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マクロ視点の裏アメリカ史 『大統領の執事の涙』

main03『プレシャス!』『ペーパーボーイ 真夏の引力』のリー・ダニエルズ監督ということで、ものすごく楽しみにしていた今作。タイトルから想像するに、感動モノとしか思えない臭めな印象が拭えないけれど、いやそこはリー・ダニエルズだもの!きっと裏切ってくるはず、と睨んでいた私だったけれど。開けてみると普通によく出来たいい話で、アレッ?ちょっと拍子抜け…。

リー・ダニエルズが相当なブラック・カルチャーにこだわりのある人物であることは、『プレシャス!』を見れば一目瞭然。ちなみに『プレシャス!』は、私は4.8点を付けたのだけれど、あのどうしようもなく人を落胆に突き落とすラストが辛くて辛くて…ベストには入れることが出来なかった。はぁー。辛かったなあ、あれは…。でも、思い出す度素晴らしかったなあ、と思えるような作品ではあった。あーこれアレですよ、自分にとっての『ダンサー・イン・ザ・ダーク』と一緒のタイプだ。後から後から忘れられなくなって、気づけばどんどん評価が上がるタイプの作品。

で、その『プレシャス!』ではブラック・カルチャーと同様にフェミニズム問題を、とても新鮮なやり方で取り上げていたのが二重にマイノリティ。今回は、真正面からアメリカが建国の時点から長年培ってきた、人種差別問題をアメリカの歴史からマクロに取り組んでいる。特にクローズアップしたのは公民権運動。風呂敷を広げて語られるも、こうやって改めて見てみると、アメリカで選挙権が平等に獲得されてからまだこんなにも短い時間しか経っていないのか…と実感してしまう。この先、ネタバレで語ります************

白人社会に従順に追従する、ホワイトハウスでの執事を任されるセシル(フォレスト・ウィテカー)と正反対に描かれるのが、セシルの息子のルイス(デヴィッド・オイェルウォ)。子供の頃は壮絶な時代を過ごしたものの、ホワイトハウス勤務になってからは全く順風満帆だったセシルの人生に、長年の間暗い影を落とすのが息子の存在。大学生の頃、マルコムXやブラック・パンサーが好きだった私にとっては彼らは英雄的存在なのだけれど、セシルからしてみればただの政治犯。しょっちゅう警察沙汰になるなど、過激な政治思想の持ち主。この自分とは正反対の息子との確執が彼の人生には大きな意味を持ってくる。

特に驚いてしまったのが、JFK暗殺事件に対してあまりにもあっさりとした描写。そもそもJFKをジェームズ・マーズデンが演じている時点で何とも軽薄な若者という印象で、ええっと思ったのだけれど、暗殺事件があった後の描写がさらに…。遺品であるネクタイをもらって悲しんでいるセシルに向かって、グロリア(オプラ・ウィンフリー)は「大統領なんかより家族のことが大事だ」と言い放つ。この描写には驚いた。ケネディ暗殺事件と言えば、いつでもアメリカの映画では、これ以上悲しい出来事があり得るかというぐらいの悲劇的テイストでもって描かれることが多かったから。本当にビックリした。私はあの描写を見て初めて、そうかアフリカ系アメリカ人からしてみれば、JFKばかりをクローズアップして描く事にこれまで違和感を感じていたのかもしれない。それはハリウッドの伝統であり、単に大多層の白人のリベラルにとっての感情だよと。そうした内心をさり気なく表現したシーンだったのかもしれない。

JFKばかりでなく、他のどの大統領の時代も早足で駆け抜けてしまう、マクロ的視点でアメリカの歴史を紐解いた作品ではあるために。長い時間軸を描き、風呂敷を広げたが故に淡白さを感じざるを得ないけれども、それでも別の視点から見たアメリカの歴史、とも言うべき大局を見据えた懐の大きな作品ではあった。大体、ひとえにアメリカ映画と言っても大抵いつでも白人の俳優がメインで、そうでないにしてもアフリカ系・ネイティブアメリカンはいつでも数名なんだものね。ブラックを中心に据えた映画はほとんど日本には来ないなあ…という状況。こうした白人至上主義にリー・ダニエルズはきっと腹立てているのだろうなあ。もしかして今世紀のスパイス・リーのような存在に、今後彼になるのかもしれない。今後も期待してます。

P.S.オプラ・ウィンフリーなど国民的大人気のコメンテーターが出演しているのが驚き。あと、ジョンソンはリーヴ・シュライバーだったのね。ごめん。チャーリー・シーンかと思った…。ちなみに、調べてみたらチャーリー・シーンがアメリカ大統領役をやってるのは、来る『マチェーテ・キルズ』だそうです。リハビリはどうなっているのかなー。

’13年、アメリカ
原題:Lee Daniels’ The Butler
監督:リー・ダニエルズ
製作:パメラ・ウィリアムズ、ローラ・ジスキン(この作品が遺作)他
製作総指揮:ダニー・ストロング、ワインスタイン兄弟他
脚本:ダニー・ストロング
撮影:アンドリュー・ダン
キャスト:フォレスト・ウィテカー(セシル・ゲインズ)、オプラ・ウィンフリー(グロリア・ゲインズ)、マライア・キャリー(ハッティ・パール)、ジョン・キューザック(リチャード・ニクソン)、ジェーン・フォンダ(ナンシー・レーガン)、キューバ・グッディング・Jr.(カーター・ウィルソン)、テレンス・ハワード(ハワード)、レニー・クラヴィッツ(ジェームズ・ホロウェイ)、ジェームズ・マースデン(ジョン・F・ケネディ)、デビッド・オイェロウォ(ルイス・ゲインズ)、アレックス・ペティファー(トーマス・ウェストフォール)、ヴァネッサ・レッドグレーヴ(アナベス・ウェストフォール)、アラン・リックマン(ロナルド・レーガン)、リーブ・シュライバー(リンドン・B・ジョンソン)、ロビン・ウィリアムズ(ドワイト・アイゼンハワー)、ミンカ・ケリー(ジャクリーン・ケネディ)他

 

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コメント(2件)

  1. 大統領の執事の涙

    「大統領の執事の涙」(2013)
    LEE DANIELS’ THE BUTLER
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