ティーンエイジ・サイコ・スリラー 『トランストリップ』
2013年ラテンビート映画祭にて鑑賞。
『桐島、部活やめるってよ』で言えば、スクールカースト最下層に居そうな、目立たないタイプの気の弱い大人しい子が、次第に精神的に追いやられていく物語。男女混合グループでコテージみたいなところに泊まれば、何かしら悲劇が起こるに決まってる…と思いがちなのは、ホラー好きが故なのかしらん?だって、この作品に流れる空気は、どこか居心地の悪い不穏な空気で、ソワソワするような禍々しさがずっと流れているんですよね。そうしながらも、ホラーのような安易な手に陥らない、だからこそ何が起こるか分からず怖い。だからこそ面白い!そんなサイコ・スリラーでございました。人間の心理の細かな描写、うん、それが的確であれば本来は、それだけで面白く見れるサイコ・スリラーになるんだ。
この物語が面白いのはそうした人間関係の描き方で、何より主人公の気の弱い女の子アリシア(ジュノー・テンプル)と、人をからかうのが好きで少し意地悪で風変わりなブリンク(マイケル・セラ)との相性が悪かったことがキッカケだったかも。二人の軋轢がギシギシと軋んで、悪い方向へ悪い方向へと歯車が噛み合わなくなっていく居心地の悪さ。これが面白くて、理解出来るような気がして、自分のティーンエイジだった頃の生きづらさを思い出して…(苦笑)。そこが何よりの醍醐味だった感じ。
意外とこの年代の頃って、無茶ぶりさせられたりするんですよね。自分にとってはほんのちょっぴり勇気のあることだったり、でもノリが悪いと思われたくないから周りに同調して頑張ったり。本当はそんなことはしたくはないのに、だけどいつの間にかそうした空気に呑まれそうになってる自分が居たりする。もちろん、人間が居る場所どこもそうした危険を伴ってはいるのだけれど。
主人公のアリシアも、決して人と比べてトンでもなく“豆腐メンタル”だった訳ではなく、日本人だったらこのぐらいがデフォルトでしょー、というぐらいの弱さ。アメリカの高校生なんかだったりすると、ドラッグをやらされたりすることもあるし、彼女は初の海外旅行で緊張していた部分もあるから、何も彼女の精神がそれほど弱いのが原因!て断定できないところがある。それから、マイケル・セラ演じるブリンクもホモのケがあり、思春期であることも手伝って、女子という生き物に対して本当に意地悪だったりする。と、言ってももちろん、ラストの展開にはやはり多少リアルから遠ざかっている部分もあって、そのトンだ程度がもう少し踏ん張っていたら、傑作になっていたのになあ、という勿体無さもあった。監督がQ&Aでなるほど、と思ったのが“ポランスキーの『ローズマリーの赤ちゃん』のような恐ろしさ”(通訳はポランスキーまでしか訳して居なかったけれど)。やはりそこを狙っていたのね、と納得。だからラストは「◯◯◯◯」なんだ、と。ほんの少しの異常さ、居心地の悪さ、隣人の恐ろしさが、いつしか思ってもみない悲劇へと結びつく…。この監督、今後も名前を覚えよう!と思いました。ナカナカに楽しめた作品でした。しかも、エンドクレジットで気づいたのだけれど、これ撮影がクリストファー・ドイルでしたよ。
’13年、チリ、アメリカ
原題:Magic Magic
監督・脚本:セバスティアン・シルバ
製作:クリスティーン・ベイコン、フリーダ・トレスブランコ
撮影:クリストファー・ドイル
キャスト:ジュノー・テンプル、マイケル・セラ、カタリーナ・サンディノ・モレノ、エミリー・ブラウニング
2013/10/22 | :サスペンス・ミステリ カタリーナ・サンディノ・モレノ, ジュノー・テンプル, マイケル・セラ
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