今年のジブリ二本目!渾身の傑作 『かぐや姫の物語』
今年のジブリは凄すぎる!感動に胸が震えた。いつまで経っても文が一向にまとまりそうにないので、まとまらないままUPすることにします(苦笑)。まあ、毎度のことでございますが。それにしても、改めて高畑勲監督作品を全部見たくなった。
ところでこの作品、お客があまり入っていない様子。竹取物語を取り上げるなんて渋すぎる?どうかそう言わず、「とても美しい一つの物語に出会う」そんな気軽な気持ちで、是非出掛けて欲しい。きっとあなたの知らない『竹取物語』に出会えるはず。そして思わず「日本人で良かった!」と涙が溢れる、そんな素敵な作品なので。
日本で一番古い物語である『竹取物語』。現代風にアレンジをすることなく、原文ママの古語で冒頭の文が出てくる。ここで「みんなが知ってるこの古典作品を、そのままやりますよ。」と宣言しているかのよう。個人的にはさほど好きでも無い、この有名な物語を、一体どんな風に表現するのだろう?と興味津々。開けてみると、一切誤魔化しの無い、極めて正攻法で真正面から取り組んだ作品だった。大きい。テーマがあまりに大きい。
ただの異類婚姻譚でしょう、なんて思ってたんですよ。「月からやってきた綺麗な人が誰とも結婚せずに月に帰りました。何故なら、自分は帰らなければいけない運命だから、誰の愛も、帝の愛すら受ける事が出来ないのです。」そんな話だと思っていた。だけど、待って。
(1) 何故、彼女は月から地球にやって来たんでしょう?
(2)何故、誰からの愛も受ける気にならなかったのでしょう?
(3)何故、せっかくやって来たのに再び月に帰らなければならないのでしょう?
有名な物語に対して馬鹿げた疑問に聞こえるでしょうか?でもこれらの疑問に、ジブリは見事な、説得力のある描き方で、原作に描かれていない部分を埋めていくのでした。いや、そうとしか思えなかった。
じゃあ、実際に何が描かれているか?というと、「地球に生まれてきた私たちそれぞれが、何故生を受けたのか。」「どのように愛し、つまりイコール、どのように己の生を生きたか。」そして、最後には「何故、死ななければならないのか。もしくは死ぬ間際に、どのようなことを自分たちが考えるか?」こんな風に当てはめることが出来る。そうした物語になっていたのでした。竹取物語って、こんなすごい物語だったんだ!そして、そんなジブリがパねえ!
そして、日本に生まれ落ちた我らの生には、日本ならではの四季折々の喜びがある。生を享受することの一つとして、我らを取り囲む環境、生まれた地に根づく喜びとして、生と決して切っては切れないもの。鳥や獣、万物全てと我らは同じであるのだから。そうも描かれているんですよ。
蛇足だけれど、月からの御車が迎えに来る使者たちが、全て仏性の者として描かれていたことに、見た時には疑問を感じてしまった。日本古来の神道の教え、八百万の神々と仏教思想が混在していたであろう当時の人々に、あえてこの物語が仏性で描く必要があったか?と。しかしこれこそ、万物全てが平等であるとするこの考え方こそ、仏教の思想なのですね。
ちなみに、もう一点蛇足ですが、かぐや姫が心の中で葛藤を覚えたことと、実際に何があったかについて、この辺りが妄想なのか、そうでないのか、思わず判断がつきあぐねるような描写が数箇所あるんですよね。しかし、あの婚姻の夜の疾走の末に、月の妖精が姿を現す描写がある。私は、彼女が望んだ事は全て実際に起こったのだ、と解釈しても良いように思います。最後の回想のような捨丸との愛のシーンですら。月の使者の妖術(?)によって、それらが全て無かったこととされ、その経験がたとえ消え去ったとしても。それが、『竹取物語』でない、『かぐや姫の物語』。
いやあ、こんな凄い話が、泣けない訳がない。
’13年、日本
監督・原案・脚本:高畑勲
製作:氏家齊一郎、大久保好男、企画:鈴木敏夫
プロデューサー:西村義明、坂口理子
音楽:久石譲、主題歌:二階堂和美
キャスト:朝倉あき(かぐや姫)、高良健吾(捨丸)、地井武男(翁)、宮本信子(媼)、高畑淳子(相模)、田畑智子(女童)、立川志の輔(斎部秋田)、上川隆也(石作皇子)、伊集院光(阿部右大臣)、宇崎竜童(大伴大納言)、古城環(石上中納言)、中村七之助(御門)、橋爪功(車持皇子)、朝丘雪路(北の方)、仲代達矢(炭焼きの老人)
2013/11/30 | :アニメ・CG等
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コメント(11件)
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とらねこさん☆
結構良かった・・・と話は聞いていましたが、とらねこさんがそんなにも感動するほどに良いとはっ!!?
試写会も興味がモテなくて、1枚も出さなかったけど、ぐっと気になりだしました。
試写行っておけばよかったなぁー
ノルウェーまだ〜むさんへ
こんばんは〜♪遅くなってすいません!
金沢に旅行に行ってました。
そして、帰ってきたんですが昨日は弱冠体調が悪くて…。張り切りすぎですよネ!
そうなんです。とっても良かったですよ、この作品!ジブリは好き嫌いあるから、興味ない人には行く気にもなれないのかなーとは思うんですが…これは、年間ベスト級だと思います。
試写会で見れば良かったとは…ノルウェーまだ〜むさんは、そんなに試写会当たるんですね?私はいつもほとんど全く当たらずでして…。
かぐや姫の物語・・・・・評価額1800+円
かぐや姫が、本当に欲しかったもの。
巨匠・高畑勲が78歳にして挑んだのは、日本における物語の祖にして最初のSFファンタジー、「竹取物語」の初の長編アニメーション映画化である…
断言しますが、今年はジブリの日本が世界のアニメーションに地殻変動を起こし、一つの時代のピリオドを打った年として映画史に残ります。
「風立ちぬ」も素晴らしかったけど、本作のインパクトはそれ以上でした。
ぶっちゃけ、今年はもうこの映画に出会えただけで良いや、そんな風にすら思ってしまいました。
さすが高畑勲、ただただ脱帽です。
ノラネコさんへ
こちらにもありがとうございます♪
>断言しますが、今年はジブリの日本が世界のアニメーションに地殻変動を起こし、一つの時代のピリオドを打った年として映画史に残ります
おお、素晴らしい一言!今年は本当にジブリイヤーでしたね。
おや、ノラネコさんはかぐや姫派でしたか?私は正直、単純な好みで言えば『風立ちぬ』の方に軍配が上がります。
もちろん、こちらも本当に素晴らしかったし感激でした。どっちを上にするかでまたその人の好みが出そうですよね。
「かぐや姫の物語」
月から来た娘は、自分らしく生きることを許されなかった。
ほとんどジブリは見ない(反骨精神ゆえか?)ですが、予告編に惹かれて本作は観賞しました。
素晴らしかったです。物語の人物に過ぎなかった、かぐやに血が通いました。
これは、もう一回観てもいいですね。
ボーさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
へー!ボーさんジブリはあまりお好きじゃなかったんですね。
先日、高畑勲のこの作品を作るまでのドキュメンタリーを見ていて、いかに途方も無い作業だったのか、再確認したばかりだったりします。
高畑勲のクレイジーなまでのこだわりも、物づくりをする人はこれぐらいのこだわりで居て欲しい!と思えるような、偏執さで。
でも私そういうの結構好きなんですよね(笑)
『かぐや姫の物語』 2014年本目 フォーラム仙台
『かぐや姫の物語』 2014年本目 ☆☆☆★ フォーラム仙台
2013年の映画ですが繰り越しました。
なので、2014年の一本目です。
『竹取物語』なので、話は大体知っているのですが …
こんにちは。
去年見逃したので、何気に今年の1本目でした。
クレパス画風の味のある画に、久石監督の音楽が素晴らしかったですね。
話は古典の「竹取物語」をベースにしているのですが、とらねこ姐さんの指摘した3点について斬新な解釈でしたね。
もともとの「竹取物語」は、当時の世相その他を映した風刺やお遊びに満ちています。
輿入れを申し込んできた殿方達への無理難題とその結末は「言葉遊び」です。
言葉遊びはアニメでは再現が難しいのか削除されていましたが、世相の風刺は効いていたように感じました。
やよ竹のかぐや姫の命名の宴会での下卑たやり取りにあらわれていたように感じました。
月から来た、月へ帰る云々は高畑監督の思いが込、「竹取物語」よりも重みを感じました。
地井武男さんの熱演は僕的にはくどかったですが、おしい方を亡くしました。
ご冥福を祈ります。
健太郎さんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
>話は古典の「竹取物語」をベースにしているのですが、とらねこ姐さんの指摘した3点について斬新な解釈でしたね。
ありがとうございます。高畑勲監督は古典である『竹取物語』を、近代自我の持つ実存的問いへ昇華して表現していると思います。
それを簡単な言葉で、3つの言葉で要約して説明しています。私、難しい言葉で語るの嫌いなもので。
>輿入れを申し込んできた殿方達への無理難題とその結末は「言葉遊び」です。
この部分は、そのままやってましたよね。
>地井武男さんの熱演は僕的にはくどかったですが、おしい方を亡くしました。
同じく、冥福を祈ります。