ・バクト(イザベル)、ジェラルディン・ペラス(シルヴィ)、フレデリック・ピエロ(パトリック)、ファンタン・ラバ(ヴィクトル)、ヨハン・レイセン(ジョルジュ)、シャーロット・ランプリング(アリス)
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コメント(7件)
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『17歳』 (2013) / フランス
原題: Jeune & jolie
監督: フランソワ・オゾン
出演: マリーヌ・バクト 、ジェラルディン・ペラス 、フレデリック・ピエロ 、ファンタン・ラバ 、ヨハン・レイセン 、シ…
前作『・・プロット』は今一つノレなかったんだけど。これはストンと落ちてきました。
オゾン作品って、どんぴしゃってくるものがなかなか私にはなくて、これは久々のヒットです。
こういう、曖昧さで収束した方がいいテーマについて、実にうまく持ってきたと思いました。
女性同士で語るのは面白そうですよね。女子会くらいじゃとてもおさまりそうにない尺だけど(笑)
rose_chocolatさんへ
こちらにもありがとうございます♪
『危険なプロット』、お嫌いでしたか!私はオゾン作品の中でも、1,2を争うお気に入りです(笑
でも見てないオゾン結構あるので、拾っていかねばならんなー。
しかしこの作品は、もう理屈じゃないものがありましたよね。
roseさんがこの作品はベスト!っていう作品て、それ選ぶの分かるわ、という迫力があるものが多いですね。
ラストのバシっと締める辺りも、カッコイイんですよねー!
シャーロット・ランプリングのラスボス感半端なかったです。
女同士であれこれ語りたい映画ですわ。
とらねこさん、こんにちは☆彡
とらねこさんのレビューは、プライベートなお話も書かれていることがあって、とっても興味深く楽しく拝見させてもらっています^^
私もとらねこさんと同じに、若い頃同じ風に思っていました。
でも、最近の若い子は、両極端なのかな・・・。
ネット(2ちゃんとか?)で、処女性に強くこだわる男性がいるのも関係してるのかな? 昔より、そういう事に慎重な女子も結構多いみたい。
私の友達の中では、中学の時済ませた人が数人いて、高校時代のパターンが多いかな。
latifaさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
本当ですね。今読むと、こんな事まで書いちゃって…我ながら呆れます^^;
個人的には、映画の批評的を真面目に書く人より、素人だからこそと、好きなこと書いてる人のブログの方が、私好きなんです。
その方が読んでて楽しいし…なんていう考え方のため、結構好き勝手なおしゃべりをさせていただいてます。
でも、もうブログやり始めて8年目ですし、最近はすっかりネタも尽きてきました(笑)
私も、若い頃サッサと処女を失いたくてたまらなかったのですが、高校の時の彼氏と結婚したかったので、出来ればそうした関係に陥らずに結婚までこぎつけよう、相手を振り回そうと思って、結局何もせず別れちゃいました(笑)
おかげで20歳まで処女でしたよ。こんなとこに書いちゃいましたが(爆
私からすると、中学の時に初体験を済ませてしまう人は色ボケしたヤンキーのイメージがあって、高校の時の人ですら私にとっては早いなあ〜と…。
でも女の子は、早い子は早いんですよね。熟すのが早い果実(爆)
この主人公のイザベルがまさに早熟な人でしたね。
実際の気持ちはわかりませんが(監督だって女性じゃないけどねえ)、わからないけど、わかるような。(どっちだよ)
映画館に観に行こうかと思いつつスルーしてしまった作品ですが、やっぱりオゾンは何だかいい。
http://bojingles.blog3.fc2.com/blog-entry-2984.html
ボーさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
はい、女性である私から見ますと、オゾンは本当に女性の気持ちを分かっているなあ…と毎回思ってしまいます。
『まぼろし』辺りからずっと。
オゾンでは最近公開されたもので『彼は秘密の女ともだち』という作品があるのですが、
言わば、「男であること・女であること・その中間であること」
これらの考え方を独自に再確認するような面白さがありました。
オゾンはその自由で独創的な考え方がやはり、とても魅力ですよ。