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しみじみほのぼの 『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』

139134712987804906228アカデミー賞何も受賞出来なかったけれど、カンヌでブルース・ダーンが主演男優賞獲ってるもん。

アレクサンダー・ペインでロードムービーと来ると、思わず『サイドウェイ』を思い出す人は多いだろうな。ロードムービーって基本はジャック・ケルアックの『路上』みたいに、若者がその主な世代なのかしら。でもアレクサンダー・ペインが『サイドウェイ』で描いたのはとうの立った大人。そして今回もまた、死出の旅路の方が近いというお父さんと、その息子。息子の優しさが良いんですよね。100万ドル当たったとデマを信じる父を、「施設に入れた方がいいんじゃないか」と冷たくあしらわれて一言、「ただ彼は生き甲斐が欲しいだけなんだ」。

この一言はこの作品が、最近増えてきた介護施設や老人ホームの問題、長寿社会ならではの物語に、また別の光を与えた物語だと考えることが出来るかもしれない。つまり、人間が自然に死ぬ姿をダイナミックに真正面から捉えた物語であると。
そう考えると、この作品が取り扱うような、そこはかとないユーモアのセンスを頼もしく思える。死の近い人間であるからシリアスになり過ぎるという重さはもちろん無く、不謹慎からも遠く。老衰の姿に怯んではいけないユーモラスさ。

で、アレクサンダー・ペインならではのソルティーな現実ももちろん感じた。母親の辛辣なジョーク、親戚の人間の愚かな問答、大金を得たと知った途端に態度が変わる知り合いの姿。ビフ・タネンみたいに意地悪なまま年を取ったような、かつての共同経営者も居る。こうした辛辣さは人によっては、ペインの作家性を面倒に感じる人が居る部分でもあるかもしれない。でもここではそうした辛辣ささえユーモラスさの中に溶け込んで居て、見事だった。人間の愚かさや馬鹿馬鹿しさ、ペーソスと笑いに包む。優しさと一言で言うならそれは違うかもしれないけれど。
次男・デイヴィッド(ウィル・フォーテ)のような優しさを持った男に、ありきたりの幸せすら与えない。元カノが去ったままで終わるところがいいよね。

’13年、アメリカ
原題:Nebraska
監督:アレクサンダー・ペイン
製作:アルバート・バーガー、ロン・イェルザ
製作総指揮:ジョージ・パーラ、ジュリー・M・トンプソン他
脚本:ボブ・ネルソン
撮影:フェドン・パパマイケル
音楽:マーク・オートン
キャスト:ブルース・ダーン(ウディ・グラント)、ウィル・フォーテ(デイヴィッド・グラント)、ジューン・スキッブ(ケイト・グラント)、ステイシー・キーチ(エド・ピグラム)、ボブ・オデン(カークロス・グラント)、アンジェラ・マキューアン(ペグ・ナギー)

 

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コメント(3件)

  1. とらねこさん☆
    ぷちボケはじめた親の困った行為を、深刻に捉えず暖かく大きく包み込む愛がうれしいですよねー
    これ、確かにあとからじわじわじわ・・・ときて、どんどん良くなっていく作品です。
    ラストも会えて何もかもハッピーエンドなのではなく、「ささやか」であることが、この映画の何よりいいところでした。

  2. 映画:ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅 信じる心が大切。2014年型 ロードムービー!?

    アメリカ映画と言えば、定番ジャンルに「ロードムービー」がある。

    なんたって広大な国だけに、東西を行き来するだけでいろいろドラマが発生するのだ(笑)
    これを親子で、という…

  3. ノルウェーまだ〜むさんへ

    こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
    後からどんどん良くなるタイプの映画でしたか♪
    限りなく抑えたストーリーの中で、ほんのりと笑いが描かれるのが、ホントたまりません。
    私は、これまではペインはさほど好きでも嫌いでもなかったのだけれど、今回は一番の傑作だと思いました。ものすごく気に入ってしまいましたよ♪




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