出会いが事故のような恋愛 『パリ、ただよう花』
週に3、4回、Facetimeオーディオで話す友人がいる。夜となく昼となく電話で長話。彼女の泥沼恋愛話が主な話題だ。彼氏はアフリカ出身で彼女は日本人。二人はNYで知り合った。彼の浮気話、その後の彼らの止めどない喧嘩の話、etc。彼が出て行ったと言っては電話をかけてきて、「今度こそ終わりだ!」などと息巻きながら結局そのままズルズル付き合ッたかと思えば、ついに何ヶ月か前に結婚までしてしまった。周囲の反対を押し切って。
この映画は、まるでその彼女の話を聞かされているような気分だった。彼女自身がこの物語の主人公に似ているとは言わないまでも、これまで何度もどこかで聞いた、女性の友人の泥沼恋愛。そんな話に似ていた。私のように感じた女性は、意外といるかもしれない。彼女はよく「出逢わなければ良かった」、などと言う。出会ったこと自体が事故だった、と。
中国語で“花”を意味する主人公のホアは、人から見たら相当なビッチに映るかも。でも、女なんてあんなもんだよね。居ますよ、あんな子はザラに。上手にやる人であれば彼氏が途切れることなく常に誰かが居る、という状態を作ることが出来るものだ。そういう人は周りから見れば何かの中毒のように思えなくもない。だけど本当の理由は、単に寂しさが故だ。そしてそれを男はすぐに気づく。だから簡単に付き合うことが出来ても、彼氏としてはそうしたこと自体が不安要素になる。そんな女と付き合っていたら絶対安心なんて出来ないから、嫉妬するし束縛もする。この手の女は、相当シツコイ男と大概こうしたドロドロの恋愛に陥っているものだ。いつもいつも。
この先、ネタバレで語ります***********
の
先
、
ネ
タ
バ
レ
ホアとマチューの二人は、冒頭でホアが工事現場の鉄骨にぶつかってしまったこと。この表現がまるで、二人が出会ったことそのものが“事故”であったかのように描かれていた。ここに納得してしまった。
マチューは半ば強引に口説き、ほぼレイプにしか見えないセックスを無理やり行う。この描き方がまたとてもリアルだった。編集に手を加えていないかのような、長いレイプシーン。ある種ドキュメンタリー的なリアルの匂いのする、このセックスシーンのおかげで、その先の二人の話により信憑性が増して感じられた。こういう演出が映画には必要なんだと思う。
その後の彼女の行動も驚きだ。二人はその後一緒に彼のアパートに向かい、もう一度セックスをする。ああ、こういう女いるよな、という。こうした生々しさに説得力を与えるのも、先のシーンにリアルな手応えがあるおかげだ、と私は思う。
作品内では、何度も車窓からの風景、列車のレールや高架線を映すシーンがあった。電車などの乗り物は映画では人生を表すことが多いけれど、レールを見るシーンは二人が人生の途上に居るというイメージを与えた。何か迷い、二人の行く末が何処に向かうかを見定める、そんな印象だ。
そこでラスト、もう一度冒頭の出会いに似たシーンが繰り返される。ここが印象的だ。出会う直前の二人、ここではマチューが鉄骨を肩に乗せているけれど、このシーンではホアとぶつかる事故は起きない。二人は会話せず、ホアがバスの前に居るシーンで映画は終了となる。このバスが、今度は別の乗り物であるような印象を受ける。二人がぶつかっていなかったら、まるで違う人生を選んでいたかのように。あるいは決定的にスレ違ってしまった二人の、これからの人生を表しているかのように。
2014/01/10 | :ラブストーリー
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