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『シャイニング』を追いかけた珍ドキュメンタリー! 『ROOM237』

poster (1)何故今『シャイニング』!?シャイニングを何百回も見たという人達による非公式ドキュメンタリー。モキュメンタリーなんてもんじゃない。とにかく、それぞれキューブリック好き、『シャイニング』好きな人達が、熱~く自説を語る。はじめに長~い注意書きが。「この映画および本編中の視点や意見 また それらに合わせて引用された映像や写真はキューブリックトラスト、スタンリー・キューブリックの家族、ワーナー・ブラザース・エンターテイメント『シャイニング』の製作に関係した人物から承認または是認されていません また いかなる提携もしていません etc」と出てくる。

冒頭でいきなり始まるのが、作品中に積み重ねられた食べ物の缶の重要性。ウォーホルも描いたキャンベルのコーンスープの缶、それが人物の心理を表しているですと!?さらに、『シャイニング』はホロコーストを書いた物語だとか、ロシアが到着した宇宙ステーションは、実はキューブリックが監督したという陰謀説…。あるある、こういうの読んだこと。ブログで自説を語る人達、「何トンデモ語ってるんだろう」などと思う人達居るよ、いるいる。…つまり俺だよ!紛れも無くお前らは俺だわ!しかもそれを一本の映画でやっちゃってる。“ドキュメンタリー”なんて手法にまとめちゃった!大丈夫なのか?そもそもドキュメンタリーって基本事実を追うべきものなのに、語り手の暴論に合わせてCG映像が飛び出すわ、キューブリックの他作品を使用したり拡大したり、はたまた逆回しに流した映像を重ねて見たり…やっちゃいけない(意味のない)ことをやりたい放題。こんなドキュメンタリー、見たことない!。そして、そんなものはブログでやれ!…いやホント、人のこと言えない。

で、9割方妄想もしくは嘘っぱちな話の中に(多すぎだろ)、1割ぐらい無視出来ないことがあったんですよ。幾百回と『シャイニング』を繰り返し見たという人の言説の中に、「あ、それ分かる」というのがあるんですね。例えば、ダニー(子供)がホテル内で走り回る三輪車。これが1階を回っていたはずなのに、気づけば2階に来ていること。あっ知ってる、それ私も好きだったシーン!しかも彼が辿った道のりを、ホテル内の見取り図を添えてCGで再現。「本当は存在しないはずの窓」であるとか、映画内で突然後ろの椅子が無くなるシーン、子供部屋の壁紙の妖精が消えるシーン、ダニーの居る絨毯の模様の五角形が変化するシーンなど。お、それは知らなかったわ、なんて興味を惹かれたりもする。「NASAはキューブリックが撮影した」等という陰謀論に吹き出しながら、『シャイニング』の魅力がいかに多様性があるか、示唆や映像的魔力に満ち満ちていて、何度でも楽しめるものであるか…。IQ200のキューブリックが仕掛けたいろいろな映像マジック、ここから決して逃れられなくなってくる。おいちょっと待て!私にもシャイニング論を語らせろ!と言いたくなってくる。

…という訳で、さっそくこの場をお借りして、『シャイニング』について俺論を ^^; えっ要らない?そんなこと言わないでちょっとだけ語らしてー。

私が初めにシャイニングを見たのは劇場でリアルタイムではなく、レンタルVHSで。初めに見た時はメチャクチャ怖くて夢に見るほどだった。特に怖かったのはエレベーターが血がザーッと流れ出すシーンや、「REDRUM」という台詞、双子が廊下でこちらを見ている映像。次に原作を読み、これがかなり素晴らしくて、大好きになった。今でもキングの小説のベスト3は?と言われたら、この作品が必ず入るほど好き。その後しばらくして後に、レンタルでもう一度キューブリック版を見た。キングの監督した作品と比べるために、キングがこれを認めていなかったと知って。自分の感想はというと、やはりキューブリックの方が全然いい、というもの。特に好きなのがラストショット。『タイタニック』のラストとごっちゃにして喜ぶのがいつもの個人的なお気に入り。それからタイプライターのシーンも好きだし、大満足叫び女優のウェンディ役のシェリー・デュヴァルの金切り声は、惚れ惚れするので、時々真似したり。いつの間にか2階に上がっているシーンも好きだし、部屋番号237のモンタージュも死ぬほど好き。

ところが随分時間が経って割と最近見直してみたところ、クラシック過ぎて、ホラー映画としてはあまり怖くないものだなあ、と思った。一番の見どころはジャック・ニコルソンの演技で、このクレイジーな演技が映画全体を引っ張っているため、映画としてのバランスも悪くすら思えた。オヤジサイコ映画の筆頭としても、ジャック・ニコルソン映画としても素晴らしいけれど、キングの原作はもっと力強く、家族の愛が描かれていた。つまり印象がちょっと違うものになってしまっているんですよね、キューブリックの映画は。キングが納得いかなかったことも分かる気がしてしまった。ラストショットの簡潔さは相変わらず好きだけれど。つまり、自分の原記憶としてすっかり棲みついている事に気づかず、最後に見た時はあまりパッとしないように思えた。というのが、このドキュメンタリーを見る前の私の印象。

で、語り手の言う1割の真実について。「双子にもちゃんと秘密があること」、「それが母親に関係していること」。これって、原作を読んでない人には分からないことなのに、映像ではそうしたことは匂わせるのみなのね。恐怖への鍵としてそこに置くのみで、解明しないままの秘密になっている。これは確かにその通りなんですよ、原作とくらべて見れば分かるんだけれど。奥の椅子が編集によって消えてなくなるシーンは、ジャックがタイプライターに向かっているところに妻ウェンディが話しかけるという場面だけれど、あそこは霊の存在によってジャックが初めておかしくなり始める、というとkろ。それから、ダニーが寝ているシーンで妖精の絵が消えているというシーンだけれど、あそこも実は、ダニーが夢の中で恐怖を体験する場面。見た目には分からないけれど、原作では大変なことが夢の中で起こってる。それから絨毯の模様が変わってしまうシーンは、「ダニーが別の世界に取り込まれたかのよう」。これもその通り。映像的な気味悪さ、居心地の悪さを感じさせるように、キューブリックが演出しているという主張、これは私も同感なんです。見えない存在が扉を開くシーンなんですよ。そうだ、確かにその通りだ。などと思い始めて来た。

私、このドキュメンタリーのラストが好きなんですよね。要は、ここに出てくる語り手たち、彼ら全員「お前がジャックだろ!」という話なんです。ジャックの写真がラスト、ギュギューンとカメラが引いていく。ジャックがこのシャイニングのホテルの世界に取り入れられて終わる終わり方なんだけれど、ここに居る語り手達全員が、要はジャックのように、シャイニングの世界から出て来れない人達。「時々雪山に家族で住んでみたらどんな風になるだろうなあ、と最近いつも考えるんだよ。」なんていう出演者の台詞で終わる。これこそ、「お前こそがジャックだよw」なんていう幕引きの台詞。ところが笑いながらも顔が引きつってしまう。だって実は私もずっと昔から、その妄想抱いて生きてきたんですよ。いつか冬山に家族で引っ越せたら楽しいだろうなあ、何が起こるかなあなんて考えることもあったのね。人のことを笑えないんです、私自身が。そ、そうか、私もシャイニング世界の住人の一人だったんだ!私はね、もうずっと長いこと、この作品が好きでたまらなかったことすら、忘れていたんですよ…。リアルのこの世界より、シャイニングの世界の方が私は好きなのかもしれない。そんなことに今ごろ気づいてしまったのだ…。

’12年、アメリカ
原題:Room237
監督:ロドニー・アッシャー
製作:ティム・カーク
音楽:ジョナサン・スナイプス

 

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コメント(2件)

  1. とらねこさん☆
    「シャイニング」私も長いとこトラウマ映画になっていて、そう考えると私もジャックなのだなーと。
    最初に見たのはノルウェーのテレビ放送で。
    ノルウェー語字幕の英語だけど、言葉なんてわからなくても超怖かった・・・
    その後ノルウェーで2度見て、帰国してからDVDで数回見てます。
    一番怖かったのは、イギリスの山の古いホテルの廊下の絨毯が真っ赤で、あの廊下にそっくりだったことです。

  2. ノルウェーまだ〜むさんへ

    こちらにもありがとうございます♪
    お、シャイニング、ノルさんもトラウマ映画でしたか!
    なんと、ノルウェーで見たのが最初だったんですね。そして、そんなに見返してるとは。
    イギリスのホテルでソックリなのがあったんですね〜、絨毯だけで怖いなんて!
    私も子供の頃、双子見るだけで怖かったなあ〜w
    シャイニング好きなら、このドキュメンタリー是非ともオススメかもしれません!
    劇場で行けなくても、DVDでご覧になってみてくださいな♪
    珍作であることは間違いないです!




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