グレート・ギャツビーとその仲間たち 『ウルフ・オブ・ウォールストリート』
この作品は何というか、本能で感じる映画だった。とにかく、金を稼ぐ男がカッコイイ。それもたくさん。決して真面目ぶったり、退屈な奴には決してならない。そう、大人にならない男が、死ぬほど魅力的。大好きな『アウトロー』(’12年、クリストファー・マッカリー)の台詞を引用するなら、「窓の外のアイツらを見ろよ。悩み、落胆、疑心暗鬼、ストレス。そんなものから開放されている奴は一人として居ない。本当に自由に生きているって言えるか?」(みたいな台詞)。皆そうなりたくなかったはずなのに、気づいたらそんな地獄、それが当たり前の社会に生きている。だから、決して大人にならないまま、金を死ぬほど稼ぐ男、死ぬまで成長せず生きた男は、男の中の男、ヒーローそのものだ。この作品は、そんなものを描いていた。価値観がはじめから転倒した世界だ。孤独に死んだりはしない、仲間たちに囲まれたグレート・ギャツビー。また別のアメリカン・ドリーム。
驚天動地の会社を磁場に、まるで吸い寄せられるように集まってきた人間たち。金の匂い、セックスのムンムンする匂い、ドラッグキメキメのDopeな狂乱。そんなものに頭をグルグルグルグル掻き回される3時間。カメラはフリースタイルに動きまわって、まるで生きているみたいだった。ものすごいハイテンションをずっと維持したまま。「俺は素面(シラフ)で死にたくないんだ!」こんな台詞がマズいことに、格好良く思えてしまう。頭の中は洗脳されたみたい。スコセッシの他のどの作品より不謹慎で、そして途方も無いエネルギーに満ちた映画だった。見る前は『グッドフェローズ』や『カジノ』に似ているかと想像していたけれど、私は『スプリング・ブレイカーズ』に似ていると思った。ゆきて戻らぬ大人子供のワンダーランドを描いた世界なら。
この先、ネタバレ*************************
食い物にされた人間たちについて描かれていないというならそれは当たり前で、だってウルフ、狼達は餌がどうなったかなんて心配しないだろう。あくまでもアウトローの価値観を描く物語に、そうでない一般サイズの人間のそれを持ち込んでも仕方がない。むしろ、金を誰よりも稼ぐという生き馬の目を抜く証券マンのような世界において、孤独というものに陥ることなく生きるところが彼の強みだ。周りの人間達を取り込んで、一緒に美味しい汁を吸う。“仲間意識”、これがジョーダン・ベルフォード、通称“ウルフィー”(言い方が可愛い♪)が持っていた人生の価値ある証拠であって、これを彼自身が裏切るラストは、彼の事実上の死を意味していた。
この映画を見た日に、思わず「このペンを俺に売ってみろ」をやりたくなったw。ラスト、彼の周りには、もう退屈な普通の人間しか残っていない。彼のビジネス講座を聞きに来る聴衆たちは、今現在彼が生きる世界を表している。ここでは誰もペンを売ることすら出来ない。
ただ、この作品に関しては、弱冠モヤモヤ感があった。レオナルド・ディカプリオの演技は、ずっとテンション上がりっぱなしで面白いけれど、今回はあまりにジャック・ニコルソンの物真似が過ぎるんじゃないか?などと思ったり。テンションの高いクレイジーな演技と言うと、彼自身の中でそれはジャック・ニコルソンみたいな表現、ということになってしまうのかもしれない。「自分の中ではこう演技すべき」、という形のようなものが、ジャック・ニコルソンのような表現の仕方、その形を借りることで、演技が形から入るようなものになってしまったのでは。役者の演技を見るのが一番の映画の楽しみである自分には、正直、今回の彼は手放しで評価する気にはなれなかったな。これまでもデカプーはデ・ニーロっぽい表情や話し方の演技を見せることもあったけれど…。総じて若い頃の方が、彼はずっと上手だったと思う。子供の頃の方が演技が上手い人、なんて言うのもあるのかもね。
そんなモヤモヤ感は、映画全体にも感じる。スコセッシにしろレオナルド・ディカプリオにしろ、アカデミー賞の期間の約2ヶ月ぐらいずっと、パーティー漬けの毎日を過ごすのだろう。でも彼らは基本的には根っからのパーティーアニマルというより、もっと真面目な映画人気質の人達だ。アカデミー賞に登壇出来るような話題作を提供しなければいけない、そんなプレッシャーももちろんあるだろう。彼らがパーティーでおそらく見せるであろう疲れた顔、ふと真顔になった瞬間が、この作品の中で垣間見えるような気がした。クレイジーで凄い!と腹から笑った後に、ふと疲れたような思いが横切る。そんなものがどうしても拭えない印象がある作品だった。
P.S. …エンドロールで、「ンーフ(胸をトントン)…ンーフ(胸をトントン)…」の音楽がかかったところで、結構いい年した金持ちそうな綺麗なオバサンが、一緒に胸を叩き唄いながら、機嫌良く歩いてた。六本木で見たのだけれど、場所柄(ヤクザと金持ちが多い土地です)、こういう話がグッと来るんだろうなあ、なんて思った。きっと彼女や彼女の夫も、日本の富を吸って生きている人達なのかもしれない。なんて勝手に想像しながら。
’13年、アメリカ
原題:the Wolf of Wall Street
監督:マーティン・スコセッシ
製作:マーティン・スコセッシ、レオナルド・ディカプリオ他
製作総指揮:アレクサンドラ・ミルチャン、リック・ヨーン他
原作:ジョーダン・ベルフォート
脚本:テレンス・ウィンター
撮影:ロドリゴ・プリエト
キャスト:レオナルド・ディカプリオ(ジョーダン・ベルフォート)、ジョナ・ヒル(ドニー・エイゾフ)、マーゴット・ロビー(ナオミ)、マシュー・マコノヒー(マーク・ハンナ)、ジョン・ファブロー(マニー・リスキン)、カイル・チャンドラー(パトリック・デナム)
ロブ・ライナーマックス・ベルフォート
ジャン・デュジャルダンジャン=ジャック・ソーレル
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ウルフ・オブ・ウォールストリート
10時20分上映開始に間に合わせるべく余裕もって
9時30分、我が家出発。
地下鉄駅までの間にバス停がある。
バス停前に偶然いた知人に呼び止められる。
数分の立ち話のは …
とらねこさん☆
しゅたっ・・・すみません、遅くなって。
確かに~ジャック・ニコルソンになりかかってましたっ
そして子供の頃のほうが演技の上手かった人。
ちょっと真央ちゃんを思い出しちゃった。
彼女には金メダル、レオ様にはオスカー、目的を狭めてしまうと行き止まりの壁に当たってしまうのかも。
本当に勝たなければいけないのは自分自身で、それを乗り越えた先に賞が待っているのでしょうね。
こんばんは。
この映画、見終えた後、すごく疲れました!
アドレナリンが出っぱなしで・・・・
ディカプリオの渾身の演技も、観ている方が持て余し気味でした。
彼は「ギルバート・グレイプ」の知的障害の少年役がベストでしたね~
俳優人生で、どの時期がベストなのか?
先日観た「エージェント・ライアン」のケビン・コスナーが素敵だったので、晩年のレオに期待します。
ノルウェーまだ〜むさんへ
こちらにもコメントありがとうございます♪
レオはすごくすごく頑張っていたと思うし努力は買うんですが、私には正直彼はクレイジーさが足りなく思えました。それを補うためにジャック・ニコルソンの真似をしてしまったのかなあ、と思います。手厳しいかな。冒頭出てきて20分程度のマシュー・マコノヒーに食われてしまっているように思えます。
浅田真央、ソチではショートプログラムが残念でしたよね。でもフリーでは挽回を果たし…あれは凄かったですよね!
確かに自分との戦いなのでしょうね。国の期待を一身に背負うなんて、内心どれほどのプレッシャーなんだろう…。可哀想な気もします。
cinema_61さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
そうですね。ヘトヘトに疲れますよねー。面白く見れる部分ももちろんあるんだけれど、おっしゃる通りアドレナリンが出るから余計に疲れるのかもしれませんね。
レオについては、子供の頃の演技が本当に天才的だったんですよね。おっしゃる通り『ギルバート・グレイプ』では完全にジョニー・デップより上手だったし、『ボーイズ・ライフ』でもデ・ニーロを食う勢いで、デ・ニーロにすらそのアドリブ演技が褒められました!
でもゼロ年代以降も、スコセッシ以外とやった数作はすごく輝いているんですよ。例えばエドワード・ズウィック『ブラッド・ダイアモンド』、スピルバーグ『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』、リドリー・スコット『ワールド・オブ・ライズ』、この間のタランティーノの『ジャンゴ』も主役ではなかったけど、すごく良かったです!
ところがスコセッシとやった作品がどうもパッとしないんですよね。
『ギャング・オブ・ニューヨーク』からの4作品の中では今回が一番良かったと思うのですけどね。
そうですよね!私もレオには晩年に期待しています。言うてもまだ彼30代ですから!オッサンになってから、いくらでも今後面白くなれると思うし、彼には可能性がたくさんありますもんね!
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 (2013) / アメリカ
原題: The Wolf of Wall Street
監督: マーティン・スコセッシ
出演: レオナルド・ディカプリオ 、ジョナ・ヒル 、マーゴット・ロビー 、マシュー・マコノヒー 、ジョン・ファブ…
これね、公開日すぐに観て、なんかずーっと放置して、また2回目観て書きました(笑)イオンシネマさんありがとうです(笑)
書いてもいいんだけどエネルギー吸い取られる感じがして、なかなか書く気になれず。自分としてはとっても好きだし面白かったけどね。
まず長いから所々で記憶飛んだりして、2回突き合わせてようやくわかった感じでした。けど、あのマコさんのふふふん♪はグッジョブでしたね。それとレオさんのレモンの一連の動作。あれは正気じゃできません(苦笑)
rose_chocolatさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
二回見ちゃったんですね。ほんと、エネルギー吸い取られる…。
楽しいんだけど、見てヘトヘトになるんですよね。
私はこれ面白かったけど、二度見るのは辛そう…。
でも、よく映画見て寝ちゃうことがあるroseさんは、イオンシネマはピッタリかもしれませんね!
でも、結構気に入られたみたいで!良かった良かった。
うまいなあ。
このレビュー。
最初のうちは、
ここの一節に共感…
みたいなことをコメントしようと思っていたのに、
全部気に入ってしまいました。
ということで、
事後承諾となりますが、
ツイッターで紹介させてください。
こんにちは。
そうなんですよね。
この映画って、らりってるか、やってるか、ばっかりでしたよね。
それでも見飽きずにすんだのは、レオの演技のおかげですね。
確かにニコルソン・チックでしたけど。
実話ベースでこれなんだから、株や富豪ってのはろくなもんじゃないんですね。
六本木もそうなんですか?
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 2014年8本目 チネ・ラヴィータ
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 2014年8本目 ☆☆☆★ チネ・ラヴィータ
実在した証券マンの成功と破滅の実話を映画化。
アメリカの証券会社って何百億、何千億って儲 …
えいさんへ
こんばんは♪コメントありがとうございました。
おお、嬉しいな、光栄です。
ありがとうございました。
健太郎さんへ
こんばんは♪コメントありがとうございました。
ホントホント、これが実話だなんて、すごいクレイジーな世界ですよね。もしかしたらその口ぶり、健太郎さんはあまりこの作品は好きではなかったかな。
六本木は、私銀行で働いていた事があるんですけど、いやー、ヤクザや芸能人が多かったですね。
大使館が多いので、外国人もいっぱいいます。
まあ、ちょっと変わったノリの場所ですよ。特に夜来るとそう思うと思います。
こんにちは。
そんな事無いですよね、レオとマーティンのコンビは好きですよ。
派手なのに嫌味じゃないのはレオの演技のおかげなのに。
>六本木
防衛庁が六本木にあったころに始発まで飲んだ事があったけど、凄い街でした。
にしても、姐さん色々やってるんですね。
健太郎さんへ
こんばんはアゲイン♪
あ、スコセッシ&デカプーコンビ、お好きなんですね。
私はゼロ年代に入る以前のスコセッシが好きなんですよね。『レイジング・ブル』、『ハスラー2』、『アリスの恋』、『タクシードライバー』とか。でも90年代のスコセッシは案外何でも好きですね。
そうそう、「ディカプリオがオスカーを逃し続ける真の理由」
を書いてる人が居ましたよ。これ、すごく参考になるのでいかがでしょう。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/entertainment/snk20140316516.html
私もこの人とほぼ同じ意見で、アル・パチーノやジャック・ニコルソンですら一度しか受賞していない主演男優賞ですから、ディカプーにはまだ今後もいくらでも可能性あるんじゃないか、と思います。
ジャック・ニコルソンだって50代で初めて獲った!これはなるほど、と思いますよね。レオはまだ39歳ですから。