こんな邦画を待ち望んでた!ただ… 『許されざる者』
日本映画でこの佇まいは…!
イーストウッドの監督としての出世作と言ってもいいでしょう、『許されざる者』。まさか日本映画でこれを見る日が来るとは。おそらく誰もが予想していなかったことだし、こうしたことにチャレンジしてみよう!なんてその野心だけでも評価してあげたいところ。
私自身、イーストウッドの監督作を初めて見たのが、この作品。おかげでイーストウッドについての思いを新たにすることとなった。見終わった後飲みながら一緒に行った友人に、散々御託を並べてしまったのを思い出します…(あの時はスマン…)。
この作品をここまでのものに完成出来たのも季相日監督の手腕だろうと思うんですよ。日本映画界では残念ながら、これが出来ただろう人を思いつくことが出来ない。それだけでも本当に立派だったと思うし、あの何とも言えない錆びた色合いの風景が、バッチリ心に焼きついた。西部劇が見事なまでに、日本の寒村に取って代わることが出来たと思う。
それから、アイヌを描いたところも素晴らしかったと思う。イーストウッドが『グラン・トリノ』においてアジア系の少数民族のモン族を描いたように、アイヌを取り上げたところに一番グッと来た。日本映画でほとんど語られることのないアイヌを。
以前大学生の頃友人と呑んでいる時、ハーフの友人が「日本はハーフを奇異なものとしてすごい好奇心の目で見る」と言ったことがあった。それを受けて自分が「日本は単一民族だし、島国だから…」などと言ったところ、その場に居た別の友人に思い切り怒られたことがある。その人はアイヌの出身だった。(ハーフだったのかもしれないけれど。)日本が単一民族国家だなんて言うのは、日本人の傲慢だと言われた。その通りかもしれない、私の知識が浅かっただけなのかも、と初めて見たアイヌ出身の彼を見ながら思った。彼は北海道出身の人だった。友人はフィンランド人とのハーフ。いじめられて、小学生の頃に登校拒否になったことがあった。
この作品に戻るが、どこか乗れなかったところもある。この時代を描いた作品は好きなのに、ここで語られる重苦しい物語性にドップリ浸かることが出来なかったのは…何故だろう。単に自分の体調や、ムードのせいかもしれないけれど。今年の自分は、ホラーがあまり見れないせいもあって、どうにもボンクラ作ばかりを欲しているんですよ。あと、動機の部分が弱いようにも思った。
この先ネタバレですが*********
食うためだけにもう一度手を汚すことにしたこと、仲間のために単身乗り込んでいったこと…。ここぞというところで思わず物語にのめり込むような、強い動機が欲しいなと。 アートワークまでイーストウッド作にソックリ。
’13年、日本
監督・アダプテーション脚本:李相日
製作総指揮:ウィリアム・アイアトン
製作:久松猛朗
ゼネラルプロデューサー:小岩井宏悦、石田雄治
プロデューサー:久保田傑、高橋信一
原作:デビッド・ウェッブ・ピープルズ
撮影:笠松則通
キャスト:渡辺謙(釜田十兵衛)、佐藤浩市(大石一蔵)、柄本明(馬場金吾)、柳楽優弥(沢田五郎)、忽那汐里(なつめ)、小池栄子(お梶)、國村隼(北大路正春)、小澤征悦(堀田佐之助)他
関連記事
-
-
『殿、利息でござる』の志高い傑作ぶりを見よ!ただのイイ話と思いきやとんでもない!
選挙が終わった。今回の選挙はもしかしたら戦後最大の争点になるかもしれな...
記事を読む
-
-
『我が至上の愛 アストレとセラドン』泥沼悲劇は途中から転調して…
“愛”について語る時に必ず付いて回る、R...
記事を読む
-
-
『フルスタリョフ、車を!』 ロシア的なるものの恐ろしさを堪能せよ
ロシア映画で1番ロシアらしさを感じるのは、私にとってはこの作品かもしれ...
記事を読む
-
-
『神々のたそがれ』 泥土と汚物と臓物と
ぐおお!! グチャグチャの泥土&飛び出る臓物&臭そうな臭気にまみれた映...
記事を読む
-
-
新たな古典 『悪童日記』
なんて素敵な怪作なんだろう。 狂った時代の、狂った兄弟とその家族の物語...
記事を読む
コメント(6件)
前の記事: アイルランド観光スポット【その他お城特集】
次の記事: アイルランド観光スポット【ディングル半島】
私は昔、17世紀の北海道を舞台にした企画を立てて、いろいろ調べて現地取材もしたのですが、アイヌの話なんて商業映画として成立しないとボツに。
それだけにこの映画の見事さに嫉妬します。
もう一回企画作り直してやろうかしら。
いやそしたらマネしたって思われるかな、、う~む。
ノラネコさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
へえ、ノラネコさんもアイヌの物語を映画化しようって企画されたことあったんですね。
うん、やって欲しいです。でもやっぱり、今からやると真似になっちゃうな…。
こちらにも☆
わたしもアイヌを盛り込んだところが、すっごく良かったと思います。
特に柳楽くんが成長してて、いい演技をみせてくれましたよね。
役者も映像もすばらしいのに、私もどこかのめりこめませんでした。
それが何故なのか、どうしても判らなくて・・・
ノルウェーまだ〜むさんへ
こちらにもありがとうございます♪
ですよね!柳楽くんの演技凄かったですよね。さすがだなあと惚れ惚れしちゃいました。
私もそう思います。この世界に没入出来るほどの魅力は感じないんですよね。特に、オリジナルより良かった…なんて言う人には、正直がっかりしちゃいます。
途中まで完コピかよと思いましたが、あちらは先住民族は、入っていませんでしたね。いい脚色だと思います。いや立派なリメイクでした。
個人的には、特に、リチャード・ハリスを超える國村のオヤジの演技を堪能しました。
という点を含めて、わたしはオリジナルより良かったですよ。
動機は弱いかもしれませんね。弟のほうは、そんなに悪人でないし。
バラサ☆バラサさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
西部劇が邦画になってしまうなんて、ちょっと予想外でしたよね。先住民族を入れたというアイディアもとっても良かった。
國村さんに感激されましたか!ふむふむ
ムム!オリジナルより良かったですか。私はあのオリジナルは、“イーストウッドがやるからこそ意味がある”という部分を特に意義深く感じているので、その点がどうも…。