映画文法を壊した不思議な映像と音楽 『私たちの好きな八月』
『熱波』のミゲル・ゴメスの作品を、ユーロスペースの「ポルトガル映画の巨匠たち」特集にて。本当は『自分に見合った顔』の方を見たかったんだけれど、その前に時間のあったコチラの作品を先に見たところ、『自分に見合った顔』の方は、思わずパスしてしまいたくなったという…。そして『熱波』は今のところ未見。
物語は一部と二部に分かれていて、一部はこの映画を作る前段階の話。地元住民の色々な話を集めてきたゴチャっとした映像たちだったり、音楽フェスティバルの模様や、映画の進行状態の撮影陣のトークであったり、まるでメイキング映像。そこに二部がおもむろに始まる、映画本編の物語部分だ。とはいえ時々唐突に俳優たちの本音の姿などが映される。アイジェイ・ワイダの『菖蒲』でも、”この映画を撮影時の、女優である自分に起きた出来事との相関”について描かれていたけれど、そうした意味深いものでは決して無く。「素人で台詞も覚えるのが辛いのに、直前になって急に台本が変わったりする。本当、勘弁して欲しい」などと言ったりの本音が飛び出したり、「スーツを着て、旅をしながら撮影が出来るなんて思ってもみなかった」「自分はカラオケボックスで突然今回の話を受けた」などの裏話。そしてまた映画に戻って行ったりする。何とも自由。
家を出て行ってしまった母親の代わりに、娘を溺愛する父親と、いつしか愛し合う従兄弟同士の、青年と少女の恋。なんだか、映画とドキュメンタリーの境界線を思い切り薄くしたような、変わった作りの映像なのでした。ラストには音声さんの突然の自己主張があって、森林の静かな部分でも勝手に音楽を鳴らしてしまうことについて、ミゲル・ゴメス監督が文句を言い始める…という風に。
とは言え、ポルトガルの暑い最中、音楽が其処此処にかかる様が好きだった。まるで映像から熱が伝わってくるような思いがして。映画自体の面白さには正直欠けるかもしれないけれど、夏と音楽の組み合わせにはついついやられてしまう。自分も体験したことのあるような、音楽フェスティバルでのあの楽しさと疲労。いつの間にか音楽が炙り出されて、そこだけを味わい尽くすかのように、音楽を喜んで堪能する私が居た。
’08年、ポルトガル、フランス
原題:Aquele Querido Mês de Agosto
監督:ミゲル・ゴメス
脚本:ミゲル・ゴメス、マリアナ・リカルド、テルモ・シェーロ
撮影:ルイ・ポサス
キャスト:ソニア・バンデイラ、ファビオ・オリベイラ、ジョアキン・カルバーリョ
2013/08/04 | :音楽・ミュージカル・ダンス ポルトガル映画
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