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全ての親が見るべき映画 『メイジーの瞳』

blogger-image--1627091054何と愛しい、心に響く物語なんだろう。全てのろくでなしの親と、自分勝手な親に悩まされた子供が見るべき映画かも。特に、親の方は必見。

タイトルにもなった主人公メイジーが本当にいたいけで可愛くて、彼女の佇まいがとってもナチュラル、すごく画になる。子供目線で描かれているのだけれど、彼女が全てを何となく見通しているようでドキッとする。それとなく分かっているのか、何か大人の心の奥を本能でもって見透かしているような。自分の都合や悩みに翻弄される大人たちに、寄り添っていくメイジー。作品は彼ら大人たちの心理を描きながら、批判しないところがいい。確かにスザンナ(ジュリアン・ムーア)はとても自分勝手ではあったけれど、忙しいお母さん、仕事の関係上子育てに時間を取れない母親は実際居ますよね。マーゴ(子守)の方は確かに母親としては素晴らしい素質なんだけれど、子供に全てを捧げてしまう古風なお母さんはアメリカでは珍しそう。こうした相反するそれぞれの典型的なキャラクターを描きながら、それぞれの人が少しづつ当てはまるなと、感情移入していくことが出来る。そんなドラマに描けていたと思う。

この先、ネタバレで語ります************

離婚する親に翻弄され、バラバラになった両親の二家族の間を、彷徨わざるを得ないメイジーはとても気の毒だ。両親が居た頃は夜には口喧嘩、離婚したら今日はあちらの家族、明日はこちらの家族。はたまた離婚調停で争点を変えながら争ってみたり。彼ら両親二人はそれぞれ忙しすぎて、自分達のそれぞれの都合があって、仕事があって。もちろん6歳のメイジーへの愛だって本当はちゃんとある。忙しい父親(イギリス人の教授)は自分にとって都合が良かったからか、何とメイジーのベビーシッターだったマーゴ(ジョアンナ・バンダーハム)と結婚する。メイジーにとっては、母親代わりで常に傍に居たマーゴが居る訳だから、受け入れやすい環境と言えるかもしれない。父親は子育てに自信が無いことを自覚していたためもあったかもしれない。

一方、たとえ身勝手であれ、メイジーに愛情をたっぷり注ぐ母親の姿(ジュリアン・ムーア)は印象的だ。ミュージシャンである彼女の職業が全て悪いとは言わないまでも、愛情の表現の仕方がどこか一方的で、子供にとっての環境は最適とは言えない。母親としての資質という点でも、彼女の自己愛に満ちた性格は100点と言える母親ではなかったかもしれない。だけど、世間一般の人にとって、誰もが100点の母親になれるかと言えば、そうではないですよね。私にとっては、母親の資質に著しく欠くけれども娘のために人生が変わった、と言える彼女の姿はとても印象的だった。悪いお手本のようで。
スザンナ(ジュリアン・ムーア)は彼女一人で親権を取ることが難しく、パートナーが居る方が有利になるとの理由から、自分にとって都合のいいバーテンダーの男・リンカーン(アレクサンダー・スカルスガルド)と結婚する。二人ともが別々にパートナーを作り、メイジーの親権は二家族間で10日づつ交代制を取るということで落ち着く。

マーゴはいつでも子供の気持ちを考えて発言が出来る、素敵な女性だと思った。メイジーの母親スーザンが持ってきた花束を、父親は花のアレルギーだからと捨ててしまう。でも母親が持ってきたものだからと、ゴミ箱にあるのが忍びなくて、拾い出してクローゼットに押し込むメイジー。マーゴは、メイジーにとってそれらが大事なものだとちゃんと理解し、押し花にしようと言い出す優しい女性だ。嫉妬心が勝ったり、父親がアレルギーだからという理由があれば、メイジーに捨てなさいと強要していただろう。

それから、リンカーンのいかにも自信なさ気な、伏し目がちで悲しげな佇まいがとても好きだった。彼ら二人が惹かれ合う様子も、不思議と胸が切なくなる類の描写。メイジーは血の繋がっていない二人と居るのが一番自然のように見えた。本当の両親が二人とも身勝手で、彼らの犠牲者であったせいもある。親は選べないけれど、一緒に居たい人がもし、子供が選べたなら…。ラストは心に響く。子供が居る人にはきっと、この作品は特別な響きを持って心に染み入る作品になるかもしれない。

ところでこちら、’12年にTIFFコンペ作品なのよね。当時は『メイジーの知ったこと』というタイトル。監督は『綴り字のシーズン』、『ハーフ・デイズ』のスコット・マクギーとデヴィッド・シーゲル。プロデュースは『キッズ・オールライト』のダニエラ・タップリン・ランドバーグ&リーヴァ・マーカー。HPには監督コンビの名前よりも『キッズ・オールライト』の製作による~、なんて説明が書かれてある。『キッズ・オールライト』はやはり複雑な家族の物語を描きながら、斬新かつ心に響く素敵な物語で、’13年の公開作品の中でも未だ鮮明に心に残るもの。だから思わずこちらと並べたくなるのかも、その気持は分かる。

’12年、アメリカ
原題:What Maisie Knew
監督:スコット・マクギー、デビッド・シーゲル
製作:ウィリアム・ティートラー、チャールズ・ウェインストック、ダニエラ・タップリン・ランドバーグ、リーヴァ・マーカー
原作:ヘンリー・ジェームズ
脚本:ナンシー・ドイン、キャロル・カートライト
撮影:ジャイルズ・ナットジェンズ
音楽:ニック・ウラタ
キャスト:ジュリアン・ムーア(スザンナ)、アレクサンダー・スカルスガルド(リンカーン)、オナタ・アプリール(メイジー)、ジョアンナ・バンダーハム(マーゴ)、スティーブ・クーガン(ビール)

 

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コメント(3件)

  1. 【TIFF_2012】『メイジーの知ったこと』 (2012) / アメリカ

    原題: What Maisie Knew
    監督: スコット・マクギー、デヴィッド・シーゲル 
    出演: ジュリアン・ムーア 、アレキサンダー・スカルスガルド 、オナタ・アプリール 、ジョ…

  2. 『メイジーの知ったこと』の邦題の方が何となくしっくりくる・・・と思うのは私だけかな?
    でも日本人受けしないと映画もヒットしないからそれは致し方ない。ですが心情的にはメイジーちゃんには何ら罪はないという意味で、こっちの邦題の方が言い当ててた感じがしました。

    子は親を選べないんですね。ほんとに。自分は精一杯やっているつもりでも、子から見たら一体自分はどんな親なのか。ただ単に愛しているといっても、一方通行の愛しか出せない親もいるということなのでしょう。

  3. rose_chocolatさんへ

    おはようございます〜♪コメントありがとうございました。
    昨日旅行から帰ってきて、風邪引いて寝てたの。朝ご飯しか食べなかったんですよー。

    うん、私もてっきり『メイジーの知ったこと』で公開されると思っていたの。でも見ると、こっちの邦題がなかなか良かったなあと。彼女がどこか大人に気持ちを分かっているように感じる、彼女の視線というものがすごく印象的ですもんね。…

    子供は小さい頃は本当に受動的で、親が全てですもんね。
    「お家に帰りたい」と言って珍しくグズって泣き出すところ、あれは辛かったな…。




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