見事な物語マジック 『鑑定士と顔のない依頼人』
ジュゼッペ・トルナトーレの新作は、『シチリア!シチリア!』以来。’09年の映画だったけれど日本公開されたのは’10年だったから、ちょうど3年ぶり。
この人の作品て、いくつかの系統のものは物語が上手いなあ~と思ってしまうタイプの作品群があるんですよね。それらが、この手のサスペンスフルなタイプ。文芸派タイプなフィルムとは違い、一般的な人間の覗き趣味や下衆な好奇心をグイグイくすぐるタイプのもの。トルナトーレと言うと『ニュー・シネマ・パラダイス』のイメージが強いのに、本当は娯楽的に物語を盛り上げていく『マレーナ』系統のものもあって、それもこの人の特徴の一つなんですよね。私は後者の方が断然好きだったり。『シチリア!シチリア』は前者の、ニューシネマ~の方をより好きな人にオススメな作品だったけれど。
最近私は、映画感想があまり投下出来なくなってしまっていて…。これはtwitterの弊害なのかもしれないけれど、長文を書くのが弱冠面倒に感じてしまうんですね。気楽に書けるtwitterの方が楽だし、誰かが聞いていてくれてる感覚があって。でも来年はどうにか時間を上手に使って、ブログの方を書きたいなと思ったりしてます。今回はちょっと初心に返って、気楽な文で、しかもネタバレ全開で話をさせてくださいな。
以下、完全ネタバレ。見た人だけ読んで下さい。
下
、
ネ
タ
バ
レ**********
来るぞ、来るぞ!急下降!と期待しながら、それでも落ち込むラスト。頭のどこかで分かっていたはずなのに、上手に乗せられてしまった。さすがです。こう頭から崖にバッシャーンと直下させられ、そして後からもジワジワと余韻に浸る。嫌な余韻のある映画。好きです。それがたとえ悪夢であっても覗きたい。
彼は、何と引き換えに何を得ようとしたか…。結果、何を得たのか。そんなことをついつい考えてしまう。
冒頭で彼は、高級フレンチレストランで食事をしているのだけれど、彼はおそらくちっとも寂しくなんか無かったのかもしれない。全てを得ていたんですよね、富も名声も。
自分が愛を得られるかもしれないという夢を見て、全てを失ってしまう。映画が始まった時に持っていたものを、結局全て失ってしまう男の話。なんですね。
いくつか見逃せないサインがあって、そこが気になりながら見てたんですけどね。例えば、最初に彼女の素顔を覗いてしまった時。あそこで電話をしていて、「私が心変わりするかって?そんな訳ないじゃない」「私に恋(バージルが)?してないわよ、病気のことが気になるみたいね…」なんて台詞を電話越しにしていて、この相手が誰なのか、私だったら明らかに彼女が心を許した様子が気になったけれど。二度目の電話は、聞かれていることをあらかじめ分かっているから、出版社からの電話がかかってくる。これも演技だったのね。
あと、2つ目の箇所は、サラのバージルへのロバートに関する相談。ここでもしかしたら真実に気づくか、少なくても真相に近づいていた可能性もあったんですよね。サラの話では「クレアという名前がよく出てくる」という話だったけれど、後から考えればこのクレアも別の女性。それこそ本物のクレア。彼女に話を訊くのが遅すぎよね。いつもあの向かいのカフェバーにいる計算の天才。私だったら、何かを訊くなら真っ先に彼女に話しかけたんだけどなあ…なんて思ってしまうけれど。
で、たとえロバートが怪しいと思っていても、ビリーのことまでは…。彼の裏切りは心底恐ろしくなった。もちろん、あの踊り子の絵を描いたのがビリーだったんですよね。「君が僕の才能を昔に認めていれば、僕は天才画家になれた。」二度目に言う時に、さすがにゾクっと嫌な予感がするんですよね。こういうものが後から後から思い出され、同時に彼が全てを失い、老人ホームで呆けた顔をしている様子を、心の中で何度もカットバックで繋げて見てしまった。『しわ』というスペイン映画も思い出した。「全てを無くしてしまう」人の話は、いつも面白いのよね。映画だからこそ私達は、こういう究極の物が見たいんだ。
’13年、イタリア
原題:La migliore offerta
監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
撮影:ファビオ・ザマリオン
音楽:エンニオ・モリコーネ
キャスト:ジェフリー・ラッシュ(バージル・オールドマン)ジム・スタージェス(ロバート)、シルビア・ホークス(クレア)、ドナルド・サザーランド(ビリー)、フィリップ・ジャクソン、ダーモット・クロウリー
2013/12/27 | :ヒューマンドラマ ジェフリー・ラッシュ, ジム・スタージェス, ジュゼッペ・トルナトーレ, ドナルド・サザーランド
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コメント(5件)
前の記事: 金沢うまいもんづくし Vol.2
鑑定士と顔のない依頼人
邦題が微妙ではございますがね〜^^;
顔がないわけではなく顔はあるのです。
↑の女性ですがね。
このヒロインを絶世の美女に「しなかった」トルナトーレ氏、賢い!
かと言 …
そうなんですか~映画ばなし聞きたい私には
ちと最近さみしかったですね~(^ ^);
停滞する時期ある。私もあるある、たんとある。
でも、しゃべりたい人は必ずしゃべりたくなる。
それまでは無理して書かないことに決めた。(笑)
物語マジック!まさしく!
あんまり好きじゃなかったけれど
「マレーナ」なんか、巧みな監督ってやっぱり
変態入りだなぁ~って思ったもの~
ま、とにもかくにも、最後には、総崩れで
堕ちに堕ちてゆく人間、暗闇でマナコ爛々して
観続けるのってやめられません。(^ ^)
vivajijiさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
映画話聞きたいと言ってくださりありがとうございます♪
いやー、なんか、考えすぎると「自分の駄文なんか誰も読まないよ…」とかイジケ出したり、逆に「かしこまった文だからいけないのであって、もっと気楽に書くべきなのだ」とか考え出したりして、悩みには終わりがないっ!(笑)。
私が、vivajijiさんのざっくばらんな文を読みたくなるのと同様、自分ももっと自由に書かなければ!と思ったりもします。でも読みやすく書きたい気持ちはあって…。w 私は、あまり考えずにサクサク書くと、すっごい読みづらい文になっちゃうんですよ。
でも確かに、無理しないことがブログを続ける一番の秘訣ですよね。考えすぎる人は、みんなブログやめてったもん。
物語を物語るのが上手な脚本を書く人がやっぱり一番強いですよね。映像主義もいいのだけれど、「次にどうした」が来るところでどんどん興味を惹かれる。それが太古からの“物語マジック”なのかなーと思ったりもします。
そして、変態も強し!!(←結局その辺に弱い人)
とらねこさん、鋭い!
怪しいポイントや、会話の中での、ちょっと引っかかる部分など、しっかりチェックが入ってましたね^^
しわ、っていう映画は未見なのだけれど、興味がわいてきちゃいました。
哀しいけど、こういう映画、結構好きです。
シチリア・シチリアは、うーん・・・悪くはないけど、こちらの作品の方が私はずっと好きかな。
latifaさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
見た後で、あれこれと考えてしまう作品でした。“傑作”とまでは言い過ぎかもしれませんが、後々心のなかに残ってしまう作品ですよね。
こういうのってやっぱ、いい映画じゃないかしら。
や、もちろんね、彼は童貞だった訳ですから、恋も知らずに完璧なままで生きて死ぬのと、生涯にたった1つでもいいから、恋を経験して死ぬなら、どっちの方が幸せかは…熟考してしまいますね。
ただ、どこかで「物語だから、他人ごとだから」楽しめる部分もある。
その辺は自覚的でいたいなーなんて思いました。
『シチリア・シチリア』は、いかにも『ニュー・シネマ・パラダイス』の好きな人たちに大手を降って向かい入れられそうな映画ですよね。