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手に入れたものと失ったもの 『少女は自転車にのって』

poster2 映画館の無い国、サウジアラビアで撮られた奇跡の作品。こんな素敵なものだなんて。一年に一度しか前売りを買わない私にしては珍しく、前々から「絶対見るぞ」なんて思っていたのでした。

少女目線で彼女の何気ない日常を描いている、あくまでサラっとした描写が良いのよね。自転車を買うことすら許されない中、さり気なく自分の自転車を貸してくれる近所の少年。イスラム教圏の国はここまで女性の立場の低いのか、という怒りの気持ちも時たま感じる。でもそれ以上に、彼女たちの日常を彼女たちの目線で見るのがとても新鮮で、思わず見入ってしまう。学校内で、コーランに関するコンテストみたいなものがあって、コーランの内容に関するクイズに答えたり、暗唱したり。コーランの歌うようなリズムが、初めは気恥ずかしい主人公の少女。「抑揚をつけて歌うのが恥ずかしい」なんて気持ちもありつつ、自転車を買うお金を貯めるために優勝を狙う。

大人からしてみれば当たり前の自国の文化でも、子供にとっては疑問を感じることも多く。自転車に乗ることすら許されないばかりか、家族の名前が入った家系図のような「家族の木」の中には、そもそも女性の名前が一人も含まれていない。10代の早いうちから結婚した母親も、少女がまだ幼い頃にすでに他に女を作ってしまう。一夫多妻制の国ではそれが当たり前なのかもしれないが、母親にとっては死活問題だ。

そもそも、イスラム教圏で女性が監督出来ること自体が珍しいのでは。この作品の影響で、サウジアラビアでは女性も自転車が乗れるようになったそうだ。そう聞いてから映画を見に行ったせいか、ラストが感慨深く感じる。母親の絶望と引き換えに手に入れた“自転車”ではあるけれど、これは少女にとっては、“たかが自転車”ではなかったはず。この自転車のおかげで、映画監督になった今の彼女が居る。そう言ってもおかしくはない代物なんだなあと。

’12年、サウジアラビア
原題:Wadjda
監督・脚本:ハイファ・アル=マンスール
キャスト:ワアド・ムハンマド(ワジダ)、リーム・アブドゥラ(ワジダの母)

 

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コメント(2件)

  1. とらねこさん☆
    この映画気になっていた作品ですが、良さそうですよねー
    イスラム圏というのは、まるまる文化が違うのでそれだけでも十分興味をそそられます。

    先ほどなかなかこちらに繋がり難かったので、もしや何か「いろいろ腹が立った」ことで、ブログをやめちゃったのかしら?と心配しちゃいましたよ。
    無くなってなくて良かったよかった~~

  2. ノルウェーまだ〜むさんへ

    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    お!ノルさん、こちらに興味を示されましたか。まだまだノルさんの趣味が掴めていないので、何がツボに入りそうか、まだ分からない私なのですが…
    イスラム教圏に住む女性の、監督作品というのがまず珍しいですよね。

    あ、繋がりずらかったですか。すみません。
    うち、実は大手のブログサービスではなく、自前のサーバーでやってるwordpressブログなんですよね。アクセスが集中したのかな、繋がりずらかったんでしょうか…。




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