ソダーバーグ引退前の傑作キタ! 『サイド・エフェクト』
私はソダーバーグが嫌いではない。ソダーバーグの熱のこもっていないスタイルだって嫌いじゃない。むしろ案外ファンだったりする。でも、映画館でやってるのを見逃したとしてもあまり気にならないし、DVDで見ようかな、と思うほどでもないんだけど。
さておき、ソダーバーグは引退宣言をしていて、これとあともう一作、今度公開される『恋するリベラーチェ』を最後に、引退するらしい。私は、パヤオだろうとソダーバーグだろうとイーストウッドだろうと、引退宣言だの俳優最後だの断筆宣言だのといった類は、全て信用してない。「これだけ自分は燃え尽きたんだ」と言いたいんだろうな、ぐらいにしか思ってないんだ。だって、みんなちゃっかり戻ってくるじゃない。さもなければ、サリンジャーみたいに何も言わずに引っ込んで、隠居生活でも送ってる。マイクをステージに置いた山口百恵みたいな真似なんて、なかなか出来ないんだよね。
さてこちらの作品、なかなかの傑作でしたよ。何気なく始まり、中盤以降突如として引っ掻き回してくるこの感じが素晴らしい。疑惑の渦中に観客を置き去りにし、アチラコチラに針が触れ、真実は一体!?なんて思わせたところで、ペロっとひっくり返す。この手腕が本当に見事だった!脚本はソダーバーグの他の社会派サスペンス『コンテイジョン』や『インフォーマント!』も書いた、スコット・Z・バーンズ。社会派な視点があってもあくまでも娯楽作品として楽しめるところがソダーバーグ流、今回はまさに真骨頂!
この先ネタバレで語ります*****************
ルーニー・マーラやキャサリン・ゼタ=ジョーンズの演技も良かったんですよね。ルーニー・マーラ演じるエミリーが、初めに事故を起こすシーン、ここで疑問符が湧いたんですよ。一瞬、決心したような顔をしてから壁に突っ込んでいくでしょう。これおかしいな、というのが、後からそういうことだったのか、と合点がいく。それから、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ演じるシーバート医師がアブリクサのペンを渡すシーンもしかり。あと、「毒の霧がかかったように」という台詞の使い方も。それらが全て、エミリー(ルーニー・マーラ)の同僚の女性ジュリアは居なかった、というシーンを境目にして、物事の様相が変わって見えていくんですよね。こうした細かな演出を回収してくれるところがいいんだ!
リアルにはなかったシーンが映画の中に差し挟まれている映画というと、『ユージュアル・サスペクツ』を思い出してしまうけれど、この作品と違い、“あってはいけないシーン”というのはこの映画では1シーンしか無いんですよ。それが、物事の解決の糸口になる、「同僚の女性、ジュリアは存在しなかった」というシーンになるんですよね。あのシーン、ほんの数回カメラの切り返しがあるんですが、後からもう一度別のシーンの合間に挟まれてるんですよね。そんなサブリミナル効果も手伝って、あのシーンが不穏に思えてくる。思い出して「おおっ」と驚いてしまいました。
ソダーバーグと言って舐めずに、是非見て欲しいな。今年、ダニー・ボイルの『トランス』と並んで、新感覚のサスペンス作品2大映画!だと思うので。ダニー・ボイルの方も疾走感があって面白いけれど、サスペンスってジャンルは、ラストにネタバレした後、途端に気持ちが下がってしまったりするんですよね、「なーんだ、そんなことか」って。私はこの作品の後味が結構気に入ってるんですよ。
’13年、アメリカ
原題:Side Effects
監督:スティーブン・ソダーバーグ
製作:ロレンツォ・ディ・ボナベンチュラ、グレゴリー・ジェイコブズ他
製作総指揮:ジェームズ・D・スターン、マイケル・ポレール他
脚本:スコット・Z・バーンズ
音楽:トーマス・ニューマン
キャスト:ジュード・ロウ(ジョナサン・バンクス)、ルーニー・マーラ(エミリー・テイラー)、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ(ヴィクトリア・シーバート)、チャニング・テイタム(マーティン・テイラー)
2013/10/08 | :サスペンス・ミステリ キャサリン・ゼタ・ジョーンズ, ジュード・ロウ, スティーブン・ソダーバーグ, チャニング・テイタム, ルーニー・マーラ
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こんばんは。
ソダーバーグ監督らしい、見せ所満載のサスペンス映画でした~
謎めいた女を演じたルーニー・マーラ、存在感が強すぎるくらいのキャサリン・セタジョーンズ、渋い演技が光るジュウド・ロウなど俳優たちの魅力も満喫できました。
でも、チャニング・テイタムは影薄かったのでは?
私も監督は復帰すると思います。
cinema_61さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
やったー!cinema_61さんもこちらの作品、気に入られたようで嬉しい♪
今回のソダーバーグ作品、なかなか良かったですよね〜♪
ルーニー・マーラさんは本当に、あの危うげさが似合ってる。ゼタ・ジョーンズも最初から怪しいのがピッタリでしたし!うんうん、ジュード・ロウもなかなか良かったです!彼の役どころは、一作前のソダバ作品、『コンテイジョン』と比べるとまた味わい深いんですよ〜!
確かに、チャニング・テイタムは別段彼じゃなくてもいいぐらいでした。トホホ。ま、ソダーバーグさんは、豪華な役者陣を無駄な使い方したりもまた、よくあることだったりするんですよね〜、困ったことに(苦笑)
そうそう、ソダーバーグ監督きっと前言撤回してまた撮ると思うんですよ。
こんばんちょ♪
あっしも見ました。
楽しく拝見できたんですけど、見終わった時にもうちょい踏み込んだ(皮肉った)感じのラストでも良かったのかなーなんて思いました。「マッチ・ポイント」や「ミスト」みたいに・・・
二転三転したのだから、ハピエンではなく、「正義は下された。しかし、それが各々の幸せにはつながらないかも知れない」みたいなね。タイトルも「サイド・エフェクト(副作用)」なんだから
と、思ったのも今の自分の心境の影響もあるのかな?最近、人格を支配しているのは裏サイサンでドロドロなんです。ケケケ・・・
サイ5150さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
わーい、見ましたか!今回の作品の出来には満足でした。サイさんはイマイチでしたか〜。
なんかちょっと…と言いたくなる気持ち分かります。全体的にソダーバーグってアツい感じが無いし、合わない人にはイマイチみたいで。私は割とそういうクールな体質も嫌いじゃないんですけどね…。音楽のセンスなんかも結構好きだったりして。
サイド・エフェクトって確かにタイトルだけでネタバレしちゃってますもんね。「薬の副作用」って意味。ただ私、ラストは十分苦いものがあったと思ってるんですよ。
おや?サイさん、最近裏サイさんが出て来てしまったんですか。どうしたんだろう…。お話が聞きたいなあ。
今度こっそり教えたりしません?(笑)
あ、そうそう、『トランス』も良かったですよ〜!お時間がありましたら是非。あ、明日ってTOHOシネマズデーですねえ♪
とらねこさん、おはようございます。
ソダーバーグのクールさは嫌いではないです。
ポンポン跳ねてるようなボイルの映像感覚から
すれば沈着冷静でね~本作もいい感じでした。
ただ(ホラ来た、笑)役者みんな巧みなのが
返って私にはぎつぎつな感じがしてね~
それがあの落とし方でしょ。
ええ~~い、言っちゃえ言っちゃえ、
鑑賞時、体調不良だったせいにしましょう!
(とvivajijiは逃げる・笑)
ああそうです、「リベラリーチェ」でしたね。
どこかのオッチョコチョイが間違ってましたので
汗かいて訂正しましたよし。(^ ^)
プロデューサーのほうが絶対おカネになる。でもね
才人には儲かったらまた映画作って欲しいよね。
あ、またワタクシですぅ。
確認しましたら
「恋するリベラーチェ」ですね。
ま、どっちにしても
こんどは男同士のアレですわん。(- -)^^
vivajijiさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
お返事が遅くなってしまい、すみません…!三連休もあったり、何かとPCの不調が続いてしまいまして…。
で、そうか、vivajijiさんは今ひとつでいらっしゃいましたか。確かにボイルの方が疾走感はありましたよね。あと、言われてみれば確かに、役者の演技は巧みすぎな感じ、ありますよね。
そか、プロデューサーの方がお金になる…という面で監督廃業宣言というのもあるのかしらね。なんだか、新作の『恋するリベラーチェ』(私もリベラリーチェって間違えて言ったことあるかも…^^;)、とても出来がいいらしいのですが、その割にお客さん全然入ってないらしく…。私が見た時のこの作品も、お客さん入ってなかったですね〜。『マジック・マイク』は小さな映画館とは言え、結構入ってたんですけどね。
やっぱり、ソダーバーグ自身の人気が無いのかなあと…監督廃業は、意外とありなのかもしれませんね。