衝撃のラストだと!? 『ゴーストワールド』
「ゴーストワールド」について、ここ最近twitterでラストの解釈について色々と話していて、思わず決定打!と言いたくなるようなツイートがいくつも散見されたし、わざわざ私が書くまでもないのだけれど。でも、捨て垢だのサブ垢だのに通りがかりで何か言われるのはたまらないので、念のため私の意見も表明しておくのが筋かな、と。twitterで書こうと思ったのだけれど、ツイートをいくつも分けて投稿すると、脊髄反射されたりするので、一個のURLで事足りるブログがやはり好き。はぁ、誰かとコミュニケーション的距離が近すぎるtwitterって、やっぱり向き不向きありますわ。ましてやこの場で議論するなんてねえ、と思っていたのに、ついついやってしまった…。ふー。
で、本題ですけど、この映画で私が一番好きなのは、なんといってもユーモアが満載なこと。誰かの可笑しな風貌や仕草を嗤ったり、人の一挙手一投足について揚げ足取りをするのは、正直意地悪ではあるけれど、女学生の時分には誰しもやること。ましてや、箸が転がっても可笑しい年頃からずっと仲良しの女子が居ると余計、そこから卒業するのが遅くなってしまう。いい加減大人になれよ、という歳までやってるのがこのイーニド(ソーラ・バーチ)とレベッカ(スカーレット・ヨハンソン)。
この映画が面白いのは、そうしたブラックジョークやカリカチュアが見事で、サーカシズムに満ちていること。サーカシズムって日本語にしにくい言葉だけれど、真逆のことを意味し、歪曲表現のユーモア。ドギツイ冗談ではなく何となくふわっとした可笑しさを感じるユーモアなんですよね。この作品のここが私は一番好きで、まるで『ちびまる子ちゃん』ミーツ『サウスパーク』みたいに、もし毎週やってたら見たくなるタイプのもの。だから、私にとってこの作品の持つユーモアについて全く語らないのは、何とも物足りなく思えてしまうんですよね。
加えて、音楽や美術のセンスも素晴らしくて、今見ても本当に愛すべき映画だなと、惚れ惚れしてしまう。さらには、モテないダメオヤジではあるけれど、実は古いレコードについて詳しい、愛すべきオタクであるシーモア(スティーブ・ブシェミ)が現れてからは、ますます夢中になってしまう!
この先、ネタバレで語ります******************
などとやってると長くなってしまうので、ラストについてだけ。自分の将来に対する不安や、周りとの人間関係に疲れ始め、イーニドにとって人生の苦味がどんどんと増してきたところ。なんと、すでに2年前に運行停止になっていた、来るはずのないバスを待っていた老人の前に、バスが現れるんですよね。そこで彼が立った後のベンチには「not in service」って書いてある。それは目立つからすぐに分かるのだけれど、さらに次にもう一度映ったベンチをよーく見ていると、右上の方に「Life」って書いてあるんですよね。私、これには気づいてなかったわ…。
運行停止している(”not in service”)バスに乗って出かけるヒロインのイーニドを見て、私はファンタジックで夢のある表現だと長らく思っていたんですよ。このラストの少し前の方で、「私の本当にしたいことは、何も言わずにこの街を出て、どこか別のところへ行くこと」っていう台詞が語られる。高校を卒業して、右も左も詰んだ感満載なモラトリアム期を過ごし、最悪な思いを経験してたイーニド。でも、ようやくこの街(スカタンばかりの”ゴーストワールド”)を離れる決心がついたのだ、と。そのままグズグズ留まる人が多い中、出発する気になったイーニド。本当は来るはずのない“夢のバス“に乗って、どこか知らない街に旅に出る…。ユーモアのセンスのあるキュートなイーニド(男にたとえモテなくたって、本当に可愛い!)は、たとえ周りに対し半端な失望感を抱きながらも、いつかは彼女も大人になっていくのだろう、ってね。私自身がそうであったように。
ところが、「もうすでに運行停止になっているバスに乗るってことは、彼女は自殺した」。そんな意見の人が多く居たんですね。私は正直、全くその可能性を考えていなかったんですわ。お恥ずかしながら。だって、大好きな青春映画のナンバー1がこれだったんだもの。最後にそんな絶望に突き落とすラストじゃ、嫌なんですよー!って。
でも、もしかしたら。
それこそ、「運行停止のバス」だからって、イコール冥界行きのバス、とは限らないでしょう?
”死んだ世界”ゴーストワールドにおさらばして、“生“Life行きのバスに乗ったのが、彼女の方なのかも。なんて解釈はアリ?
…でもこれやっぱり、「Life」が「not in service」だよね。
とまあ、そんなふうに曖昧さを残した表現なおかげで、いろいろと考えてしまったのでした。
こちら、原作者のダニエル・クロウズと、監督のテリー・ツワイゴフが共同で書いた脚本。ダニエル・クロウズ自身が書いたイラストが、この作品の中で多く使われていたり、主人公Enid Coleslawは原作者Daniel Clowesのアナグラムだとか。テリー・ツワイゴフとダニエル・クロウズのインタビューを読むと、ダニエル・クロウズはイーニドが自殺したかどうかについて、否定しているのですよね。自分の書いた漫画の世界と同じものを創りだす意図であった、と。監督のテリー・ツワイゴフは、見事にどの質問も交わしています。こちらは、どうやらはっきりと語るつもりはないみたい。
なんだか、もやもや。うーん…。究極的には、このインタビュアーの言った一文、「両義的に取れるところが素晴らしいですよね」。これが一番心に残りました、このインタビュー(苦笑)。
’01年、アメリカ
原題:Ghost World
監督:テリー・ツワイゴフ
製作:リアンヌ・ハルフォン、ジョン・マルコビッチ他
製作総指揮:ピッパ・クロス、ジャネット・デイ
原作:ダニエル・クロウズ
脚本:ダニエル・クロウズ、テリー・ツワイゴフ
撮影:アフォンソ・ビアト
音楽:デビッド・キティ
キャスト:ソーラ・バーチ、スカーレット・ヨハンソン、スティーブ・ブシェーミ、ブラッド・レンフロ、イリアナ・ダグラス、ボブ・バラバン、テリー・ガー
2013/09/22 | :青春・ロードムービー
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