rss twitter fb hatena gplus

*

愛情のボタンの掛け違い 『エヴァの告白』

poster2カンヌに毎度ノミネートされているというのに、日本におけるジェームズ・グレイの評価は本当に低く、前作の『トゥー・ラバーズ』なんてDVDスルーという始末。私はホアキン・フェニックスが出ているからという理由で、『裏切り者』から見ていたという単なる偶然野郎。気づいたら見ていたというクチだったのでエバれない…という告白。「エバの告白」…w。という冴えないジョークを言いたくなるほどに、毎度ホアキン・フェニックスを使っている監督さん。なんたって、ティム・ロス主演の『リトル・オデッサ』以外、『裏切り者』、『アンダーカヴァー』、『トゥー・ラバーズ』と来て今作、全てホアキン・フェニックス主演!あ、今回はマリオン・コティヤールが主演であってホアキンは準主役という扱いになるのだけれど。

いや、そうとも言えないかもしれない。ホアキンは今回も主演だったのかもしれない。そんな疑問が出てくるほどに、ラストのホアキンの演技が圧巻なのでした。この先、ネタバレで語ります*************

少なくともあのラストの演技一つで、彼の物語へと昇華してしまった。“生きるために自分の心を裏切り、その身を売る女の物語”、を見ていたはずだったのに。気づいたら、“惚れた女に売春をさせる、ボタンを掛け違えてしまった男”の物語を見ていた。観客が気づくのはラストの彼の告白を見たその瞬間だ。惚れた女に拒絶され素直に愛情が表現出来ず、愛憎入り混じった気持ちのまま彼女を売る。自分も苦しみながら彼女を搾取して生きる。こんな立場に立たされながら、それでも彼女を想う不思議な純情さ。ブルーノ(ホアキン・フェニックス)はエヴァの希望と見えたオーランド(ジェレミー・レナー)を葬り去ってしまう。これは長年の敵同士であったが故の不幸の重なりではあるけれど。しかし彼にはもう一つ罪があった。彼女と一緒に居たいがために、親戚との関係も断ち切ってしまったこと。自分がいかに卑怯者であったことを、彼女に打ち明けるブルーノ。

やはり、これはエヴァの告白というより、“ブルーノの告白”だったよなあ…などと思わなくもない。ただ、こうしたボタンの掛け違いを、そんな技巧の物語として楽しむことが出来れば、この作品の評価を上げたくなってくる。ジェームズ・グレイのこれまでのクライム・サスペンスタッチの多い作品から変身して、今回はまるで文学作品でも見ているかのような、重厚な趣のあるアメリカの移民の物語だった。ストーリーの骨子だけを見ると、キム・ギドクの『悪い男』に似ていたなあと。

ところで、私がホアキンに注目し出したのは実は『グラディエイター』から。何とも癖のある複雑な演技をさせるとなると、彼は本当に上手いんですよね。アカデミー賞は彼が見向きもされないのは、おかしな奇行だったり生来の反抗的な態度、摩訶不思議な俳優辞めます宣言などのせいなのかも。何しろあのリバー・フェニックスの弟なんだもの。マトモな表街道なんて走らないのが彼の身のためなのかしら。名声なんて彼には必要ないのかな。

’13年、アメリカ、フランス
原題:the Immigrant
監督:ジェームズ・グレイ
製作:グレッグ・シャピロ、クリストファー・ウッドロウ他
製作総指揮:アニエス・メントレ、バンサン・マラバル他
脚本:ジェームズ・グレイ、リチャード・メネロ
撮影:ダリウス・コンジ
キャスト:マリオン・コティヤール(エヴァ・シブルスカ)、ホアキン・フェニックス(ブルーノ・ワイス)、ジェレミー・レナー(オーランド)、アンジェラ・サラフィアン(マグダ)

 

関連記事

『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ

結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む

『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義

80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む

『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの

一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む

美容師にハマりストーカーに変身する主婦・常盤貴子 『だれかの木琴』

お気に入りの美容師を探すのって、私にとってはちょっぴり大事なことだった...
記事を読む

『日本のいちばん長い日』で終戦記念日を迎えた

今年も新文芸坐にて、反戦映画祭に行ってきた。 3年連続。 個人的に、終...
記事を読む

2,254

コメント




管理人にのみ公開されます

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)


スパム対策をしています。コメント出来ない方は、こちらよりお知らせください。
Google
WWW を検索
このブログ内を検索
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ

結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...

【シリーズ秘湯】乳頭温泉郷 鶴の湯温泉に泊まってきた【混浴】

数ある名湯の中でも、特別エロい名前の温泉と言えばこれでしょう。 乳頭温...

2016年12月の評価別INDEX

年始に久しぶりに実家に帰ったんですが、やはり自分の家族は気を使わなくて...

とらねこのオレアカデミー賞 2016

10執念…ならぬ10周年を迎えて、さすがに息切れしてきました。 まあ今...

2016年11月の評価別INDEX & 【石巻ラプラスレポート】

仕事が忙しくなったためもあり、ブログを書く気力が若干減ってきたせいもあ...

→もっと見る

【あ行】【か行】【さ行】【た行】 【な行】
【は行】【ま行】【や行】 【ら行】【わ行】
【英数字】


  • ピエル(P)・パオロ(P)・パゾリーニ(P)ってどんだけPやねん

PAGE TOP ↑