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地中海映画祭でケシシュ4本!+α

18864546ケシシュ凄すぎワロタ。アンスティチュ・フランセにて「地中海映画祭」の“ケシシュ特集”がかかったのはTIFFの期間でした。あの、個性的で濃い映画ばかりの東京国際映画祭の数々の映画たちが、いとも簡単に吹っ飛んでしまいました。消しシュー。映画好きで良かったと心底思った。今年発見した、最高に気に入った映画監督!

『クスクス粒の秘密』

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’07年、フランス
原題:La Graine et le mulet
監督:アブラディフ・ケシシュ
出演:アビブ・ブファール、アフシア・エルジ、ファリダ・バンケタッシュ

上半身を大写しで撮り、どことなく圧迫感を感じさせるタイプの画面作りに、揺れるカメラ。 初めの印象は、こういった類のカメラワークが正直苦手な私は、あまり気乗りがしなかったんですよね。会話もかなり突っ込んだ内容のあけすけなもので、主人公であるチュニジア移民の60代の男・スリマーヌに周囲の人間が語り、寡黙な父親であるスリマーヌがそれをじっと耐えるというもの。しかしその会話劇だけで彼の人生が次第に見えてくる。移民の立場や彼の夢に向かって、ひたむきに進んでゆく姿。ラストにまた仰天させられるんですよね。メインディッシュであるクスクスが行方不明になり、彼の現在の奥さんとその娘がそれぞれに協力する姿に心を動かされる。その一方でスリマーヌは…という呆気に取られるラスト。ちなみに、ラストのベリーダンスのためにアフシア・エルジは15キロも増量して臨んだのだとか。この増量って、ベリーダンスのシーンでお腹がぷっくりしているところを映したいがためですよね。すごい鬼演出の人だなあ!

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黒いヴィーナス

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’10年、フランス
原題:Venus noire
監督:アブラディフ・ケシシュ
出演:ヤヒマ・トレス、アンドレ・ジェコブス、オリヴィエ・グルメ

『クスクス粒の秘密』ですっかり気に入ってしまい、もう一作見て帰ることに。これでさらにひっくり返った!
アフリカからイギリスへ渡ったホッテントット・ヴィーナス。冒頭で彼女は、文明社会において、未開の文明をよく知らない人間たちに、見世物小屋でフリークショーの演し物として出演する。何とも風変わりな、アフリカの女性の体型を売りにしたショーだ。人権蹂躙だの差別的だのと裁判になるのだけれど、最初こそ、自分の尊厳を傷つけるものでは決してない、差別的な扱いをされている訳でもない、として勝訴するんですよね。自ら意識的にショーに出ているのだ、とはっきり答えるサーティエ。たとえ自分の身体が売り物になっていたとしても、自分の意識次第なのか。ところがこうしたものの境目って一体どこからどこまでなのか、その区別が難しい。自らを見世物にしても、金銭的に満足出来る報酬を得ていれば、それで経済は成り立っていると言えるのかもしれない、と。しかし自らを売り物にする行為は、一体どこからどこまで人間の尊厳が守られていて、どこからがそうでないのだろう。その区別はどこに在るのだろう。次第に彼女が売るものが、少しづつ範囲が広がっていく。まるで現代版・マッチ売りの少女のように。サーティエのアフリカの民族ダンス、ヒップダンスの迫力のすごいこと。画の凄さだけでも、心を釘付けにする。アッと驚くほどの画力。ぶったまげた。

身をかわして

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’04年、フランス
原題:L’Esquive
監督:アブラディフ・ケシシュ
出演:サラ・フォレスティエ、オスマン・エルカラス、サブリナ・ウアザニ

一人の少年が恋した物語で、ここまで釘付けにされるなんて、一体何がどうなっているのだろう…。上記に挙げた、『クスクス粒の秘密』と似通ったカメラワークなのは、人物の心理を鮮やかに描くそのスタイルのためか。台詞以外の演技で語られる感情の豊潤さに驚嘆する。…と、何かと「驚く、驚く」を連呼してしまうケシシュ。彼の壮絶さの理由は、圧倒的に知的であることに尽きる。作品そのものにググッと心を引き寄せられながら、そのテーマが何であるとか、もうどうだって良くなる。人物の心理描写の面白さ。ケシシュは小津の信奉者であるらしく、ティーチインでも「今この場ですぐに思い浮かぶ映画ベスト10は何か?」との質問に、真っ先に小津の『小早川家の秋』を、最後の10本目に『秋刀魚の味』を挙げていたらしい。うわあ、ごめんなさいまだ見てないっ!ケシシュが一番好きとすら言う小津作品、日本人なのにまだ見てないの多数。これから追いかけます…。

ヴォルテールのせい

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’00年、フランス
原題:La Faute a Voltaire
監督:アブラディフ・ケシシュ
出演:サミ・ブアジラ、エロディー・ブシェーズ、オール・アティカ

日本ではあまり見ることの出来ない、ケシシュのデビュー作を英語字幕付きにて(『黒いヴィーナス』も英語字幕)。みずみずしい人物造形をこれまた堪能。一つの恋が終わり、別の女性から慕われる主人公。すれ違う男女の恋愛の姿、そこにある等身大の肉欲と情愛と。どうしようもないハスッパ娘を描きながらも、決して上から目線ではないところがまた好きだった。移民の青年の日常、青春とその喧騒。

アポロンの地獄

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’67年、イタリア
原題:Epido roi
監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
出演:フランコ・チッティ、シルヴァーナ・マンガーノ、アリダ・ヴァリ、ラウラ・ベッティ

ソフォクレスの『オイディプス王』の映画化。なんと、現代と古代とがダイナミックに交差するけれど。個人的には、頭の中で映像化された『オイディプス王』とパゾリーニの描いたそれが、こんなに違うのか!という驚きと喜びと。乾いた赤土の中をさまようオイディプスと、運命の殺人シーンは強烈。ただ個人的には、オイディプスが盲目になるシーンの意味性に関しては説得力に欠ける、と。オイディプスが真実を発見するこのシーンこそ、殺人の強烈さに勝るシーンでないといけないのだ。ここを描けないと、ソフォクレスに迫ったとは言い難い。

以上

この他、地中海映画祭では、ビクトル・エリセ『マルメロの陽光』と、ヌリ・ビルゲ・ジェイランの『5月の雲』をチョイス。

 

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コメント(6件)

  1. とらねこさん☆
    うわー!すごい観てますねー!!

    私はケンシュ未踏です。
    まさか、ここにクスクスが登場しているとは・・・
    ちなみに今夜の夕食はパパンがクスクスとチキンのタジンを作ってくれました(笑)

    イギリスはフリークショーが普通に人気だったのですよね。エレファントマンはともかく、ショーに出る人たちは誇り高く、人気者ほどよく稼いで幸せに結婚もしていたらしいです。

  2. ノルウェーまだ〜むさんへ

    こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
    これまで普通に公開されたりはしてないんですよね、アブラディフ・ケシシュ監督。『クスクス粒〜』はTIFFでかかったのですが、売り切れで見れませんでした。
    今度新作の『アデル、ブルーは暑い色』が2014年春に公開されるので、そしたらゼヒ!ご覧になってみて下さいませ〜。カンヌで主演女優賞を二人の女優が獲ってますよ。一人はレア・セドゥです。

    そうそう、クスクスがこの映画でさんざん出てきて、「このクスクスは絶品だ…」なんて出てくるもので、クスクス食べたくなってしまって。
    なんと、ノルウェーパパがクスクスのタジンを作ってくれたんですか!パパンすご〜い。
    私はタジン鍋買おうかなと思った時あったんですけど、場所取るのでやめちゃいました…。

    イギリスのフリークショーは人気だったんですね。エレファントマンやトッド・ブラウニングの『フリークス』のイメージが強いなあ。あ、でもアメリカ映画でしたね。
    日本でフリークショーというと見世物小屋になりますか。そう言えば私、酉の市にはこのブログを始めて以来、ほぼ毎年のように行って、見世物小屋観覧してます♪
    蛇を生きたまま食べる“蛇女”とか、口からろうそくの火を垂らして火を噴いたりして、すごい面白かったですよー。今年もちょうど酉の市の季節なので、ついついオススメ(笑)
    http://www.rezavoircats.com/2007/11/467

  3. とらねこさん☆再び~
    見ました、見ました!酉の市の見世物小屋♪
    むすめがいたく気に入って、蛇を飲む後継者になろうとしていたくらい(爆)
    日本で唯一残っているただひとつの見世物小屋なんですよねー

  4. ノルウェーまだ〜むさんへ

    こんばんはアゲイン♪
    ナヌー!酉の市気に入って、蛇を飲む後継者をやってみたくなったなんて…もしかして、ねえねさん!?
    彼女、ジョジョ好きなんですよね!メタリカのコスチュームをノルまださんが徹夜で作っていたのを、私はよく覚えています(爆笑)

    見世物小屋、お松さんがもう結構な年になってきた時に、後継者として突如「私、蛇が食べたいんです!」と現れたのが、小雪さんだったらしいです。それより前だったら、ねえねさんに決定していたかも!?でも、私もそういうのに憧れる気持ち分かるなあ…♪
    あ、そう言えば「ニッポンのみせものやさん」というドキュメンタリーが少し前に公開されてましたネ。そうそう、2010年より前には、2つだけ残っていたんですが、2010年以降は現存するたった一つの小屋になっちゃったらしいです。
    なんかまた、2013年11月30日(土)〜12月6日(金)、新宿K’s cinemaにて一週間限定ロードショーやるみたいです。
    http://www.dokutani.com/

  5. 実はクスクスはとらねこさんが買えなかった5年前のTIFFのWORLD CINEMAで観てました。
    http://plaza.rakuten.co.jp/cucurose/diary/200810220000/
    この映画,私にとってはとても多くの物を運んできてくれたものでして、これが縁で知り合えた知人もおりますし、みんなでクスクス食べに行っちゃったりと、思い出深いものがあります。いい作品でしたね。5年も経つのかと思うと感慨深いです。

    その他の今回の特集上映は、私が根性なくて(!)行ってないんだけど、『アデル』だけは先日拝見しました。これも素晴らしかったです。日本でもケシシュは根付くと思いますよ。楽しみですね。

  6. rose_chocolatさんへ

    こちらにもありがとうございます♪
    ねー、TIFFで一足お先に見れていた人たちが、すごく羨ましかった!
    で、ロゼさんたちもクスクスを映画のお仲間と食べに行ったんですね。これが縁で知り合えた人も居たなんて、素敵♪ちなみに私は、ノラさんと食べに行ったんですよ〜。

    『アデル』もロゼさんは早めにご覧になってましたね〜。超羨ましかった〜。いやあ、この作品でケシシュは更に名を上げるんじゃないか、と予想しています。
    すっかりこの監督にハマりました。




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