悪人になりきれない人間たちの魅力合戦! 『アメリカン・ハッスル』
こういうタッチのアメリカ映画が好きなんですよね。一昔前のアメリカ映画のノスタルジー感。ヴィンテージ、というのとはちょっと違う。「90年代版スティング」と町山が言ったらしいけれど、『スティング』を期待してしまった人は、そこまでの完成度無いじゃないかと結構貶しているみたい。私はそんなレビューを目にせず、ブラリと見に行って良かった。
この間友人と言っていたのだけれど、「この時代ってアメリカ映画にとっては時代劇なんだろうか?」なんて。私は、「コスプレをしない時代劇かもね」、と答えた。現在こうした事件を描くとなるとスマホにPC、情報技術が刷新されすぎていて、こうした物語を楽しめるように物語を描けないんですよね。
騙し騙されの物語なのだけれど、さほど緊張感が無く、人間喜劇として楽しめるところが好きだったな。そして何より、キャラ立ちしていて、登場人物がとても魅力的なところが、見ていて嬉しくて。各々が各々の都合で動き、それぞれの思惑があるのだけれど、“騙す”行為の中に、それぞれが真実を持っている。すごく分かりやすい悪人が居るのではなく、せめて今の状態から抜け出そうとして、一生懸命もがく感じ。相手の人間的価値を知って、相手を騙すのが辛くなったりする。騙しのプロとは言え、相手に擦り寄る中で、逆に魅了されたり。思惑と違い相手に惚れ込んでしまったりする(男同士、男と女どちらも有りで)。本当の悪人が実は居ないところが良かったな。あ、もちろんノンクレジットのあの人は別として。
この先、ネタバレ*****************
エイミー・アダムスが演じる役は、どことなく憎めないのが不思議。やり手で賢いのにいかにも情が深そうな、真っ直ぐな優しさを持った女性。クリスチャン・ベールのいつもの体重変動は、今度は激太り…。でっぷりしたお腹はまるきりデ・ニーロ。走る姿が本当に辛そうで、可哀想で…あ、そう言えば『マシニスト』でも走る姿で「やめてえええええ!」って言いそうになったっけ。またか。
それぞれのキャラクターがえらく立っているのでつい語ってしまうのだけれど、ブラッドリー・クーパーが可愛くて惚れそうになった。彼がイケメンに思えたのは初めて。お預けされてハァハァしてたり、キャンキャン言ったり、犬みたいでキュート!騙しに引っかかった後のFBI署内での大喜びと来たら。下手な物真似まで披露しちゃって…「ああいう外人居るよな…」と思っていたらやはり、の展開。デヴィッド・O・ラッセルの大好きなジェニファー・ローレンスは今回も素晴らしく。若いのに下品なオバちゃんぽさが漂っていて、ハスキーボイスがまたぴったり。ああこういう人って苦手!と思わず思ってしまった。でも彼女も本当は寂しかったんだなあ、というのが分かって同情心が湧いたり。うーんさすがの演技力。
彼女のネイルに代表される「薔薇の素晴らしい香りに混じった、腐った匂い」。詐欺商売をずっと続けるアーヴィン(クリべー)がずっと貫いてきた人生観であり、汚い金の商売を繰り返す彼の価値観そのもの。でも、そこから最後にようやく抜け出す…。ちゃーんと愛を貫いているじゃない。ラストの展開がまた好きだった!カーマイン市長(ジェレミー・レナー)(この人はちっとも悪人じゃなかった!)のような人を騙さず、本当に良かったナ。ちゃんと、「人の良心を信じられる時代」の話になっていたね。
’13年、アメリカ
原題:American Hustle
監督:デビッド・O・ラッセル
製作:チャールズ・ローベン、リチャード・サックル他
製作総指揮:ジョナサン・ゴードン、マシュー・バドマン、ブラッドリー・クーパー(!)他
脚本:エリック・ウォーレン・シンガー、デビッド・O・ラッセル
撮影:リヌス・サンドグレン
音楽:ダニー・エルフマン
キャスト:クリスチャン・ベール(アーヴィン・ローゼンフェルド)、ブラッドリー・クーパー(リッチー・ディマーソ)、ジェレミー・レナー(カーマイン・ポリート)、エイミー・アダムス(シドニー・プロッサー)、ジェニファー・ローレンス(ロザリン・ローゼンフェルド)、ロバート・デ・ニーロ
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とらねこさん☆しつこく失礼~
どの人物も悪人になりきれない人の良さとか出ていて、なかなか魅力的でしたねー
こういった人物像を描くなら、そう宣伝したらよかったのにぃ~と思っちゃった。
特殊な髪型に目が行き過ぎて、注意散漫になっちゃいました。
ノルウェーまだ〜むさんへ
こちらにもありがとうございます♪
これ、人によっては結構評価分かれてるんですよね。
確かに髪型は特殊でした!クリベーの若ハゲロング然り、ジェレミー・レナーの変な髪形然り…
アメリカン・ハッスル
5軒のクリーニング店を営みながら盗品や贋作で詐欺を働いていたアーヴィン(クリスチャン・ベイル)は、元ストリッパーのシドニー(エイミー・アダムス)と出会った事で、もっと大…
>「この時代ってアメリカ映画にとっては時代劇なんだろうか?」
今まで“アメリカの時代劇”って意識したことって無かったなぁ・・・と、この一文を読んでハッとしました。
最初に思いついたのは、“西部劇がアメリカ映画の時代劇かな?”と言うことでした。
西部劇がコスプレものなら、この作品は確かにとらねこさんが書かれているように「コスプレをしない時代劇かもね」ですね。
なんだかんだ言いつつ、悪い事をしつつ、それでもみんな“人がいい”部分を持っているのは、やはりまだ“古き良き時代”だったからなんだろうなぁ~
哀生龍さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
アメリカの時代劇というと確かに西部劇ですよね。でもこれもひょっとすると、そろそろ“一つの時代劇”のくくりでいいかな、なんてちょっぴり思いまして。
そうなんですよ、「古き良き時代」!この映画ってまさにそういう時代だったなあなんて。だからこそラストみたいな転生があり得るんですよね♪
アメリカン・ハッスル
どんどん良くなる法華の太鼓と申しましょうか、前作「ザ・ファイター」
からまた一段と印象が増したデヴィッド・O・ラッセルの新作。
「ウルフ・オブ・ウォールストリート」をも …
「アメリカン・ハッスル」
アメリカらしい作品。軽快で練れていてキャラが立ってて。芸達者な役者陣に支えられて最後の最後まで楽しめる。 とはいえ「諸手を挙げて絶賛」とまではいかないのは何故なんだろう…
キャラ立ち、してましたねー。
ジェニファー・ローレンスさんは末恐ろしいです!
エイミーがんばってるのに…苦笑)
ボーさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございます。
ボーさんがジェニファー・ローレンスに目を付けましたか♪
何となく、美人でない彼女はボーさんの好みではないかと思ったんですが。
彼女の実力はすごいですよね!
エイミー・アダムスの胸元が眩しかったですね♪