宝物みたいな映画 『ムード・インディゴ うたかたの日々』
究極のゴンドリー映画であり、ボリス・ヴィアンの『うたかたの日々』最高の映画化作品!
…だと思うんだ、ボリス・ヴィアンは映画の後に読んだばかりの、にわかファンだけど。こちらの『うたかたの日々』、映画化不可能と言われていた作品だったとか。本を読まなくても、この作品を見た人ならきっと話は通じるはず。こんなに自由な発想の映像があるのね!なんて1シーン毎に感激しまくり。しかも、これほどまでにゴンドリーの作家性が合致した作品て、なかなか無いのでは。始まってすぐに興奮のあまり鼻が膨らみっぱなしだったし、終わった今でもあのワクワク感を思い出すとドキドキする。しかも、これに似ている作品がまず思いつかないんですよね。
「これまでゴンドリーはbjörkのPVが一番良かったけれど、今回の作品はPVがそのまま2時間の長さの映画になった感じ。」なんて、終わった後菊地成孔がトークショーで言ってたけれど、「まさにその通り!」と思ってしまった。『ムード・インディゴ』という名前、原作の『うたかたの日々』の英題なんですって。そして原作では、恋愛シーンの高揚感が訪れてすぐにトーンが代わり、闘病シーンへと突入してしまう。苦しいシーンの方が多いんですよね。胸に蓮の花が咲く病気になってしまったクロエ。この蓮の花はそのまま、「Lotus Blossom」というデューク・エリントンの曲のタイトルを彷彿とさせるものだとか。デューク・エリントンは、初めにカクテルピアノでカクテルを作る時に出てくるけれど(『ラヴレス・ラヴ』』)、ボリス・ヴィアンの原作では、前書きにその名が出てくる。「大切なものは2つだけ。綺麗な女の子との恋愛。それから、ニューオーリンズの音楽、つまりデューク・エリントンの音楽だ。」こちらの物語も、この前書きにある通りのそのままの代物。ストーリー性はほぼ皆無。女の子と恋愛し、彼女が病気になり、…というだけのもの。それなのにキラキラした上質のセンスの良さを感じてしまう不思議な魅力。病に倒れ早逝したヴィアンの人生観がそのまま現れているような、淡くて切なくて儚い人生の一遍の詩のような映像。
ところで、この作品の中で描かれる“死”が、とてもおかしなことになってるんですよね。スケート場のシーンでは、楽しく踊っていたのに、コンテストが始まると、バタバタと倒れて人が死んでしまう。アニメみたいに血が出たりして、いかにも軽く漫画っぽく不条理に死が描かれてるんですよ。私はここにビックリしてしまった。この死の描き方は一体何なのだろうかって。ちなみに原作では、確かにスケート場で人が倒れどんどんと折り重なっていくけれども、ゴンドリーが描くような漫画的な死が描かれている訳ではなかったんですよ。原作者のボリス・ヴィアンはちなみに、長年心臓病に苦しみ、短命で死ぬことを自分でも常に意識していたのだそう。実際に39歳で亡くなってしまう。さらに彼の執筆活動そのものも、第二次世界大戦から帰って来てひどい精神状態において書き始めたのだとか。ゴンドリーの描写は、そうした彼の死生観そのものを、映像として見事に描写していると言えるのでは。
この人生の儚さこそが逆に愛おしくなってくる。ほんの一時夢を見て、あっという間に消え去ってしまう日々の泡。人生の苦さ苦しさ、重みなど、まるで幻想であるかのような。「人生なんてそんなものじゃないか」。夢のように人生が自分の目の前に現れたかと思った途端、あっという間に若さは散ってしまい、泡のように消え去っていく人生。儚くて、悲しくて、やり切れない。
P.S.ちなみに、ディレクターズカット版は約2時間あるけれど、公開されるバージョンは90分なのだそう。私が見たのは前者だけれど、闘病の苦しさの部分が非常に長くて、短い方のバージョンだと、もっとラブストーリーの部分がクローズアップされているんですって。
’13年、フランス
監督:ミシェル・ゴンドリー
原作:ボリス・ヴィアン
脚本:ミシェル・ゴンドリー、リュック・ボッシ
撮影:クリストフ・ボーカルヌ
音楽:エティエンヌ・シャリー
キャスト:ロマン・デュリス(コラン)、オドレイ・トトゥ(クロエ)、ガド・エルマレ(シック)、オマール・シー(ニコラ)、アイッサ・メガ(アリーズ)、シャルロット・ルボン(イジス)、サッシャ・ブルド(マウス)
2013/10/05 | :ラブストーリー ディレクターズカット
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コメント(10件)
前の記事: アイルランド【まとめ】
試写お疲れさまでした。
ディレクターズ・カットで見れてよかったよね。
ただ、これって観ててかなりしんどくなかったですか?だから90分で公開ってのもありなんだと思うんですよ。その方が観ている方が辛くないからね。
130分バージョンは、闘病の過程がしんどいけど、崩れていく悲しみっていうのも伝わってきましたね。
あとから思い起こすにつけ、じんわり来ました。
rose_chocolatさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
試写、連れて行ってくださり本当にありがとうございます!
ジャズミュージシャン菊地成孔氏のトークショーもとても良かったです。
帰り、すっごい満面の笑みを浮かべてる自分が居ました。
これ、DC版で見たいっていう意見が結構散見されるんですよね。
しかし実際見てみると、短縮版で公開した配給さんの気持ちが分かります。
私はしんどいって程ではありませんでしたけど、最後の辺りの生きる苦しみの部分がとても長く感じてしまう。その気持ちは分かります。
こんばんは。とらねこさんは観てから読んだんですね。
昔から読みたかった本でとっとと読んどいて記憶薄めてからこちらを鑑賞すれば良かったです。公開を知り慌ててほぼ1週間うたかた漬で見ました。
インターナショナル版の選択は配給側としては当然かもしれませんね。
私はDC版でもしんどくなかったし、もっと執拗でもOKと思いました。楽しかったです。
imaponさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
おお〜っimaponさんもこれ気に入られたとは嬉しい!
そして、本が先でも全く遜色無く、DC版でもしんどくなかったなんて、嬉しいな。
私はこれ大好きでした。もう映像見てるだけで、なんだか嬉しくてたまらなくなっちゃいました。ゴンドリーの映像マジックにやられてしまった感じ!
インターナショナル版は私は見ていないので何とも言えないのですが、その判断は有りなんじゃないかなあと思ってます。でもみんな、DC版の方を見たがっていますね。ライズでやってるようですけど、この間は完売だったみたい。
実は先週のシネマライズのDC版、最後のチケットは私です。
混雑を予想して早目に午前中に行ったんだけど、完売の表示。
ダメもとで「完売なんですか?」と聞くと
「あと1席だけです」とラッキーでした。
完売表示を見て諦めなくて良かった。
imaponさんへ
こんばんはアゲイン!
何となんと、最後のチケットだったんですか。
しかもあんな遅い時間の上映なのに、午前中に行って完売?
しかも最後の一枚だったとは!最後の一枚だなんてすごーい!
記念すべき最後の一枚でしたね♪
ところで、今ってライズではネット上で買えるみたいですよ。私は買ったことないけど、3日前から買えるみたいです。私も今度こちらを使用してみようかな。
とらねこさん、コメントありがとうございます。
本当にお久し振りです。
最近他のブログを訪問することが少なくなり、こちらもご無沙汰してました。
本作は観ようか悩んだんですが、
’68年製作の「うたかたの日々」が面白かったので観ることにしたんですが、私にはこのファンタジックな描写が今ひとつでした。
最近は、ファンタスティックな作品を好んで観ることが多く、銀座シネパトス、シアターN渋谷なき今、ヒューマントラストシネマ渋谷によく行っています。
ちなみに今でもDVDは観ておらず、映画館で観てますよ。
ただ記事のアップが遅いだけで(泣)
そんな汲々とし状況ですが、せっかくきっかけを作ってもらったので、ちょくちょくお邪魔したいと思います。
CINECHANさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
本当!超〜お久しぶりでございました。
CINECHANさんとは、初年度から仲良くさせていただいて、ホラーの話も出来る人で貴重な人材だったのに…
ご無沙汰してしまって、こちらこそすみません。
またこれを機に仲良くさせていただければ、と思います〜。
え!DVDでなく、映画館でご覧になってたんですね。なるほど、UPが遅いだけでしたか…!
私も実は、UPが今現在で2週間ぐらい遅れています。でも、今週で追いつく予定なんですけどねw
書くのは今年ののみにして、去年のは無しにしてしまいました。
あんまり古いと、書く方も大変じゃないですか?
とらねこさん、こんにちは!
ボリス・ヴィアンさんって39歳でお亡くなりになられていたのね・・・。
私もちょっと本を読んでみようかな。
そうかあ、とらねこさんちの記事を読んだら、色々な事が解りました^^ありがとうー。
長いバージョンは、闘病シーンが多かったのね・・・。
私は短い方だけなので、機会があったら、長いのも見てみたいなー。
latifaさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
そうなんです、ディレクターズ・カット版ですと、闘病シーンがすごく長いんですよ。もう本当に人生の大半を辛い思いで過ごす可哀想なカップルの物語でした。
だから、もしかすると短い方であまり好きでなかった人は、さらに気に入らないかもです…。
私は大好きな作品だったんですが、正直世間の評価も真っ二つでした。twitterでも私が猛プッシュしてしまったんですが、皆さんの反応はイマイチだったかも…。
なんかすみません…。