rss twitter fb hatena gplus

*

田舎の等身大の風景 『5月の雲』

133070362863413232205_c5t01’08年のTIFFで『スリー・モンキーズ』を鑑賞して以来のヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督。鋭利な刃物でまといつく空気の重さを切り裂くような、一風変わった独特な個性を感じる作品だった。もう一度あの監督の作品が見たいなあ…と思っていたところ、監督の初期作品である本作が、「地中海映画祭」にてラインナップに上っていることに気づき、駆けつけた。

私がこの監督の出世作『スリーモンキーズ』で感じたような個性とは本作は違っていた。あの作品は都会の人間の倦怠を表現していたけれど。

本作は、牧歌的な田舎の風景、都会から大分離れ見捨てられた、手つかずの自然を描いている。のどかでどこか忘れられたような風景。ふんわりとした映像を楽しむタイプの作品でありながら、いつしか少しづつ形になっていく人々の姿、自然の姿に好印象を与える。

都会に憧れ田舎を捨ててイスタンブールで職につきたいと願う若者。国の管理する地区にある木々が、いつか切り倒されてしまうことを恐れ、それを何としても守ろうとしている父親。息子は映画製作の仕事をしているが、お金になるタイプの映画を作っているのではない。撮影は俳優を使わず素人の役者を使うため、なかなか上手くいかず、自分の父親と母親を出演させる。いかにもこの監督の本心を代弁したような、等身大の作品だ。誰もが都会に憧れるけれど、そこで失ってしまうものがある。まだ手つかずの自然がそこにあり、人々ののどかな牧歌的な暮らしが息づいていた。

 

関連記事

『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ

結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む

『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義

80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む

『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの

一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む

美容師にハマりストーカーに変身する主婦・常盤貴子 『だれかの木琴』

お気に入りの美容師を探すのって、私にとってはちょっぴり大事なことだった...
記事を読む

『日本のいちばん長い日』で終戦記念日を迎えた

今年も新文芸坐にて、反戦映画祭に行ってきた。 3年連続。 個人的に、終...
記事を読む

2,383

コメント




管理人にのみ公開されます

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)


スパム対策をしています。コメント出来ない方は、こちらよりお知らせください。
Google
WWW を検索
このブログ内を検索
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ

結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...

【シリーズ秘湯】乳頭温泉郷 鶴の湯温泉に泊まってきた【混浴】

数ある名湯の中でも、特別エロい名前の温泉と言えばこれでしょう。 乳頭温...

2016年12月の評価別INDEX

年始に久しぶりに実家に帰ったんですが、やはり自分の家族は気を使わなくて...

とらねこのオレアカデミー賞 2016

10執念…ならぬ10周年を迎えて、さすがに息切れしてきました。 まあ今...

2016年11月の評価別INDEX & 【石巻ラプラスレポート】

仕事が忙しくなったためもあり、ブログを書く気力が若干減ってきたせいもあ...

→もっと見る

【あ行】【か行】【さ行】【た行】 【な行】
【は行】【ま行】【や行】 【ら行】【わ行】
【英数字】


  • ピエル(P)・パオロ(P)・パゾリーニ(P)ってどんだけPやねん

PAGE TOP ↑