宇宙の静けさが心地よくて…二度グラ 『ゼロ・グラビティ』
実は2Dでこの作品を見ていたのだけれど。「2Dでは見たことにならない」らしいので…という訳ではないけれど、IMAXの3Dで観てみたくなって、二度グラ。
映画の途中から誰もいなくなり、終わりまでほぼ出演者がたった一人になってしまう物語。このジャンルはこれまでもいくつかあって、『キャスト・アウェイ』や『127時間』、動物は出てくるけれど人間一人、ということで言えば『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』も同じかも。私はこうしたストーリーラインの物語では、何よりヘミングウェイの『老人と海』が好きだけれど。それにしてもこの作品に関して言えば、単に漂流するには飽きたらず、その背景に無限の宇宙が広がるところが何よりも魅力的。前後左右・東西南北といった、私達を常に括りつけている重力というものから開放された映像体験は、画期的と言わざるを得ない。この点だけを取ってみても、「劇場で体験する価値のある映像作品だ」という人が居るのも納得だ。アルフォンソ・キュアロンという元々才能のある人が、「今こそ時を逃すまい」と、映像として現在最高峰の技術を活かした、それでいて長回しが絶妙な効果を出す作品を作ったのだなあ。などと思った。
矢継ぎ早に現れる宇宙トラブルは、緊張の合間に緩和があることで、この物語のテンポを美しく感じさせた。よく言われているような「子宮回帰願望」も、彼女が神舟にようやく辿り着き、丸くなって眠るシーンを見れば、誰しもそう指摘せざるを得ないかと。宇宙を描く物語であるからこそ、こうした生まれる前の我々の姿、子宮でうずくまり眠る姿を思わせるシーンが効いてくる。宇宙の静寂と眠り(=死を思い出させる)が自然に融け合うためか、この作品に何より“似合って”いて、クソっ上手いな、とか思ってしまう。
宇宙にぽっかりと浮かび上がってみれば、孤独と向き合うのは想像に難くない思考の流れだ。彼女が自分の人生に思い出す場面、彼女が愛した唯一の風景は何であったかと言えば、実は亡くしてしまった娘の存在だけ。この強い喪失の思い出はそのまま、彼女が地球から離れた理由でもあることを私達は知る。彼女の孤独を通じて我々も自分の人生をふと思い出し、死の間際に何を思うのか、と思いを馳せたりする。地球から何光年も離れた宇宙は、死の世界を思わせる。一度も行ったことのない宇宙に憧れと憧憬を抱くように。
ただ本音を言えば、途中のいくつかのイベントは都合良く片付いてしまうように思えた。それから、3Dもさして自分には必要無いということが分かった。2Dで充分だった。…しつこいけれど、『アバター』に書いたのと同じ理由で私は3Dが好きじゃないのです。でも、『アバター』のように、「このカット、全体から見れば大して意味の無い無駄なシーンだけれど、映像的に見せたくて使っているんだろうな」というものは、この作品には観られなかった。キュアロンお得意の長回しが、映像のインパクトに繋がっていて、映像をゆっくりじわじわと見せることが、かえって映像主義的、印象的に見せることに成功している。これら繰り返される宇宙でのアクションがほぼその連続だとしても、ちゃんと哲学的に人生を振り返るための時間に繋がっているところが上手いな、さすがだなと思ってしまうのでした。
しかし二度目に見たおかげでインパクトはあまり感じなかった。物語や展開も覚えてしまっているため、二度目の今回は緊張感を感じずむしろ眠かった。何度も物語を反芻し、後から原作を読んでさらに追体験した『トゥモロー・ワールド』の方が、ずっとハマったしずっと好きだったなあと。
’13年、アメリカ
監督:アルフォンソ・キュアロン
製作:アルフォンソ・キュアロン、デビッド・ハイマン
製作総指揮:クリス・デファリア、ニッキ・ペニー、スティーブン・ジョーンズ
脚本:アルフォンソ・キュアロン、ホナス・キュアロン
撮影:エマニュエル・ルベツキ
音楽:スティーブン・プライス
キャスト:サンドラ・ブロック(ライアン・ストーン)、ジョージ・クルーニー(マット・コワルスキー)、エド・ハリス(ミッションコントロール/声)
2014/01/23 | :SF・ファンタジー アメリカ映画
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コメント(7件)
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2回鑑賞されたのですね!
私もいろんなブロガーさんが3Dオススメされていたのでメガネで鑑賞。
実は私もあまり好きじゃないんですよね。
今でもサンドラの酸欠呼吸が耳に残ってます。
素晴らしい演技だったなぁ。
あと。
どうでもいいことなんですけど。
サンドラのお腹まわりに脂肪がない、素晴らしい。
丸まっててもぽこっともしてない。
とらねこさん☆
あれ…もうとっくに見てレビューを書いていらしたような気がしてました。
でも既に2度目なのですね。
私もとらねこさんの『永遠の0』並みに「アバター」をこき下ろしたくらい3D反対派だったのですが、これはやっぱり3Dでしょう?と思ったら、そうでも無いのですね。
2Dで十分と思わせてくれる広がりと奥深さのある作品だったと思います。
AnneMarieさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
アンマリーさんも見たのね。私はどうも3D嫌いなんですよ…。
だからついつい、2Dも平行して上映してるとそっちに行っちゃう。
サンドラ・ブロック良かったですよね〜。本当、彼女贅肉が全然なかった!私もそこはしっかり凝視してましたw。贅肉が無いと、本当若く見えますよね〜。素晴らしい。
でもね、あれ無駄な肉が無いというレベルじゃない。よくよく見ると、筋肉すごいんですよ。あれ、相当ワークアウトしてると思います。がんばろー!おー!!
ノルウェーまだ〜むさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
そうなんです、これ実はまだ書いてなかったのです。そうそう、3Dで見る価値のある作品!なんて絶賛する気持ちは分かるんです。
でも、3Dってそんなに必要かなあ…。せっかくノルさんも3D嫌い主義ということで、自分が3Dに反対する理由を改めて説明させていただいてもいいですか?w。
3Dって、現実に見える映像がいくらか出っ張っているだけのことなので、リアルに見る感覚とはむしろ違う部分が逆に気になりません?例えば、「バーンと目の前で何かがぶつかった!でも次の瞬間はヒュッと横にその画面が流れていくだけ」みたい映像をたくさん目にしますよね?これって逆にリアルの感覚とはほど遠いと思いませんか。
つまり、3Dでは、“今自分が見ているものは、リアルとは違うものだ”、と常に映像で訴えかけられてしまうため、観客が逆に現実を忘れ、想像力の世界に入り込むことを邪魔してしまう。想像力の世界に入り込むことを、逆に拒んでしまうのが3Dだと思うんです。少なくても自分にとっては、映画という向こう側の世界に入り込めなくなってしまうんですよ。
とらねこ姐さん、こんちは~☆
3D効果はともかく、オイラもこの映画はかなり
気に入った一本です。(* ̄▽ ̄*)
「やぁ~、映画を観たなぁ~!」って満足感に
浸って席を立てるそんな作品♪
映像も内容も満足・・・なのに不満がひとつ!
なんで邦題を『ゼロ・グラビティ』なんて俗っ
ぽいタイトルに変えちゃったのでしょうねぇ。
オイラは絶対に原題の『グラビティ』にこそ意味
があったと思うのに。
あ、懐かしい!『トゥモロー・ワールド』♪
オイラもDVD持ってる好きな作品の一本です。
ガンヘッド♪さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
わーい!ガンちゃんも満足いきましたか!やったー。
ですよね、映画を映画館で見る満足感満載の、素晴らしい作品でした!映像素晴らしかったですね〜♪
邦題問題ですかー。そうなんです、初めこそ「“グラヴィティ”じゃないと意味が違ってしまうじゃないか」、と公開されるまで私もそう思っていたんですが。でも、実際観てみますと、作品内で“無重力”という単語が原語で出てくるんですよネ。(二度見たのでバッチリッス!)で、『ゼロ・グラヴィティ』もあながちあり得ない邦題でもないなあ…と思うに至りましたですです。
だから、さほど怒る気持ちが沸かないんですよ。おっしゃる通り、原題の『グラビティ』と『ゼロ・グラヴィティ』じゃ意味が違っちゃいますが、実際は、無重力を描いている時間の方が印象的な映画とも言えるわけですから…。私自身があまり、邦題にうるさくない人というのもあるのかもしれませんが…。
『トゥモロー・ワールド』、懐かしいですよね!あれ、2006年でした。当時、夢中になりましたよー。原作読んで、繰り返し反芻しました…。あの原作がまた秀逸だったんですよ〜。
【映評】ゼロ・グラビティ[監督:アルフォンソ・キュアロン]
97点(100点満点)
映画やテレビで宇宙っていいなと思ったことのある人たちは見なくてはならない映画。宇宙映画のフォーマットは更新された。